二話 ちょっとなにを言ってるのかわからない
沈黙が降りた。突然閉口した俺に怪訝がる光守を視界に入れつつ、黙考を続ける。
つまり、あれか。部室を寄越せって言いたいのか。
ほうほう。ふーん。なるほどねえ。
「で?」
「いや『で?』って。さっきも言ったじゃない。この部室を使わせてもらうって」
「それはさっきも聞いた。けどなんで今日会ったばかりの連中に……それも無条件に渡さないといけないんだ。寝言は永眠してから言えデコトラが」
「だからデコトラはやめろって言ってるでしょ! それに永眠って、もはや遺言と化しているじゃないのよ! ふざけんじゃないわよっ!」
なかなか上手いツッコミ方だった。
なんか、昼休みに会った時とはずいぶん印象が違うな。あの時はもうちょっとドライというか、いきり立つ仲間のギャルを諫めようとした程度には冷静な奴だと思っていたのだが。いかにもこいつがリーダー格な感じだったし、仲間の前ではクールキャラを気取っているのかもしれない。ま、別段どっちでもいい話ではあるが。
「って、そんなことはどうでもいいのよ。文芸部なんて、どうせ本を読むくらいしかやることないんでしょ? それなら図書室にでも行けばいいじゃない」
「まず前提がおかしいだろ。読書はちゃんと部活動として認められている行為だし、部誌だって毎年欠かさず作っている。文芸部のことをよく知りもしない奴に、とやかく言われる筋合いは一切ない」
俺の正論に「うっ」とたじろぐ光守。だがすぐにキッと双眸を細めて、
「で、でも、そこの机に置いてあるのはっ? どう見てもそれ、マンガじゃない! 文芸部って小説を読むところのはずでしょ?」
「マンガじゃない。ライトノベルだ。表紙がマンガっぽいだけで、中身は立派な小説だよ。そんなことも知らないで文芸を語ったつもりだったのか? うわあ、引くわー。知識も人の器も底が浅くて引くわ~」
「こ、こいつ……!」
「ま、待って麗華ちゃん!」
と。
俺に掴みかかろうとした光守を、それまで黙って見ているだけだった水連寺が慌てて止めに入った。
「乱暴はダメだよ麗華ちゃん。いきなりこんなことを言われたら、だれだって困るよ。それに私、別に部室なんてなくても大丈夫だから」
「萌……」
微苦笑しながら言う水連寺に、光守が戸惑いの表情を浮かべる。光守にとっても予想外の反応だったらしい。
「え? 部室、いらないんスか? 自分、てっきりここで部活をするのかと思っていたんスけれど。他に部室の空きはないって生徒会の人も言っていたのに」
大空のなにげない発言に、俺は眉根を寄せて「他に部室がない?」と聞き返す。
「えっと、実はそうなの。新しく部活を作ろうと思って生徒会のところまで行ってきたんだけど、どこも部室が埋まっていてすぐに使えるところはないって言われちゃって……」
「それで、俺しかいない文芸部に目を付けたってわけか」
どうりでやたら躍起になっていたわけだ。一人しかいない部なんて現状ここくらいなものだろうし。
「にしても、腑に落ちないな。どこで文芸部の話を聞いたんだ? 目立つような真似は一切していないし、ここに俺しかいないなんて、限られた人間しか知らないはずだぞ?」
「知り合いに聞いたのよ。噂だけど、二年生の男子が一人で部室を使っているところがあるって」
俺の問いかけに、今度は水連寺ではなく光守が代わりに答える。
「それで実際に来てみたら本当だったってわけ。まさかこんな性悪が住み着いているとは思わなかったけれど!」
いやいや、そちらさんには負けますよ~。
「まあ、事情は大体わかった」
机の上で頬杖を突きつつ、俺は嘆息混じりに続ける。
「しかし、なんでそこまで新しい部活とやらにこだわる? そもそも、どういった部活なんだ? まだ部活名すら聞いていないままなんだが?」
「あ。そういえばまだ説明していなかったわね」
言って、光守は先ほどまでの厳めしい表情とは打って変わって、ギャルらしく陽気に自身を指差した。
「ウチたちは恋愛研究部──つまり恋愛に関するあれこれを研究する部活よ!」
…………………………………………………、は?
