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紅の末裔  作者: みるく
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【序章】変態、再び

「何か言うことは」


「はー。だからさ、お前じゃ無理」



緊張感のないお世話係さんと逆にピリピリしている真ん中の人のせいで、2人のやり取りはちぐはぐなことこの上ない。



真ん中の人の一存でいつでも銃は使用可能なのにも関わらず、全く動じていないお世話係さんが不思議過ぎる。



セリフ的に真ん中の人が撃つ気満々な気がするのはあたしだけだろうか。



「なーもう止めようぜ?」



ここ寒い、とお世話係さんは燕尾服のポケットに手を入れた。



「あぁ俺も帰るさ。お前を」



その時。



真ん中の人の言葉は、玄関へ吹き抜けた冷たい風と響き渡った銃声で、最後まで聞こえなかった。



「(う……そ、今)」



怖い、痛い、現実離れした現状、帰りたい、帰れない、自分も……殺される



お世話係さんが倒れていく一瞬の間に、頭の中を電気のようなものが走った。これが所謂走馬灯?と呑気に思っている反面、同時に自分でもわかるくらいに心拍数が上がって、震えてきた。



今お世話係さんを見ちゃったら絶対叫ぶ。というかもう叫びたいけれど、我慢するしかない。こんな場面で昔のサバイバルさながらの生活で身に付いた忍耐力が役に立つとは。



不可抗力とはいえ、殺人現場の目撃者になってしまったあたしは間違いなく邪魔な存在になる。つまり真ん中の人に見つかったらアウトだ。



「(こーなったら警察に電話し……ってケータイないんだった)」



とりあえず一時退却だ。



「本性出しやがったな……っ!!」


「(へ、)」



怒号にも近い叫び声に、匍匐前進ならぬ匍匐後退しかけていた体を元に戻して声のした方を見た。



予想通り声の主は真ん中の人。



「あっぶね」



間髪入れずにひょうひょうと聞こえた声に、あたしはまたしても心拍数が上がるのを感じた。



何を隠そう、てっきり倒れたと思っていたお世話係さんは足を一歩前に出した状態で前屈みになり……立っていたのだから。



その足を軸にくるっと真ん中の人の方を向くと、にやりと意地の悪い笑みを浮かべた。



「ったく急に撃つなよ。ちょっと痛かった」


「(いやいやちょっと痛いじゃ済まないよ!?てかフツーに防弾チョッキ装備とかどんだけ危ないお宅なの!!)」


「……12代目の古株か」



真ん中の人は銃を構えたままおもむろに口を開いた。



「んー近からず遠からず?」



言いながら燕尾服を脱ぎだしたお世話係さん。



上のジャケットを脱ぐと近くにあった帽子が何かを引っ掛けるところに放り、カッターシャツのボタンをいくつか外した。



「つかこの服堅苦しい……」



独り言のように呟いたお世話係さんが頭をわしゃわしゃと掻き回した、ら。



「(え!?いや、ちょ、ちょっと待てーい!!)」



それまで後ろに流されていた前髪はサラリと瞼の辺りまできて、きちんとまとめられていた髪型はいつの間にか無造作ヘアに。



瞬く間に使用人からどこぞのホストへと変貌を遂げたお世話係さん。というか、アレは。



「(間違いなくエロ魔神!!)」



間違いなかった。女遊びじゃ飽きたらずコスプレ趣味まであるなんて、おぞましさと変態の極みだと思う。



「そろっとマジで終わりにすっか。客も……待たせてるしな」


「(あ……ヤバ。目合っちゃった)」



もう少しよく見ようとして身を乗り出したのがいけなかったのかもしれない。一瞬だけなのに、たっぷり1分くらい見つめられたような錯覚に陥って内心焦る。



それでもお世話係さん、もといエロ魔神はすぐに真ん中の人に向き直った。



「客、ねぇ……まぁいい。てめぇ殺りゃ丸く収まる。銃が効かねーとなると、手練れの連中か」


「あぁ。そーかー、そうだよなー」



エロ魔神は急に何かに納得したように頷く。



それを怪訝そうに見、警戒心を強めた真ん中の人に向かって、次の瞬間とんでもないことを言ってのけた。



「俺の顔見てピンとこねーなら、殺る価値もねーな。なんせ下っ端だから。……なぁクアレ」



いかにも自分は有名人です宣言に加え、『くあれ』とかゆうどっかに第三者がいますよ宣言までしたおかげで真ん中の人はもちろんあたしまで驚いたのは言うまでもない。



そうしてあれこれ理解に苦しんでるうちに言葉もなく固まっていた真ん中の人の後方、あたしのいる踊り場に通じる階段の下から、キィンという金属音がした。



音的には小さな何かが床に落ちた感じだ。



けれどそこにいたのは人間でもなければオバケでもない、



「(……ってあれれーあんなところに犬がいるよーヒトの2倍くらいありそうな育ち盛りのわんちゃぁあああああん!?)」



犬、だった。

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