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一話 人生に青春なんていらない



 唐突だが、俺は青春という言葉が嫌いだ。



 同様に、恋愛という言葉も嫌いである。

 いっそ忌避しているとすら言っていい。

 どちらも世間では素晴らしいもの、とても良いものだと解釈されがちだが、そんな奴は物事の表面しか見えていない愚か者だ。

 どんなものにも光と影があるように、青春や恋愛にだって醜い部分はある。

 それこそ暴力沙汰や殺人事件にまで発展しかねないほどの──時に醜い部分の方が圧倒的に勝るくらいの、ドロドロとしたおぞましいものが。

 そういった部分を度外視して、美しいものしか目に入れようとしないのは非常に傲慢な考えでしかない。

 だから俺は、声を大にしてこう提唱したい。



 青春も恋愛も、人生において無駄の極みでしかない──と。



 まあ要するに、青春も恋愛もクソくらえ──孤高こそなによりも最強だってことだ。

 そんなわけで、今日も今日とて一人で購買に行って総菜パンを買ったあと、自分の教室に戻っていつも通り一人で昼飯を済まそうと思っていたら、俺の椅子を使って談笑しているギャルグループがいた。

 四月にクラス替えしてさほど日が経っていないので自信はないが、俺の椅子に座っているギャルって、確か同じクラスの奴だよな? 去年のクラスメートすらろくに覚えていない俺ではあるが、あのだれよりもケバケバしい感じのギャルはなんとなく見覚えがある。

 なにはともあれ、これでは俺が座れない。ひいては昼飯が食べられない。

 なので、即刻どいてもらうとしよう。

「なあ。そこ、座りたいんだけど」

 名前がわからないので、ひとまず目の前に立って要件だけを伝えると、ケバケバギャルは露骨に顔をしかめて、

「は? わたし今使ってんだけど? 他にも空いてる席あるんだし、そっち使えば?」

 いや、こっちこそ「は?」なんだが。

「なんで俺の席なのにこっちが譲歩しなきゃいけないんだ? 他に空いてる席があるならお前の方からどけばいい話だろ」

「いや、意味わかんないんだけど。なんでわたしの方からどかなきゃいけないわけ? 立ってるあんたがどこかに行けばいい話でしょ?」

「俺の椅子を返せって言っているだけだろ。話をすり替えんな顔面詐称女」

「はあっ!?」

 ガタン! と怒り心頭とばかりに椅子から勢いよく立ち上がるケバケバギャル。

 バカめ。まんまと俺の挑発に乗りやがったな。

「はい立ったー。これでお前も俺と同じー。立ってる奴が移動すればいいのなら、お前がまずどくべきだよなー? ここは俺の席だしー?」

「なんなのこいつ!? マジでムカつくんだけど!」

「もう放っておけば? 単に無視すりゃいいだけじゃん、こんなモジャモジャ頭」

 と、憤慨するケバケバギャルに対し、そばにいたリーダー格と思われる金髪のギャルが俺を一睨みしたあと、そんな憎まれ口を叩いてきた。

 どうやら、俺の席から離れるつもりは毛頭ないよいだ。

「どく気がないならそれでもいいが、そのかわりずっとここで文句を言い続けるぞ? お前らが離れるまで延々とな。しまいにはお前らのメイクでは隠せていない毛穴の数を発表してやろう。この教室どころか廊下にまで響き渡るほどの声量でな」

 そこまで言ったあと、金髪女がいきなりバンと机を叩いて立ち上がった。

 そして威嚇するように、俺をギロリと睨み付ける。

 が、怯みもしなければ怒りもしない俺を見て白けたのか、金髪ギャルは「ちっ」と舌打ちを鳴らしたあと、踵を返して足早に教室から出ていった。

 それを見た他のギャルたちも、親を追う雛鳥のように慌てて俺の席から離れていく。

「死ね、クソ野郎」

 最後にケバケバギャルが俺に対して捨てセリフを吐いたあと、荒々しく足音を踏み鳴らしながら、ギャルどもと一緒に教室から出ていった。

 やれやれ。これでやっと落ち着いて自分の席で昼飯が食べられるぜ。



「うわ……。影山かげやまの奴、あのギャルたちを教室から追い返したぞ……」

「あの子たち、見るからに怖そうなのにね……。影山くん、あとで仕返しされるんじゃないかしら?」

「それは大丈夫じゃないかな。私、影山くんと同じ中学だった子から聞いたことあるんだけど、中学二年の時にクラスメートの男子をボコボコにしたことがあるんだって。だから下手に手を出したりはしないと思うよ。噂を知っていたらの話だけど」