恋愛研究部、だと……?
「なによ。また急に黙っちゃったりして」
「……お前、今なんて言った?」
「は? さっきも言ったでしょ。恋愛研究部……恋愛を研究する部活だって」
「恋愛だあああああああああああああ!?」
怒声と共に勢いよく立ち上がった俺に対し、光守だけでなく水連寺まで「ひゃっ」と肩を跳ねさせて後ずさった。
「な、なによ急に怒ったりしてっ。ほら、あんたが突然大声を出すから、萌が怯えちゃってるじゃない!」
見ると、確かにビクビクとした顔で光守の背中にしがみついているが──ちなみに大空は平然としていた。マジでメンタル強いな──そんなことはどうでもよかった。
いっそ些事とすら言っていい。
それよりも、さっきこいつは聞き捨てならないことを──この世で最も唾棄すべき言葉を吐きやがった!
「俺はなあ、恋愛とか青春とか、そういう陽キャが日頃使いそうなキラキラした言葉が一番大っっっ嫌いなんだよ! その言葉を聞くだけで全身に虫唾が走るわ! いっそ憎しみのあまり血涙が噴き出すまであるね!」
「え、いきなりなに? めちゃくちゃキモいんですけど!」
俺の怒号に、言葉通りドン引きした表情を浮かべる光守。
他の二人も似たようなもので、先ほどまでボーっと突っ立っているだけだった大空までもが「うわあ」とでも言いたげに俺を見ながら渋面になっていた。
くそっ。見た目の雰囲気からだいたい察してはいたが、こいつら全員リア充側か。ますます俺とは気が合いそうにない。
「ていうか、なんでそこまで恋愛って言葉を目の敵にしているのよ。いいじゃない、恋愛。好きな人を見てドキドキしたり、二人でデートして一緒の時間を共有しているだけで幸せな気分になれたり、どれも良いことばかりじゃない」
「あ~痒い~! クソみたいな例え話を聞かされたせいで全身が痒いわ~っ!」
思わず腕や首を掻きむしりながら、俺は吐き捨てるように言う。
ちきしょう、じんましんまで出てきやがった。ここ最近はずっと収まってくれていたというのに!
「な、なによ。いくらなんでも過剰に反応しすぎでしょ。ちょっと恋愛エピソードを話しただけなのに。ほんとありえない」
「ちょっとだあ? そのちょっとだけでも、俺にとっては害でしかないんだよ! むしろ禁忌だね!」
先ほどのやり取りで大体の人は察してもらえると思うが、俺はさっきのような話を聞くとじんましんが……アレルギーが出る体質なのである。
俺はこれを青春アレルギーと呼んでいるが、なにぶん精神的な問題なので、特効薬のようなものは存在しない。ひたすら痒みが収まるのを待つしか手がないのである。
だから青春じみた話が嫌いというのもあるが、理由はそれだけではない。そもそも青春アレルギーは後天的なものだし、とあるきっかけでこんな体質になっていなかったら、ここまで青春や恋愛といったものを忌避しなかったはずだ。たぶん。きっと。おそらくは。
ともあれ、だからこそそういった話を聞かずに済むように集団を避けたり、こうして一人でいられるような部活に入ったりしたのだが、まさかここに来て俺の禁忌に触れてくる奴が現れようとは。寝耳に水もいいところだ。
「うわ~。面倒くさい奴~。あんた、モテないでしょ? ていうか絶対童貞ね。間違いないわ」
「はっ。それがどうした? お前みたいな恋愛脳と少しでも関わる可能性があるくらいなら童貞の方がまだマシだね」
うげっ。自分で「恋愛」と口にしただけでまた痒くなってきた。普段なら単語を発音するだけではこんな症状は出ないはずなのに。
これもそれも、クソみたいな恋愛観を聞かされたせいだ。実に忌々しい。
「はあ? ウチが恋愛脳? ウチなんて全然普通な方だし。ありえないわ~」
と、薄ら笑みを浮かべながら肩を竦める光守。
どうでもいいが、さっきからなにげに「ありえない」って発言が多いな。口癖なのだろうか。正直お前の装飾過多な姿の方がよっぽどありえないと思うのだが。
「まったく、これだからモテない童貞の妄想は……」
「じゃあビッチ」
