【1章】待ちぼうけ
店内で待つこと数分。
「こちら温めっすかー」
なかなか彼は忙しいらしい。
「フライドポテト、チキチキくん、揚げたてーっす。いかがっすかー」
というか1人なのだろうか。そういえばさっき店内にお客さんはいなかった。――従業員らしき人もいなかったが。
「お兄さーん今日1人なのー?」
「……っす。店長帰って来るんで」
「なんだーつまんないのー。あ、チキチキくんのハバネロサラマンダー2つね」
そしてなかなかモテる?らしい。
「Hold it! Your money or your life!」
「……Ah? Who do you think you're talking to?」
「(……)」
その上英語も達者らしい。ちなみに彼は後者だ。
「んー、あと13番」
「未成年のくせに煙草吸うな。……230えーん、合計816円になりまー。お箸お付けしますかー」
意外ときちんとしてるのか、どっちにしろ仕事はちゃんとするらしい。
「ありがとござっしたー……あ」
と、今までめまぐるしく変化する状況に対応し、滞りなく業務をこなしていた彼が――止まった。
「やあ〜はっくん。店番ご苦労」
「店長、遅いっす」
どうやら今まで店番を任されていたようで。
「だいじょーぶ。超過分きっちり残業代出しとくから」
「巽はまた遅刻っすか」
「だいじょぶだいじょーぶ。超過分きっちり給料から差し引いとくから」
「そーっすね。じゃあ、疲れさーんっす」
アハハ〜と笑う店長と思しき人との雑談が聞こえた後、バン、と少し荒く扉が開かれた。
「……」
途端、ギロりとこちらを睨んできた。
げっそりというか、疲労困憊というか、とにかくウゼェ的なオーラをあたしに投げかけてきている。そうされても困るのだが。
「どうして、ここに」
「え、ぉわっ……斯く斯く然々?」
突然着替えだした彼に驚くも、相手は気にしていないようなのでスルーすることにした。まあ部活でもよくあることだ。
「まさか、逃げ出した?」
テキパキ……と言うにはあまりにもスピーディーな身のこなしに一瞬見入ってしまうも、すぐに我に返った。生憎、そこまであたしは変態じゃない。
「はあ、そうなんですけど」
「……ブラックフォードさん怒りませんでした?」
「激怒してました。してましたけど、逃げれて、そこの坂で鳥のオバケに襲われて、助けられて、戻って来ました」
「誰にっすか」
カチャカチャとベルトを絞めながら彼は壁に貼られた紙を凝視している。
「椿、さん?て人」
「つば……」
制服のブレザーを羽織ったところで、漸く視線があたしを捉えた。
けれどその瞳は驚愕に見開かれていて、口も半開き、絵に描いたように驚いた顔をしている。
「え、」
その変化に不安を覚えたのも束の間。
「どういうことだ」
そう呟いた彼の表情は既にいつもの無表情に近いものに戻っていた。
「とりあえず帰ります」
そう言うや否や、あたしの返事を待たず裏口から出て行ってしまった。
取り残され、たと思いきや。
「……はやく」
忘れ物感覚で、もれなくあたしも引っ張られ店内を出た。