【序章】Quaresimali
「よくやったな」
『……』
「(いやいやいやいやおかしいでしょどっから入ってきたのよまさか迷子?それともブラックフォード家の愛犬?何だっけあの犬種。ボルネオ?ボルゾイ?ボルシチ?まぁとにかく大きくてステキなわんちゃ……)」
とてつもなくデカい。それはもうデカい。とんでもなく……デカい。
そしてそれは3D映像でもなければ張りぼてでもない、
「(ンなワケあるかーっ!!こんな奇跡的なサイズ発見したら世紀の大発見ノーベル賞モノあのアニマル界のゴロウさんも、よーしよしせずにはいられないじゃないの!!)」
実体、だ。
「おいおいおい……マジかよ」
「(って真ん中の人までなに戦意喪失しちゃってんの!!そんなにこのわんちゃん怖いの……ってそうだよね当たり前だよねーあたしも怖いしー)」
「今頃気付いたのか?ニブいヤツ」
「じゃあさっきの銃弾は、」
「あぁその辺に転がってるだろ?相変わらずクアレは弾丸キャッチボールが得意だな〜」
「(弾丸キャッチボール……)」
思い返したくもなかったけれど、瞬間的にあたしはわんこが落としたアレをイメージしてしまった。
「(階段に落ちている……ってあはっはー冗談言っちゃいけないよ〜エロ魔神は防弾チョッキ着て……)」
極めつけはこれ。それも確認済みだ。
「(着て、なかった!!そうだよだってさっきジャケット脱いだとき何も着てなかったしシャツの下は素肌だったし。じゃ、じゃあさっきの音ってやっぱり……)」
「さてっと」
もはやドッキリお宅訪問的なノリになりつつある真ん中の人の前方にエロ魔神、後方にクアレなる大きなわんこ。
既に勝敗は見えていた。
「ま、そーゆーことだからお引き取り願おうか」
「……殺れ」
観念したように銃を下ろした真ん中の人は言った。
それに対してエロ魔神は、はあ?と呆れた様子で器用に片眉を上げると、真ん中の人へと歩を進めた。
「あんたにゃ後ろの2人をお持ち帰りしてもらわなきゃ困る。血祭りにしてやってもいいが誰が片付けると思ってんだ」
「……」
真ん中の人の表情は窺えないものの、悔しさからか拳を握りしめているのが見て取れる。その真横にエロ魔神は立ち、ポンと相手の肩を叩いた。
「どーせフェイに命じられたんだろ?ったくナメてんのかコノヤロー」
コロコロと笑いながらふざけ半分で話し掛けるエロ魔神に、真ん中の人は自嘲気味に言った。
「情けをかけられるたぁ、ざまぁねーな」
「いや俺は好き好んで他人の死体処理したくないだけなんだけど」
ふと、わんこの鼻先を撫でていたエロ魔神の視線があたしを捉えた。
「だからてめぇは甘ぇんだ。レスター・ブラックフォード」
あたしと目が合った状態で真ん中の人に名前を呼ばれたその人は、一瞬フッと笑うと視線を横に流した。
「ヤツと一緒にすんな」
少し拗ねた様子で言うエロ魔神を一瞥した真ん中の人は、けれどまたすぐに視線を虚空に戻した。