「はあ!? ビッチじゃないし! そもそもウチ、まだそんな経験は……」
「あん? お前、ひょっとして処女か?」
と、俺の問いに「しまった」とばかりに慌てて口を手で塞ぐ光守。
「なんだお前、さんざん人をバカにするようなことを言っておいて、そっちも未経験なんじゃねぇか。やーい、この未貫通~。脳内エロエロ処女~」
「だ、だれがエロエロよ! いつもピュアな恋愛しか妄想したことないし! だいたいそっちと比べないでくれる? ウチとあんたとじゃあ、ステージが違うから。一度も攻めたことのない兵士と一度も攻められたことのない城とでは比較するまでもないから」
「アイタ~。この人、アイタ~。一度も攻められたことがないんじゃなくて、攻める価値もないってことに気付いていない時点でアイタタタ~」
「あんた、ほんとにああ言えばこう言うわね! あ~! 一発殴りたい~!」
「う、麗華ちゃん、暴力はダメだからね?」
とっさに腕を掴んで止めに入る水連寺に「わかってる」と一度振り上げかけた握り拳を渋々下ろしたあと、憤懣やるかたないとばかりに光守はそっぽを向いた。
「ていうか、今までの話を聞くかぎり、お前らの方こそ部室なんて必要なくないか? 恋バナをするだけならマックとかスタバとかで十分だろ。お前ら女子なんて、食う物さえあればどこでもバカ騒ぎできるんだから」
「なにこいつ、どんだけ女の子に偏見持っているのよ。ほんとありえない」
「うん。さすがにそれはどうかと思う……」
「先輩、だからモテないって言われるんスよ」
なんか、三人全員に批判的なことを言われた。まことに遺憾である。
「というより、こっちにはそういうわけにはいかない事情があるのよ」
ウチじゃなくて萌の方にだけど。
そう言って水連寺の方を見る光守に、俺もどういうことだという意味を込めて、同じように視線を向ける。
対する水連寺はというと、困惑したように「えっと……」と言葉を濁らせながら目線を泳がせていた。
まあそれを言ったら、この部室に来てからずっとおどおどした態度ではあったけども。
「大丈夫、萌? ウチが代わりに話そうか?」
「……ううん。私が話す。私がちゃんと話さないといけないことだと思うから」
そう首を振ったあと、それまでずっと光守の後ろに控えてばかりいた水連寺が、意を決したように胸の前で両手を組んでおそるおそる前に出た。
「……えっと、最初に恋愛研究部を作ろうって提案したのは麗華ちゃんだけれど、でもそれは、私のために言ってくれたことなの」
と、言葉を選ぶように訥々と話す水連寺に、俺は黙って耳を傾ける。
「私、実は男の子と接するのが苦手で、正面に立つだけでもすごく緊張しちゃうの。正直に言うと、こうして話すのも精一杯で……」
ああ、どうりでさっきから全然目線が合わないわけだ。男性恐怖症というほどではないみたいだが、男が苦手だというのは、これまでの様子からして嘘ではないようだ。
「でもね、別に男の子が嫌いというわけじゃないの。いつかだれかと素敵な恋愛をしてみたいって子供の頃から思っていたし、できたら結婚もしてみたいなって……」
なるほど。それで恋愛研究部を作ったってわけか。水連寺が普通に恋愛できるように。
「つまり、そういうこと。部室が欲しかったのも、すごくプライベートな問題だから、できるだけ他の人には聞かれたくなかったのよ。特に男子にはね」
まるで俺の心中を読んだかのようなタイミングで、光守が話を付け加えてきた。どうやら、馴染みの人間には甘いタイプらしい。
「だったらお前らの家でも問題ないはずだろ。他の奴らに聞かれたくないだけなら」
「家族に聞かれるかもしれないじゃない。それに何度もだれかの部屋に集まるわけにもいかないし」
「なんでだ? お前ら、親しい間柄のはずだろ?」
「ウチと萌はね。でも鳴とはこの間知り合ったばかりで、そんな子の家にしょっちゅうお邪魔するわけにもいかないでしょ? ウチと萌だって幼なじみではあるけども、頻繁に通ったりしたらさすがに迷惑かもしれないし……」
