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紅の末裔  作者: みるく
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【序章】その手は狭間から

誰でもいいから助けて欲しい。ブラックフォード家と関係のない人で!!



「(てゆーかここ……またよくわからない場所に連行されたっぽいなー)」



男の人のドアップでスルーしそうになったけれど、あたしはいつの間にか建物の中にいた。



だけど両サイドは物という物が積み上げられているせいで壁のようになっている。極限に狭っ苦しいことこの上ない。



加えて見通しは悪い、室内は薄暗い、と悪条件がジャストミートしているにも関わらず、サクサク奥へ進んでいけるのは多分建物の構造を把握してるからだろう。把握といっても物の壁のせいで一方通行だが。



ここはぜひ不法侵入じゃないことを願いたい。



状況から察するにあたしはまた知らない人に助けられたらしく、屋内へ入ったのもあの鳥さんから逃れるためだろう。



幸か不幸かこの暗さのせいでハッキリと相手の顔は確認出来ないけれど、レスターブラックフォード関連の人なのはさっきのセリフで明らか。早く逃げないと……



「……っ」


「どうした。さっきの怖かったか?」



末恐ろしい結末に、僅かに息を呑んだことに目ざとく気付いた男の人はまるで子供を宥めるかのような口ぶりであたしの顔を覗き込んできた。



いいえ全くですってゆーか離して下さいてかさっさと離しやがれ変態



とは敢えて言わずに飲み込んで、仮ブラックフォードさんの時みたく黙って頷いてイイ子ちゃんを演じてみる。



「ハハ、そうか。だけどウソはイケないなー」


「!?」



おどけたように笑っているのにいきなり核心を突かれて、思わず血の気が引く。



「離して欲しいなら遠慮なくそう言えばいいんだ。な?」



お姫様抱っこのことを指すそれに、心の中を読まれているような気がして少し戸惑いがちに視線を外した。外すしかなかった。



けれど男の人はそんなあたしを大して気にするでもなく、意外にもあっさりと床に下ろしてくれた。



そうしてすぐにあちこち物色しながら奥へと進んで行ったため、あたしも慌てて後を追う。



「……お!!こんなとこにあったのかー」



あっははーと笑うそれはあたしに向けられてるのかイマイチわからない。



男の人を見ると、今見つけたらしい小さなそれをあたしの目の前に持ってきた。振り子のように揺れているのはチェーンに繋がれた鍵で、ロクに見る間もないうちに再び手中に収めると、またズカズカと奥へ進んで行ってしまった。



なんだかマイペースな男の人を気にしながらも、あたしは改めて周りを見回してみる。



ハッキリ言って、汚い。とはいっても物自体がどうとかじゃなくて、ただうっすらと埃が積もっているだけだ。その証拠に、今し方鍵があった場所にはくっきりとそこだけ本来の素材の表面が顔を出している。



毎日ハタキでパタパタしないの!?と思うも、それも綺麗好き以上潔癖症未満のあたしからしたら、の話。



主に壁を構成しているのは家具や置物的なもので、置き方や積み上げ方は一応配慮がされてあるっぽい。しかもよくよく見ると数字が書かれた紙がひとつひとつに付いている。



物置にしては建物の造りが小さい気もする。それにあの紙。あれが値札だとしたら、さながらアンティークショップのような感じだ。



「おーい。だいじょぶかー」


「は、はーい」



物色に夢中になっていたあたしを呼んだ男の人は、数歩先で手招きをしていた。



見通しが悪く、物づたいで何とか辿り着くと、そこにはビニール袋に詰まった何かがゴミ捨て場よろしく積み上げられていて、すでに男の人の上半身は袋の山に埋まっている。



「あのー……」


「悪いなーちょっと待ってくれー」



鍵穴がーとぼやく声もビニール袋に反響してヘンテコに響いている。



てか待つとか待たないとか以前に窒息死するんじゃあ、と男の人の救出を試みようとした時だった。



「よっ、と」


「……へ?」



パチンと何かが外れる音と同時に、にゅっとビニール袋の壁に吸い込まれる下半身。



事態が飲み込めないあまりに素っ頓狂な声を上げたあたしを余所に、男の人はズルズルと壁の向こうへ入ってしまった。そもそも壁の向こう側があるかすらわからないのに。



けれどそれも束の間、ガサッという耳障りな音に驚いていると、突如ビニール袋同士の隙間から両手が伸びてきた。ギョッとして後退りすると、ぷはぁ〜と男の人が顔を出した。



「……ホラ」


「はい?」



ビニール袋の隙間から生えた人間が手招きしてくる様はそこはかとなく恐ろしい。



けれど呼ばれている手前、逃げるわけにもいかなくて恐る恐る近付くとガッチリと両手を掴まれてしまった。



「頭こっち」



と、顎で己の方をしゃくる。



「引っ張るなー」


「引っ張るってどぉうっぷぷ……」



何となく聞き捨てならないセリフと共に強い力で引っ張られ、それに耐えかねた膝がガクリと折れる。



まさか、と思った時には肘まで、そして喋り終わる前にあたしはビニール袋の隙間へ引きずり込まれていた。

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