【序章】L.Blackford
その口調からわかるが、お世話係さんの相手はガラの悪そうな男の人のようだ。
「要求に応えられねーなら実力行使しかねーんだけどなぁ」
「兄ちゃんのキレーな顔に傷が付くぜ?」
「ですから何度も申し上げておりますが、」
相手は複数。あたしはお世話係さんひとりが言い寄られてる感にいてもたってもいられなくなり、そっと廊下を覗いてみた。
「嘘吐いてもいいこたぁねーぞ。なぁ兄ちゃん」
「私は使用人の身ですので何も知らされてはおりません」
声は正面の階段の下から聞こえてきていた。吹き抜けになっているため見つからないよう床にペタッとくっつき、手すりの隙間から様子を窺った。
「ハッ!!主人はとうに高飛びしたくせに、まだ使用人を雇ってこの家を守ろうとしてるのか」
「潔く認めればいいものを……あのブラックフォードも落ちたものだな」
玄関の大きな扉は全開にされていて、そこから少し中に入った所には体つきの良さそうな3人組が立っていた。
「兄ちゃんヤツの行き先やら何やら聞いてる筈だ。見たところ、1人しかいないみてぇだしな」
「(え、えぇとー何の相談なんだろーなんだかとぉーっても、アブナイ感じなんだけどもー)」
「申し訳ありませんが私は存じ上げておりません。どうかお引き取りを」
お世話係さんは3人組の挑発をものともせず淡々と答えている。あたしには背を向けているから表情まではわからなくとも、雰囲気からは全く怯えている様子は感じられない。
「いい度胸だ」
イライラが頂点に達したらしい3人組のうちの1人が腕まくりをして1歩前に出た。
「てめぇがここの使用人ってこたぁ知ってるな、ウラの話」
お世話係さんは答えない。
尚も男の人は話を続けた。
「てめぇンとこのブラックフォードは紅姫組の幹部だった。2ヶ月前までは、な」
「……」
「だがヤツときたら部下共々急にいなくなりやがった。何故だかわかるか、使用人さんよ」
「(なんかさー、大丈夫なのここのおうち。『たかとび』とか『べにひめぐみ』とか『うらのはなし』とか怪しげな単語目白押しなんですけど)」
っとここで紅ちゃんのよく当たる推理ターイム!!
今の単語と話の流れから何のお話をしてるかズーバーリー当てちゃうよっ。
まずこのおうちの持ち主はブラックフォードさんっていう人。その人が借金にまみれてサラ金に手ぇ出したけど返済が滞ってて紅姫組ってゆう取り立て屋に追っかけられて海外へ高飛びしちゃった……的な?
よっしゃあああ完っ璧な推理!!
「(てかブラックフォードさんって外人!?イコール外国!?あっははーまさかねーだって周りの人バリバリのジャパニーズだもん)」
「ウチの若が13代目紅姫組の長になるからだ」
「そうなれば同じブラックフォードでも当然、若は兄貴を取る。そうなれば弟は用無し。若が新生紅姫組の頭になって一件落着……の筈だったんだが、まぁここである問題が浮上してな」
「紅姫組の家紋が居ねぇ。兄ちゃんなら意味わかるだろ?」
どうやらお家騒動の類のようだ。我ながらよく毎回懲りもせずに出来ると思う。よく言えば想像力豊か、悪く言えばただのアホだ。
「まさかとは思ったが間違いねぇ。今年は数千年に1度の天変地異『混沌の年』だ」
「家紋が居なけりゃ正当な継承者とは認められねー。当の家紋は12代目引退と共に消えたと思ってたが、調べたらあっち側の家系に憑いていたっつーんだから驚きだった」
「そこでフェイ様と国重様が直々にあちら側に行かれ、家紋は取り戻した。宿主は何者かに攫われたがな」
口調もさることながら、声も大きくて煩い。黙って聞いていられるお世話係さんの精神力が知れない。
「その犯人がレスター・ブラックフォード。つまりお前の主人だ。なんせ覆面ナシの堂々たる略奪だったそうだからなぁ」
「宿主は確か女だったか?しかもまだ10代の。男ならまだしも平和ボケしたあっち側の女なんか何の役に立つんだか」
「何にせよ、ブラックフォードがその女を匿っているのは明白。主人不在にしろ、ここもヤツの城。調べさせてもらう」
「言っておくが拒否権はねぇ」
「俺らに抵抗出来るってなら話は別だろうけどな!!っはっはっは」
「……。なるほど」
始終無言で話を聞いていたお世話係さんが漸く口を開いた。心なしか3人組を嘲笑しているようだった。