ほーう。見た目は頭の軽そうなギャルと言った感じではあるが、それなりに常識は弁えているらしい。第一印象は最悪だったが、少しは上方修正していいかもしれない。
「まあ、お前らの言い分はわかった。けどまだわからないことがある」
言いながら、終始ぼんやりと突っ立っているだけの──それこそたまに発言する程度で、ほとんど俺たちのやり取りを一歩引いた位置で静観しているだけの大空を指差した。
「この後輩はなんでお前らの部に入ったんだ? 見た感じ、お前らの部活動に興味あるようには思えないぞ」
「え、えーっと……この子は……」
「自分っスか? 自分は恋愛には全然興味ないんスけど、恋愛研に入ってくれたら毎日美味しい物を奢ってくれるって言うんで、それで入部したんスよ」
と、なぜだか言葉を濁す光守の代わりに、大空がけろっとした顔で答えた。
それをそばで聞いた光守と萌が、揃って気まずげに目線を逸らす。
「お前……」
「な、なによ。その目は。しょうがないでしょ、部員が三人集まらないと、部として認めてもらえないっていうんだから!」
思わず半眼になってしまった俺に対し、逆ギレ気味に反論する光守。
「ウチの友達を誘おうとも思ったけれど、萌に同学年の人にはあまり知られたくないって言うから、仕方なく後輩を入部させようと思ったのよ。でもなかなか入部してくれる子がいなくて、どうしようかって萌と相談しながら歩いていた時に、たまたま渡り廊下で大量のパンを食べている鳴を見つけたのよ」
「で、後輩を食い物で買収した、と。うわあ、マジで信じられないんですけど~。人として恥ずかしくないんですか~?」
「う、うっさいわね! もたもたしていたら、新入生を他の部に取られるだけだったし、こうするしか他なかったの!」
「いやいや、どう言い訳したところで違反行為をしているのには変わりないから。これ、生徒会が知ったら創部禁止になるんじゃねえの?」
「ちょっと! ウチたちを脅す気!? ありえないんだけど!」
バン! と昼休みの時のようにそばの机を叩いてきた光守に、
「お前らがここを奪うつもりでいるのならな」
と俺は一切意に介さず返答する。
「待ちなさいよ! さっきまでの話を聞いてなかったの!? 萌の苦手克服のために、少しはウチたちに協力しようとは思わないわけ!?」
「協力? なんで俺がよく知りもしない人間のために協力しないといけないんだ? まして部室を無条件に渡すとか話にもならんわ」
「だったら、あんたも恋愛研究部に入ればいいじゃない! 正直あんたみたいな性格も口も悪い陰キャを入部させるのは嫌だけど……想像しただけで身の毛がよだつけど、部室を使わせてもらえるのなら文句は言わないわ」
「は? なんで俺がお前らの部なんかに入らないといけないんだ? しかも上から目線だし。人にものを頼むのなら、それなりの態度ってもんがあるんじゃないの~?」
「こいつ……! せっかくこっちから歩み寄ってあげたのに!」
「歩み寄るどころか、アクセル全開で突進するレベルだったじゃねぇか。完全にケンカを売っているようにしか見えんわい」
「どこがよ! めちゃくちゃ優しくしてあげたじゃない!」
「プー! 自分で優しいとかプー! ちゃんちゃらおかしくて、草どころか草原が生えるプフ~!」
「ああもう無理! 一発だけでいいから殴らせなさい! ていうか殴る!!」
「お、落ち着いて麗華ちゃん! 暴力はダメだってば~!」
宣言通り俺の胸倉を掴んで拳を振り上げようとする光守に、水連寺が背中から抱き付いて制止をかける。
一方の大空はと言うと、他人事のように「わー。修羅場みたいっスねー」と傍観していた。このふてぶてしさ、見習いたい。
「だいたいねえ、あんた、自分の立場ちゃんとわかってんの!? このままだと、文芸部そのものが無くなるかもしれないのよ!?」
と、水連寺に羽交い締めにされたまま意味不明な怒号を飛ばしてきた光守に、俺は嘲笑を止めて「はあ?」と眉根を寄せた。
「なんだそれ? なんで文芸部がわけもなく廃部扱いにされなきゃいけないんだ?」
「え? あんた、なにも知らないわけ?」
