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異世界転移の先で  作者: ベーコンエッグ
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イグルハ連合・城郭都市マノーヴァ



 「本当に開戦するとはな。ジグサーラの対応はどうだ」


 「東西国境線は枯れ草同然に切り裂かれています。各個で奮戦している部隊もいますが、指揮統制が取れていない以上、撃破されるのは時間の問題ですな。オベリス教派の手引きが相当上手く働いた様です」



 城郭都市マノーヴァの検道者組合支部長ブルガは、自分の執務室ではなく、資料室の棚から入る隠し部屋で、ラガンス・マドケン両国によるジグサーラ侵攻の初見速報を受けた。

 二年程前に組合の密偵がラガンスで掴んだ情報だったが、定例と緊急を含めた幾度の頭首会でも八対二、実行はされまいと過半数が判断を下した事案であった。


 ジグサーラ王国の南部で広く国境を接するイグルハ連合は、大小二十五の城郭都市がそれぞれの領地を統治し、各都市の代表者による評議会制で運営されている。また、全都市が参加する軍事同盟は他国に引けを取らない武力を有してもいるが、実態はほぼ商業連合であり、協定を結んでいる国々でも、歴史のない成金の賤民国家群と揶揄される事が多い。


 イグルハの領土には、他の国々では忌避される人間以外の種族も多く暮らしており、城郭都市外にあるそういった者達の街や村々との取り引きが、各地で自由に行われている。


 固有種族にしか扱えない技術や、人間では困難な土地の開墾に着目し、他種族との関係を丁寧に築いて財を成したマノーヴァ領主のタクデントは、穀物や鉱石以外の人的資産の価値も充分理解していたので、時折現れる魔物や盗賊山賊への防備に討伐など、領の資源を守る事に金を惜しまない男であった。

 その為、他の都市からしてみれば少し過剰ともいえる戦力を、城郭内に常駐させていた。


 マノーヴァにおける検道者組合が小国並みの立場や規模を持っているのも、そのひとつだ。領主直属の軍隊では動きづらい事案を迅速に処理し、諜報によって有益な情報ももたらしてくれる組合を、タクデントは厚遇していた。


 その支部長を任ぜられる程の人物であるブルガは、もちろんタクデントからの信も篤かったが、それでも手に入れた情報の全てを渡す愚は犯していなかった。

 組合の秘儀にまつわる事や頭首会の動勢もそうだが、今回のジグサーラ侵攻もそれに含まれた。頭首会の決議によってはタクデントへ伝えられただろうし、個人的にも恩義を感じているブルガとしては、教えてやりたいと思っていたのだが。


 しかし頭首会で開戦は無いとされ、以降の情報開示は無用と下知されれば、従うしかない。実のところ、ブルガ直属の上司である頭首フェクトバは、ジグサーラ侵攻は成されるだろうと発言した、少数派のひとりであった。



「フェクトバ様が正しかった。他の頭首が放っていた密偵は、開戦直後に根切りにされたそうだ。俺達は助かったな」


 「現在、ジグサーラ王都のオベリス教を集中的に調べています。ジグサーラ王国政府から発布された傭兵組合への緊急依頼が何故か停滞したり遅延したりしている経路、それと、隠れ蓑を使って王都から出て行った教派幹部、これを機を見て攫います」


 「気を抜くなと伝えろ。始まったからには、向こうも甘い手段は取らないからな。必ず魔術師を同行させろ」



 隠し部屋から執務室へ戻ったブルガは、 ふと自分の蓄財がどれほどあったか思い返してみた。そして我に返り、俺も弱腰になったもんだと小さく首を振る。

 だが検道者となってから、ブルガの信念は変わらない。頭首フェクトバ、タクデント、マノーヴァ。恩があるものの為に、やるべき事はやる。



 しかし一番大事なのは、自分の命だ。いよいよとなったら、振り返らず逃げ延びてやると、ブルガは決めていた。




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