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紅の末裔  作者: みるく
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【序章】浮き世とあの世は紙一重

観光できるから!!



という両親の一言で、実家から数百キロも離れた観光都市の郊外であたしは一人暮らしを始めることになった。なんでそこまでしなければいけなかったのかはまた別の話。



とにかく引っ越すなら学校の近く!!と越してきたのが風呂トイレ別、ベッド備え付けの築16年ワンルームの下宿だった。



そこから学校までが歩いてだいたい20分。近くに山々を臨み、傾斜となっている地形の上部に小高い丘に大学はある。



その隣、建物を囲うように2面あるグラウンドの隅に仮ブラックフォードさんのおうちはある。若干林も挟んでいるためお隣と言うには多少語弊があるが。



今はそれどころではなかった。



「(とりあえずおばさんに知らせなきゃ……!!)」



何のミラクルか拉致られた場所がおうちのすぐ近くだとわかった瞬間、頼るべき人として即頭に浮かんだのが下宿の管理人さん、つまり家主のおばさんだった。



通信手段が皆無の今、頼るべきは第二のお母さん!!と猛ダッシュで坂を駆け下りる。



が。



「(なーんか、おかしい)」



見知った場所の筈なのに、何か違和感がある。既に陽も高いのに、人がいない。



「(荒んでるってゆーかなんてゆーか……)」



そう思っているうちに大きな通りに面したコンビニの横に出た。



ここで傾斜は一段落。通りの向こうからはまた同じように住宅地が広がっている。



このままずっと下まで下れば下宿、途中まで下って左折すれば……あたしが拉致られた現場だ。



「(と、とにかくおうち!!)」



身震いしつつも走り出そうとした、その時。



「うっわー!!あれが噂の侵入者!?僕初めてーっ」


「なーなー、しんにゅーしゃって?」



どこからか、男の子の話し声が聞こえてきた。静か過ぎるせいか、その会話はよく響いた。



「侵入者?侵入者はあっち側の世界から来たヤツのことを言うんだっ!!ここ数年は例がないけど、たまーに可哀想なヤツはこっちに紛れ込んじゃうだってさっ」


「あっちがわのせかい?」



少し高めの、まだ声変わりしきってない声音に少なくとも危ない人じゃないことだけはわかる。だけど言ってることは意味不明、男の子の片方は間延びした声でずっと質問しかしてない。話し方からして小学生か保育園の年長さん辺りの子か。



「(そう言えば向かいの路地に小さな電気屋さんがあったしそこのテレビの音かな)」



そう思いつつ、車1台通らない通りを渡り住宅街に入ろうとした時だ。



「あっち側の世界?あっち側の世界はあれだよ、表の世か」


「あー!!女の人いっちゃうよー?」



得意気に話す男の子を遮った言葉に、心臓が一際大きく脈打ったのがわかった。



『女の人』って、もしかしてあたしのことを言ってるのだろうか。



いつの間にか止まりかけていた足に意識を戻して走り出そうとすると、またあの声に引き留められた。



「あー、大丈夫!!ホラ、あそこに紅様が!!」


「こーさま?」


「ホラ、向こう側に!!」



男の子の声につられて何となく坂の下を見通す。向こう側、には何もない。



何だか気味が悪くなってきて今度こそ走り出した、その時。



「どこー?」


「だぁーかぁーらぁっ、向こう側から飛んできてるでしょっホラーっ!!」


「(飛んで……っ!?)」



何が飛んで来るって!?などと考えてるヒマはなかった。



「あ〜!!」



相変わらずマイペースな男の子は歓声に近い声を上げ、こーさま〜と、誰かの名前を呼んでいる。



間髪入れずに突然あたしの背後から大きな影が現れ、さすがにこれには驚いた。



「っ!?」



久しぶりに顔を出した太陽を背に風を切るその巨影は、鳥。



クアレよりも大きくしなやかな体躯を靡かせて空を舞う幻想的な姿に、今度こそ足が止まった。



そんなあたしを現実に引き戻すかのように、なんとその鳥はまるで獲物を見つけた鷹のごとく、こっちへ向かって突如急降下を始めた。



「(こんなの聞いてなーいっ!!)」



とにかく走るしかなかった。相手はあたしのことを二足歩行のネズミか何かと間違えてたりするのだろうか。



走るのが大の苦手だってゆうのに、走るしか生き残れそうな手段がないなんて滑稽だ。



「……なーなー、こーさまどこだー?」


「あっれー?てっきり紅様も一緒かと思ったけど、今日は火烏カウだけかっ。餌の時間?かなぁっ」


「かうー?」


「(エサノジカン?)」



末恐ろしいセリフに悪寒が走って一瞬後ろを振り返ると、鳥は想像よりも大きな爪をフルに開いて直滑降してきていた。しかも足が3本に、見える。



「(さん、ぼん、あし……)おばけぇえええええーっ!!」



やはりあたしは夢を見ているのだろうか。だとしたらかなりリアリティーでクリエイティブ且つデンジャラスでアグレッシブだと思う。



「(あぁ、もしかして逆に鳥さんに食べられれば夢が覚める?押して駄目なら引いてみろ?)」



時に逆転の発想は重要、とそこまではよかった。



「み゛ぃっ!!」


「「あ。コケたー」」



謎の声、ハモらんでいいから!!余計な場面でチームワークのよさ発揮しなくていいから!!



「氷踏んだなっ」


「こおりーつるつるー」



悔しいけれど彼らの言う通り、あたしは盛大にコケた。原因は日陰に限ってまだしぶとく生き長らえてる氷。



「(ちくしょう、道の氷なんてこのあったかさで全部溶けちゃえばいいよ!!)」



でもこれでちょうどよく鳥さんに食べられたら夢から覚めるかもしれない。ただ夢にしてはリアルな痛みだったけれど。



「あ!!あいつ諦めたぞっ」


「えさのじかんー」



立つのも億劫だしどうせ鳥さんに食べられるからいいかなーと思い、地面にくっついたまま目を閉じた。



その間にも風を切る音と空気が混ざる感覚が段々と鮮明になり、鳥さんの接近を知らせる。



「(かみさまほとけさまぷりんさまめりたんさま……!!)」



思いつく限り頼りになりそうなものの名前を頭の中に浮かべていると、一際大きな風が轟音と共にあたしを包んだ。



「……」



ふわっとした浮遊感と静まり返った空間に、作戦通り夢から覚めたのかと恐る恐る目を開けた。



「……え」



至近距離に、人の顔。



「(てゆーか待ってあたしお姫様抱っこされてる、しかもまた知らない男の人に、え、何、ここどこ?まさか本当に食べられちゃって天国に飛ばされた?)」


「やぁ彼女。あんなアブナい場所、1人で散歩してちゃ駄目だろう?ったく、レスターは何やってるんだか」



あたしを抱えたまま、やれやれと首を振る人。そして最後の一言にまたも混乱することになる。



「(てゆーかレスター?レスター、ブラックフォー……ヤツかぁあああああ!!)」

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