「だから、一体なんの話だ?」
俺の反応がよほど意外だったのか、戸惑うように顔を見合わせる光守と水連寺。
「えっと、影山くんは聞いたことないかな? 部室不足を解消するために、部を減らそうとする動きが学校側にあるって」
「部を減らす……?」
「呆れた。本当になにも知らなかったのね」
そう言って水連寺の拘束から解かれたあと、光守はそばにあったパイプ椅子に腰かけて話を続けた。
「けっこう噂になっているわよ。ウチらの間じゃ『部活の断捨離』って言われているわ」
部活の断捨離、ねえ。いつの間にそんな噂が流れていたのやら。
まあ、俺はクラスメートから敬遠されているし、学校生活のほとんどを独りで過ごしているから、そういった噂がこっちの耳に入らなかったとしても不思議ではないが。
「で、仮にその噂が本当だったとして、なんでいきなりそういう話になった?」
「この高校、部活の数が他のところよりも多いっていうのは知っているわよね?」
「ああ。特に文化系の部が多いんだろ?」
そのため、文化祭は体育祭よりも大いに盛り上がる。なんせ四日もかけて開かれる催しなのだ──その上毎年たくさんの客が校外から訪れるため、県内でも文化祭が熱い高校として広く知られている。
うちの高校の名を聞いて、文化祭を連想しない人はまずいないだろうと言っていいくらいには。
「でも年々部活の数が増えちゃって、それで去年の秋頃から部室がいっぱいになってしまったらしいのよ。一度は校舎を増設しようという動きもあったみたいだけれど、少子化でなかなか資金も集まらなくなってきているからとかで、結局取りやめになったらしいわ」
「それで今ある部を全部見直して、少しでも部室の空きを作ろうとしているみたいなの」
最後にそう締めた水連寺に、俺は「ふうん」と無味乾燥に相槌を打つ。
「そういうわけだから、さっさと出ていく準備をしてくれない? あんたの部、このままだと廃部扱いになるのは間違いないだろうし。安心なさい。ここの片付けはウチたちでなんとかしておくから。大事な物だけ今の内になんとかしておきなさい」
「断る」
「そうそう。最初からそうやって素直に頷いていればよかったのよ。じゃあウチたちはいったん解散して──って『断る』ぅ!?」
俺の返答に、ガタンと椅子から立ち上がってノリツッコミを披露する光守。もしかしてこいつ、根っからのツッコミ体質なのか?
「なんでそうなるのよ!? どうせ文芸部なんて無くなるに決まっているんだから、ウチたちに部室を渡してくれてもいいじゃない!」
「つっても、あくまでも噂でしかないんだろ? そんな不確かな情報を鵜呑みにしろとでも言うつもりか?」
「で、でも、ウチたちの周りではみんな噂してたし……」
「そこの一年。お前のところはどうなんだ?」
俺の問いかけに、大空はきょとんとした顔で自身の顔を指差して、
「自分のところっスか? 自分は光守先輩と水連寺先輩に言われるまでは全然知らなかったっス。他の一年生は知らないっスけど、個人的にはまだそこまで噂が広がっているようには感じなかったっスねー」
「ほら見ろ。そこまで知られてない噂じゃねえか」
「鳴たちはまだ入学して二週間くらいしか経ってないからよ! 二年生や三年生のみんなはきっと知っているわ!」
「ほんとに~? 実は口から出まかせだったんじゃないの~? 意地を張らないで、正直に吐いちゃいなよYOU~」
「嘘じゃないってば! ていうか、その人を小馬鹿にしたような顔やめてもらえる人 めちゃくちゃ腹が立つんですけれど!?」
まったく、強情な奴め。こんなやり取り、時間の無駄でしかないというのに。
「とにかく、だ。嘘か噂なのかは知らんが、お前の話を信用するわけには──」
「それが、まんざらただの噂というわけでもないのよねー、これが」
と。
いつから聞いていたのか、そんな言葉と共に一人の女性が──長い黒髪を緩めの団子ヘアーにしているジャージ姿の先生が、勝手知ったる部屋とばかりにノックもしないまま部室のドアを開けて入ってきた。