表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
4/23

四話 この教師は余計な事しか言わん



 と。

 清々しい気分で光守たちを見送ろうとした矢先、佐伯先生が良いことを思い付いたと言わんのばかりの笑顔で口を開いた。開きやがった。

「勝負……? ウチらがこいつと……?」

「ええ。だって、この部室が欲しいのでしょう? だったら部室を懸けて勝負でもして決めたら?」

「待ってください先生。それ、こっちになんのメリットがあるんですか?」

 と、厳めしく目を眇めつつ、俺は問い詰める。

「このままだと部室が無くなるのは確かなんでしょうけれど、それでもこいつらに寄越すくらいなら期限ぎりぎりまで粘って、他の部に渡した方がまだマシなんですが?」

「そう怖い顔しないでよ。あたしだってなにも考えなしに勝負なんて話を持ち出したわけじゃないから。どっちかが損する未来を待つくらいなら、せめてどちらかが得する未来を勝ち取ればいいと言っているだけよ」

「どちらかが得する未来……。それってどういう意味ですか?」

 一度は踵を返して部室から出て行こうとしていた水連寺が、佐伯先生の話に興味を引かれたのか、再び元の位置に戻って疑問を投じる。

「影山、あんただってこのまま文芸部の部室が無くなるのは惜しいでしょ?」

「それは、まあ……」

「だったら、あんたが勝利した場合、この三人に入部してもらえばいいのよ。それなら部活動も続けられるし、部室を追い出される心配も無くなるわよ?」



「「はあ!?」」



 思いも寄らなかった提案に、つい光守と一緒に声を合わせてしまった。

 くそっ。俺としたことが、こんなクソギャルと同じリアクションを取ってしてしまうとは、一生の不覚……!

 いや、ひとまず反省はあとにしておこう。今はそれどころじゃない。

「なんでこいつと同じ部員にならなきゃいけないのよ! ウチは絶対に嫌よ!」

「嫌ってお前、ちょっと前に俺を勧誘したばかりだろうが。もう忘れたのかよ」

「あの時はまだ仏心でウチたちの部に入れてあげようとしただけよ! こんなに最悪最低な奴だとわかっていたら最初から勧誘なんてするわけないでしょ! あんたと一緒なんて、想像しただけで寒気がする~っ!」

「はんっ。それはこっちのセリフだっつーの。お前と同じ部とか、寒気を通り越して吐き気を催すわ」

「あんたたち、さっきからケンカばっかりねー。ケンカするほど仲がいいってやつ?」

「「絶対違うっ!」」

 ああくそ。また光守なんかと声を揃えてしまった……!

「まあまあ、とりあえず落ち着いてあたしの話を聞きなさい。まずはそこの金髪ちゃん」

「き、金髪ちゃん? ウチのこと?」

 まさか教師に渾名っぽい呼び方をされるとは思ってもみなかったのか、キョトンとした表情で自身の顔を指差す光守に、佐伯先生は終始飄然とした口調で「そうそう。そこの金髪ちゃん」と繰り返す。

「金髪ちゃん、ここの部室が欲しいのでしょう? なら勝負に勝てばいいだけとは思わない? そうすれば影山と同じ部に入る必要なんてないし、なにより部室が手に入っちゃうのよ?」

「それは……そうかもしれないけど……」

 納得し難そうに顔を逸らす光守。不満は多々あるが、提案そのものは検討しなくもないとでも言ったところか。こいつの表情を読む限りは。

「で、影山。あんた、この部室を手放したくないんでしょ? ならさっきも言った通り、金髪ちゃんたちに入部してもらえばいいじゃないの。あんたみたいな偏屈な奴が、今さら新入部員を呼び込めるはずもないし」

「後半は否定しませんが、だからと言ってこいつらに入部してもらってまで文芸部を存続させたいとは思いませんよ。部室が無くなるのは確かに惜しいですが、このギャルが喜ぶ顔を見るよりは断然マシです」

「あんたは相変わらず捻くれているわねえ。三人共、可愛い子ばかりじゃない。言ってしまえばハーレム状態になれるのよ? ほら、やる気になってきたでしょ? ムスコもビンビンしてきたでしょ?」