「マジで? だとしたら影山って、めちゃくちゃやばい奴じゃん。いつも一人でいるし」

「死んだ魚みたいな目で周りを見ていたりするしねー。もしかして犯罪者予備軍とか?」



 教室の隅で弁当を食べながら雑談していた男女のグループが、ひそひそと俺の陰口を叩く。

 陰口を言うくらいなら、もうちょっと周りに聞こえない声量か、もしくは本人のいないところで話すのが最低限のマナーだと思うが、まあいいか。

 友人でもなければ身内ですらない奴らの陰口なんて、俺にしてみればそよ風のようなものだ。気にするだけ無駄なだけである。

「さてと、まずはコロッケパンからいただくとするか」

 自分の席に座り、宣言通りコロッケパンの袋を開けて、一人で黙々と昼食を取る。

 いつもとなにも変わらない、退屈な時間を過ごしながら。


 ●  ●


 そんなつまらない学校生活の中でも、俺だけの居場所が密かにあったりする。

 それがここ……今や俺だけしか部員がいない文芸部の部室である。

 四畳半ほどの広さに、所狭しと並ぶ本棚の数々。

その種類は様々で、古典文学や和訳された海外作品はもちろん、ミステリーやエッセイといったものまで多種多様に置かれている。まるで小説と名の付くものならなんでもいいと言わんばかりの様相である。

 もっともこの中に俺が持ってきた本はなく、ほとんどが部費で購入した物や歴代の部員がお勧めとして持ってきた物ばかりなのだが、とてもじゃないが残りの高校生活ですべて読めるような量ではない。

 と言っても、全部読む気なんてさらさらないが。

こうして放課後にまったり部室で過ごせる時間さえあれば、それだけで十分なのだから。

「あ~。やっぱ一人の時間って最高だわ~」

 読みかけだった小説を机の上に置き、椅子に座りながら両腕を頭上に伸ばす俺。

 去年までは三年生が数人いたのだが、それ以外の部員は一年生の俺しかおらず、先輩方の卒業と共に、俺だけの部活となってしまった。

 まあそこに関しては気にしていないというか、もっと言えばそれを見越して入部したようなものなのだが。

 というのも、部活見学の時から全然人気がなく、なおかつ積極的に人を呼び込むような活動もしていなかったので、新入生の俺が入部すれば、いずれ一人になれるに違いないと考えたのだ。

 部員との人間関係なんて、正直面倒としか思えないし。

 他人との人間関係なんて百害あって一利なし。なんのメリットもないことに自ら進んで関わる理由なんてない。

 本音を言うと、そもそも部活自体したくなかったのだが、いかんせんこの高校では必ずなにかの部活に所属しなければならない決まりがあったので、やむなく活動が楽で部員数の少ない部という理由で選んだだけだった。

 基本部室で本を読むか、たまにアリバイ作りでなにかしらの簡単な賞に小説を投稿するだけだしな。こんな楽な部活は他にない。

 そして今や部員も俺一人のみ。言うなれば我が家以外で自室を手にしたようなものだ。くだらない学校生活の中で唯一最高とも呼べる時間である。一切なにも部活勧誘をしなかった甲斐があったというものだ。

 ただその最高の時間も、朝か放課後でしか堪能できないのがネックではあるが。

 朝練か放課後以外に部室を使用してはならないという校則さえなかったら、休み時間や昼休みの時も普段から入り浸っていたのに、至極残念である。

 まあ、校則ならばしょうがない。なんらかの罰則を受けてまで部室を使いたいとまでは思わないし。

 それに最初は部活なんてどうでもいいと思っていたが、こうしているのも存外悪くない。

 あと一年も経てば受験で部活どころではなくなっていると思うが、願わくばこんな時間がずっと続くことを祈らんばかりだ。

 しかしながら。

 そんな時間も、残念ながら今日までだった。



 それはドアを叩くノックと共に、突如としてやって来た。



 コンコンコンと唐突に鳴り響くノック音。先輩方が卒業してからは滅多に訪れない客に眉をひそめつつ、俺は机の上に置いたままにしてあった本をいったん閉じて「どうぞ」と入室を促した。

「失礼。ちょっと入るわよ」

 言いながらドアを開けて中に入ってきたその女子を見て、俺は露骨に顔をしかめた。

 というのもその女子が、昼休みの時にケンカ腰で俺に絡んできた金髪ギャルだったのだ。

 なんでこいつが文芸部に? まさか俺の噂を聞いた上で逆襲しに来たのか?

