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紅の末裔  作者: みるく
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【序章】近づく別れ

さて話は逸れるが、あたしの名字は阿蘇の『蘇』に芳醇の『芳』と書いて『すおう』と読む。語尾に『おう』が付いているせいかちょっと凄い家系なのかと思われたりするが全く以てそんなことはない。



実家はド田舎でおとんは公務員、おかんは某農業組合の管理職、まあ副業で農業的なのやっちゃうかーなノリのけっこうファンキーな家系に育った。唯一あたしと血を分けた弟は、悔しいことに顔も頭も出来がいい。だからあたしの中では割と脅威の存在だ。



あえて普通じゃないことと言えば、食欲と睡眠欲が旺盛で、極度の人見知りで、極稀に勘が冴えまくることくらい。



現にさっきまで脳内全てを支配している眠気と1限に撃沈したテストのダメージで夢の中にいた。聞こえは悪いけれど、ちゃっかり人間の3大欲と呼ばれるモノのひとつと共存していていたりする。



「……と、このようになる。えー、もう時間だな。今日の講義はここまで」


「(おぉ。よっしゃぁ授業終わりー)」



最近はちょうど授業が終わる頃に夢の中からカムバックするようになってきたからある意味、居眠りを極めたかもしれない。



「やばいね〜来週のテスト」


「え?」


「まーた聞いてなかったのあなたー。来週は中間テスト」



魚屋の3代目、一番仲良しの千絵子チエコ。まったりとしたツッコミが彼女の持ち味は、大事な連絡やノートのヘルプ、悩みの相談相手からショッピングまで、なんでも受け入れてくれる親友的存在だ。



荷物をまとめながら外を見ると、すでに真っ暗になっていた。冬は日が短いから困る。



「まぁ来週ならなんとかなるよたーぶーんーあはは」


「プリントは見せないぞ〜」


「え」


「……じょーだん」



じょ、冗談ですかそうですかー。千絵子が言うとリアルに聞こえるのは何故だろう。



「そーいえば今日部活?」


「まぁねー……さむっ」



廊下に出るとやっぱり寒い。



部活が終わる頃には激寒じゃんよーと内心嘆いていたら、ふとポケットの中身がピカピカしながら振動していることに気付いた。



「……わお」



突拍子もないメールに思わず足が止まる。



仕分けしてある受信ボックスのおかげでそれが部活の類なのは一発でわかった。



わかったけども。



「どーしたのー?」


「んー、これ」


「……あら〜」



なんだか盛大にやる気とミントン魂を削がれて話すのも面倒だったので画面をそのまま千絵子に見せた。





今日の部活ですが

急きょ休みになりました


明日の

剣道大会の会場設置のため

だそうです


よろしくm(_ _)m





いつものことながら急な予定変更だ。こっちの身にもなれよ、と思ったものの今に始まった話ではない。それに今は少し都合がよかった。



「帰る〜?」


「いーや、課題やって帰るわあ。今週いろいろとヤバいんで」


「うん、そっか。じゃぁまた明日」


「また明日ね。寝坊するなよー」


「あっはは〜。気を付けます」



朝の苦手な千絵子のために、いつもあたしが一言言うのが日課になっている。お互いに笑って別れることも。実はそれが一番幸せなことで一番難しいということも最近知った。



独りになるのは好きだし楽だし何より落ち着くけれど、考え込んじゃうから本当はすごく怖い。大勢の人間を前にするのはもっと怖い。自分でも信じられないくらいに喋れなくなって、涙が勝手に溢れてきて。他人にツッコまれるまで人間不信になってることすら気付かなかった。



そんなあたしを黙って受け入れてくれたのが千絵子や安曇、同じ学科の友達だった。



「(まぁーこんなこと考えててもキリないんだけど!!)」



本当に、キリもなければ意味もない。



「ばいばーいっ」



いつの間にか俯いていた顔を無理やり上げて、これからバイトに行く千絵子を見送った。



「(さってとー。そんじゃまぁ、さっさと課題終わらせますか!!)」

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