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紅の末裔  作者: みるく
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【序章】銀世界への脱出

「(何やってんだあたし。勘を信じて逃げたはいいけどここってあの人のおうちじゃん。逃げ場ないじゃん!!)」



恐らくここは寝かされていた部屋の筈。なのに荷物がない。



「おい」


「っうぇえ!?」


「なんつー声出してんだ」



いつの間にか部屋の出入り口に立っていたのは未だあたしの中で仮が取れない仮ブラックフォードさん。



勢い余ってずざぁーっとベッド脇にスライディングしたところを一部始終を見ていたらしく、呆れた様子で見下ろしている。



「朝メシはちゃんと食ったのか」



唐突な質問と思ったよりも落ち着いた声音で、どこかへ吹っ飛んでいた思考回路は若干元に戻る。



「いっ、いただきました。ごちそうさまです……」


「そりゃお粗末様」


「(うーんなんだこの人。意図がわからない、てか表情が読めない)」



壁を背もたれにこちらを見据える彼とあたしは暫く目を合わせないでいた。だけどその間、あたしはもちろん彼も無言。



気まずい空気に耐えられなくて恐る恐る視線を合わせると、彼は目を細めて漸く口を開いた。



「さっきの話、聞いてたのか」



斜めった状態で問われたそれには頷くことで答えた。



「怖かったか」



あたしの反応に気を良くしたのか、次の質問が飛ぶ。



また言葉では答えないで今度は頭を振った。



「そうか」



ハ、と息をついた仮ブラックフォードさんは何を思ったのかずんずんと近づいて来た。



反射的にあたしはなんとなくベッドを膝立ちで移動して反対側へ行き相手と距離を取った。



「……」


「……」



一瞬お互いに目が合い動きが止まった、かと思えば今度は大きく1歩、彼がこっちに近づく。



あたしはそれを回避したくて大きく1歩後退。これでイーブン。



と思いきや相手は1歩、2歩、3歩とまたまた距離を詰めてきた。



ほとんど条件反射のように1歩、2歩と後退したところで壁と激突。意外、というより普通に痛いのも気にせず壁伝いに出入り口へ向かいまた1歩、横へ移動した。



いたちごっこに痺れを切らしたのか、ハァーッと大袈裟に溜息をついた彼は足を止めた。



「あのなぁ」


「……、何か」



一瞬答えようか迷ったものの、とりあえず当たり障りのない回答で様子を見ることにした。



「お前まさか、また逃げるつもりじゃねーだろうな」


「へ?」



まさかの、図星。



ジーッと見定めるように見つめてくる視線が痛々しい。この手のタイプは勘が鋭いというか、嘘を突き通せないタイプだ。



でもこんなとこでめげるわけにはいかない。



「(じぃーっと睨みを効かせてぇーっ、)……あはっ」


「……は?」



にぱっと笑ってお花なんかを飛ばしてみる。怪訝そうに見やる彼は見ないふり。



「ちょっとトイレですっ」


「んだよ、さっさと行って来い」


「(よーしよし、この流れでゆくっ!!)ちなみに場所はー」


「廊下の突き当たりだ。階段と反対の方のな」


「どうもー。あ、ついでのついでに階段降りるとどこにー?」


「エントランスに決まってんだろ。さっきいたじゃねーか」


「ですよねーわかりましたーそれじゃぁーわたくしはこれにて失礼しますーお世話様でしたーお邪魔しましたーっ(今だ逃げよう全力で!!)」


「おーおー茶の1杯もも出さねぇで悪かったな気をつ……ってコラァアアアアアッ!!」


「ひぃーっ!!(やっぱダメだったぁあああああ!!もう荷物捨てる!!安全確保!!)」



一心不乱に部屋の出口へダッシュ、手を引っ掛けて遠心力に身を任せ直角に左折する。もげそうな手を何とか離して階段へと向かえば、その手を何かが掠めた。



「チッ……待てコラ犯すぞオラ゛ァアアアアアッ」



瞬間、背後を振り向けばあたしの手を掴み損ねた彼が声を張り上げて追いかけて来ている。



「クアレ!!」



転がる勢いで階段を駆け降りていると、ぴゅいーっという指笛とわんこの名前が屋内に響いた。



クアレの名に血の気が引くも、今更勢いが止まるわけもなく。



さっきの手法でぐわっと玄関へ通じる階段を右折すると、



『……』



いらっしゃった。奇跡的わんこ、クアレ様が。



こっちを見上げるその瞳はすでにあたしをロックオンしている。階段の5段目くらいに片前足を掛け、尻尾をフリフ……リ?フリフリって!?



「クアレ、さっきの褒美だ!!そいつが遊んでくれるってよ」


『……!!』


「(あぁ、これは死ぬわ)」



明らかに目をキラーンと輝かせたクアレの、それはもう大きな大きなナイスバデーが突っ込ん……もとい、じゃれついてこられてはひとたまりもない。そして後ろには鬼の形相、仮ブラックフォードさん。



背後に迫る手、空を舞う巨体、出口は目の前。



「(このままじゃ本気で黄泉の国へ吹っ飛ばされ……)」



その時視界の端に映ったのは、階段には必要不可欠のオプション。その名も手摺り。



厚めの造りに木材でできたそれ。ぺしゃんこにされず且つ捕まらない方法。



「(キタコレ……!!)」


「捕まえ……っ」



瞬間、あたしは真横に向かって飛び退いた。標的は下の階へと延びる手摺り。若干お腹や肋骨にキたものの、なんとか飛びつき成功。



『!!』


「だぁあああああっ!!」



仮ブラックフォードさんはもちろん、さすがのクアレも反応出来ず、衝突する1人と1匹。



それを尻目に一気に下まで滑り降りて、手摺りがなくなるところで床に着地した。



振り返れば数段上では伸びた仮ブラックフォードさんの顔をクアレが舐め回している。



それにほくそ笑んで、あたしは一目散に駆け出した。



はぁ。それにしても小学校の頃よくやった手摺り滑りがこんなところで役に立つとは!!伊達に滑り倒してない、あたし。



「おっじゃまっしまっしたぁ」



バン、と扉を開け放った直後──



硬直。



カラッと晴れた青空。



降り積もったパウダースノーが時折風と共に住宅地へ舞い込んでいて、傾斜からなる住宅地の側面に位置する小高い丘に建つそれは紛れもなく、あたしが通っている大学。



そう、ここは。



「(学校のお隣じゃん!!)」

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