 なんて疑問に思っていたら、どうやらやっこさんもここに俺がいるとは想定外だったようで、

「……げっ。なんであんたがここにいるのよ?」

 と、露骨に嫌そうな表情をしながらも、目の前まで歩いてきた。

「なんでもなにも、俺がここの部員だからだよ」

 答えつつ、改めて金髪ギャルを観察する。

 昼休みの時はさっさと自分の席で昼飯を食べたかったのでちゃんと顔までは見ていなかったが、こうして観察してみるとよく整っているのがわかる。それも美人と言われる類の。

 しかしながらメイクが濃いせいか、はたまた顔立ちが派手なせいなのか、かなり性格がキツそうに見える。実際俺に食ってかかってきたくらいなので、直情型であるのは間違いない。

 腰まである金髪や着崩した制服──そしてあちこち装着されたアクセサリー類を外してちゃんとした格好をすれば、あるいは万人受けする容姿になれたかもしれないのに。ダイヤの原石に泥を塗るようなものだ。

 だがまあ、スタイルだけなら合格点を上げられなくもないか。谷間が見えるくらいはだけた胸がなんだかビッチ臭くて、トータルでマイナスではあるが。

「なによ。人のことをジロジロ見たりして。気持ち悪い」

「いや、なんかデコトラみたいな奴だなって思っただけだ」

「どういう意味よ!?」

 どうもこうも、そのまんまの意味だが?

「あんた本当に失礼な奴ね! 昼休みの時もマジでウザかったし!」

「それはこっちのセリフだ。いきなり部室に来ておいてケンカ腰で向かってくるとか、失礼以外のなにものでもないだろ」

「あんたが生意気なことを言うからでしょう!? あんたの態度に問題があるの! ほんとありえない!」

「あ〜。さっきからギャアギャアうるせえなあ。用がないならさっさと帰れよデコトラが」

「だれがデコトラか! ウチには光守ひかもり麗華うらかっていうちゃんとした名前があるの!」

 と、居丈高に俺を指差して怒声を飛ばすデコトラもとい光守。

 ていうかこいつ、見た目だけじゃなくて名前までキラキラした感じなのかよ。どんだけ輝きたいんだ。

「それに用ならあるわ。ほら、入って入って」

 光守に言われて、廊下に控えていた二人の女子生徒が部室に入ってきた。

 一人は茶髪のボブカットに、低身長だが胸はこれでもかというくらいに大きく主張している、大人しそうな女子だった。光守の背に隠れてこちらの様子を窺っているが、もしかして人見知りするタイプなのだろうか。

 一方、もう一人はケモミミみたいな謎の突起がある黒のショートヘアに、全身小麦色に日焼けした体育会系っぽい女子だった。ところどころほどよく筋肉も付いているし、なにかスポーツでもしているのかもしれない。こっちは物怖じした様子はないので、知らない相手でも緊張しない程度には肝が据わっているようだ。

「こっちの大人しそうな子がウチの幼なじみの水連寺すいれんじもえで、もう一人の日焼けした女の子が大空おおぞらなる。こっちはまだ一年生よ」

「は、はじめまして……」

「どうもっス、先輩」

 光守に紹介され、おずおずとした様子で頭を下げる水連寺と、軽く片手を上げて挨拶する大空。

 光守もそうだったが、水連寺も見ない顔だな。人の顔を覚えるのが苦手な方だが、少なくともクラスメートではないだろう。大空にいたっては言わずもがなだ。

「で、あんたは? 別に興味はないけど、お互い名前を知らないと不便でしょ?」

「影山」

 簡潔に名乗る俺。ここで変に反発して余計な時間を浪費するのは俺の本意ではない。

「ふうん。影山、ね」

 そう俺の言葉を繰り返しつつ、きょろきょろと部室を見渡し始める光守。

 俺の名前を知らなかったということは、昼休みの件でここに来たわけではなさそうだ。

 だったらなにをしにここへ? 個人的な繋がりもなければ、文芸部に縁のある奴とも思えないのだが。

「それで、他の部員は? あんた一人?」

「ああ。そうだが?」

「……なるほど。噂は本当だったってことね」

 独り言のつもりだったのか、こっちにも聞こえる声量で呟いた光守の言葉に、俺は眉をひそめた。

 噂? 一体なんのことだ? 噂を立てられるようなことなど、一度もしていないはずなのだが。

「好都合だわ。遠慮する必要もなさそうだし、単刀直入に言うわよ」

 そう前置いたあと、光守は胸を張りながら強気にこう告げた。



「この部室、今日からウチたちの部が使わせてもらうわ!」



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