「セクハラはやめてください」

 ほんとに教師か、この人。

「だいたい、自分に気のある女子でもない奴らに囲われたところで、嬉しくもなんともありませんよ。むしろ居心地が悪いだけです」

「強情ね~。ともかく、もうちょっとだけあたしの話を聞きなさい」

 言いながら、強引に俺の首に腕を回して顔を寄せてくる佐伯先生。

「……あのー、胸、当たっているんですが……」

「当てているのよ。すかした顔しているけれど、本当は背中に伝わるおっぱいの感触を内心楽しんでいるんじゃないの~?」

「俺が? はっ。これくらいで興奮なんかしませんよ」

 前髪を掻き上げて、俺は鼻で笑った。

 実はめちゃくちゃ興奮している俺です。

 恋愛は嫌いだが、普通に性欲はある思春期男子だからね。ドキドキしちゃうのは仕方ないよね。

 なんて当惑するこっちの気持ちを知ってか知らずか、俺の体ごと光守たちに背中を向けて、

「話を戻すわよ。金髪ちゃんたちを部員に入れたとしても、実質部長はあんた──つまり命令権は影山の手の中にあるってわけよ。それだけで魅力的だとは思わない?」

 耳元で囁く佐伯先生に、俺は若干顔を逸らしながら「はあ」と相槌を打つ。

「なによ。気のない返事ね」

「いや、あいつら……特にあのギャルは個人的にすごく気に入らないですけれど、別に命令したいとか優越感を得たいと思っているわけではないので」

「わかってないわねえ、影山は。ああいうツンツンキャラが敗北に屈して涙を流すところを見るのが乙なんじゃない。エロ同人なら罰ゲームで凌辱されるところね。しかも乱交」

「仮にも教鞭を取る立場の人が、教え子にいらん性癖を吹き込まないでくださいよ」

 まあ、興味がないって言ったら嘘になるが。

「だいたい、このままだと一番困るのはあんたの方じゃないの? 影山のことだから、部室を取られても図書室で活動すればいいとか考えているのでしょうけど、あそこ、いつでも使えるわけじゃないのよ? 放課後の図書室はまれに補習で使われる場合もあるし、文化祭が近付いてくると比較的多くの生徒が利用する傾向にもあるわ。そんな中で単独行動好きのあんたが耐えられるの? いくら同好会扱いになったとしても、あまり休みが多すぎると他の部に強制入部させられるかもしれないわよ?」

「うっ……」

 そう来たか。

 いやでも、仮に廃部になったとしても、だ。また将来的に一人占めできそうな部を選べば──

「ちなみに、文芸部の時みたく三年生しかいない部を選んでも無駄よ。どのみち一人になるとわかっている部をこのまま放っておく理由なんてないんだから。でなきゃ、また部室不足の原因にもなっちゃうし」

「うぐうっ!」

 トドメの一発を受けたかのような気分だった。

 それを言われては、もうどうしようもない。

「で、返事は?」

「………………やります」

「うんうん。素直な子は好きよ~」

 よく言う。脅迫じみたことを言っておいてからに。

「おーい。影山が勝負してもいいって~」

 観念して重い溜め息を吐く俺とは裏腹に、溌剌とした声音で光守たちに手を振る佐伯先生。曇らせたい、その笑顔。

「勝負してもいいって言われても……。ねえ萌。萌はどう思う?」

「わ、私? えっと……あの、佐伯先生? 少し質問いいですか?」

 おどおどしながら手を挙げる水連寺に、佐伯先生は鷹揚に頷いて、

「いいわよ。なんでも訊きなさい」

「えっと、仮に私たちが勝っても、このまま顧問がいなかったら部室は貰えないんですよね? それだと意味がないように思えるんですけれど……」

「あ、ほんとだ。言われてもみればウチたち、勝負するだけ無駄でしかないじゃない!」

「安心しなさい。そっちが勝った場合、あたしがあなたたちの顧問になってあげるから。面倒とは言ったけど、別にできないわけでもないしね。ていうかこのまま文芸部が同好会扱いになったら、絶対手が空いたとか思われそうで後々怖いし……」

 どこまでも自分に正直な先生だった。

 困るのは俺の方じゃないのかと言っておきながら、その実、佐伯先生が一番困っていたのではないか疑惑浮上な件。

「ほんと!? やったわ萌! これで部室も顧問の問題も両方一気に解決よ~っ」

「う、うん。まだ勝ったわけじゃないけどね……」

「肉まん、食べたくなってきたっス」

 佐伯先生の色好い返答を聞いて、キャッキャ子供みたいにはしゃぐ光守。西蓮寺の言葉じゃないが、勝負すら始まってもいないのにあんなに喜ぶとか、気が早すぎるだろ。脳内が黄色い花畑にでも埋め尽くされているのか、あの女は。

 それと大空に関しては、もはやなにも言うまい。そのままのお前でいてくれ。

「それで、勝負というのは具体的になにをすれば?」

「ん? あ、そっか。まだ内容までは話していなかったわね」

 俺の質問に、佐伯先生はしばらく「う~ん」と腕を組んで考え込んだあと、

「そうねえ。確かあなたたち、恋愛に関する研究をしたいって話していたわよね?」

「えっ。まあそうだけど、でも先生、いつからウチたちの会話を聞いていたの?」

「実はけっこう前から。いやー、面白そうな話をしていたものだから、ついつい聞き耳を立てちゃってね~」

 教師のくせして、趣味の悪いことを……。

「こほん。ま、それはともかく……」

 白い目をしている俺たちを見て気まずくなってきたのか、わざとらしく咳払いをしてお茶を濁しつつ、佐伯先生は話を続ける。

「恋愛の研究がしたいのなら、ここにうってつけの人材がいるわ。影山という青春嫌いを絵に描いたような男がね」

 は? なんでいきなり俺?



「そこで、影山に恋をさせたら、あなたたち恋愛研究部の勝ちというのはどう?」



評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