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公女殿下の事情、献策の責任

「……僕は、サヴァルタ公国……いえ、第一公女か第二公子、そのどちらかに謁見が叶った時には、こう献策する予定でした。『僕が、あなたを公王(・・)にする』、と」

「っ!?」


 僕の言葉に、彼女は目を見開いて息を飲んだ。

 先程から彼女の隣で目を瞑りながら静かに聞いていた男性も、思わず僕を見ている。


 そう……サヴァルタ公国も、決して一枚岩ではない。

 というのも、属国となって以降、次の公王に第一公女と第二公子、どちらが就くのかで国内が割れていることを、ここまでの逃避行で耳にしている。


 おそらくは、このまま属国として甘んじて受け入れるか、先王の遺志を継いで帝国に牙を剝けるか、そのどちらを選ぶかで意見が分かれているのだろう。


 そして、目の前の彼女が第一公女であることを知って確信した。

 彼女は、帝国に牙を剝こうとしている強硬派なのだと。


「そ、それで、どのような策を?」


 身を乗り出し、彼女が尋ねる。

 その姿にはこれまでの尊大な態度ではなく、ただ必死な様子が(うかが)えた。


「それは、分かりません(・・・・・・)

「……は?」


 僕がそう告げた瞬間、彼女の表情が険しいものに変わる。

 当然だ。彼女の様子からも、それだけ困っている状況に違いない。

 なのに、策があると言って期待を持たせておきながら、そんな答えが返ってくるのだから。


「誤解しないでください。分からない(・・・・・)と申し上げたのは、僕がサヴァルタ公国の内情をまだ知らないからです。それさえ分かれば、僕は間違いなく公王にする策をお示しすることができます」


 ここまで言い切れるのには、もちろん理由がある。

 僕が塔にあった書物の中には、王位の継承や簒奪(さんだつ)に関する記述がされた歴史書もたくさんあった。

 なので、現在の状況とその書物の内容とを照らし合わせ、類似のものの成功を踏まえればいいのだから。


 もちろん、時勢は移り変わりが早いものだし、人の心というものは十人十色なので、状況に応じて柔軟に考えなければいけない。

 それについても、僕が読んだ兵法書(・・・)に記されてあった。


「……そう。なら、今から話をするから、あなたのその策とやらを聞かせて頂戴」

「っ!? 殿下、それは……」

「いいのよ。別に彼に聞かれたからといって、困らないわ。それに……」


 たしなめる男性に対し、彼女はそう言って唇を噛む。

 どうやら、置かれている状況はかなり悪いようだ。


「フフ……もうお察しのとおり、私は弟の“エルヴィ”と次の公王の座を争っているの」


 それから彼女は、公国の内情について(つぶさ)に説明してくれた。


 僕の予想どおり、公国内は帝国に対して蜂起する強硬派と帝国に服従する従属派で分かれていた。

 そして、彼女の弟である第二公子は従属派。しかも、帝国からもかなりの支援を得ているとのこと。


「……貴族の三分の二が既に従属派になっていて、今も少しずつ強硬派から従属派へと流れているわ」

「そうですか……」


 なるほど、話を聞く限り状況はあまりよろしくはないようだ。

 僕が目的を果たすためには、ここから巻き返しを図るための策を(ろう)するより、彼女に見切りをつけて第二公子に取り入るか、メガーヌ王国を選択したほうが賢い選択かもしれない。


 だけど。


「……かなり厳しい状況ではありますが、手がないわけじゃありません。まずは、民衆を味方につけることにしましょう」

「民衆を味方に?」

「はい」


 貴族に関して第一公女の支持者が少ないのであれば、そもそも国の土台を支えている民衆を味方につけるしかない。

 それに……いつの時代も、革命(・・)を起こすのは民衆だということを、歴史が証明している。


「民衆を味方につける方法については……」


 僕は身を乗り出している彼女に、そっと耳打ちする。


「っ! ……へえ、それは面白そうね」

「気に入っていただけたようで何よりです」


 口の端を三日月のように吊り上げ、嬉しそうに頷く第一公女。

 まあ、これは僕や彼女にとって、まさに()への意趣返し(・・・・)でもあるからね。


「じゃあ、あなたの策を採用するから、準備や調整諸々頼むわよ(・・・・)

「え……?」


 そんな彼女の言葉に、僕は思わず呆けた声を漏らしてしまった。


「フフ、当然でしょう? この策はあなたが提案したのよ? なら、最後まで(・・・・)責任を取ってもらわないと」


 彼女は、クスクスと悪戯っぽく微笑む。

 でも、その言葉の意味(・・・・・)は、そういうことではなくて……。


「そ、その……先程も言いましたが、僕はメルヴレイ帝国に復讐をするために、公国を……公女殿下を利用しようというのですよ……?」


 よせばいいのに、僕はそんなことを尋ねてしまう。

 本当は目的(・・)を果たすことを考えれば、せっかくの申し出を断る理由はない。それに、彼女の(そば)にいることで第二公子と天秤にかけることもできる。


 でも……だからって彼女を利用することには、どうしても抵抗がある。

 この僕を認めてくれた、この女性(ひと)を。


「あら、別にいいじゃない。私だって、私の目的(・・・・)のためにあなたを利用するの。だったらあなたも、私のことを利用すればいいのよ」

「あ……」


 クスリ、と微笑みながら、何でもないとばかりにそう言い放つ彼女。

 その姿は、綺麗な容姿も相まって、僕にはとても優雅で気品に満ちた姿に見えた。


 なるほど……現在の状況はどうあれ、彼女は指導者にとって必要なものを、間違いなく持ち合わせている。

 あとは僕が(・・)どうするか(・・・・・)、というだけか……。


「じゃあヴァレリアス……って、あなたの本名をそのまま使うわけにもいかないわね……何て呼ぼうかしら?」

「あ……そ、それでしたら、僕のことは“アルカン=クヌート”と呼んでください」

「あら、メガーヌ人の名前に似ているわね」

「はい。東方の国であれば黒髪と黒い瞳は珍しくありませんし、何よりメガーヌ王国は東方と交易がある数少ない国。なら、東方の種族の血が混じっていると言えば不審に思われないでしょうから」


 この偽名については、逃避行の中であらかじめ考えていた。

 そもそも、僕を“厄災の皇子”と知った上で受け入れてくれる国なんて、あるはずがないのだから。


 だだ、目の前にいる第一公女が特別(・・)なだけだから……。


「フフ、分かったわ“アルカン”。これから期待してるわよ」


 そう言って咲き誇るような笑顔の第一公女に、僕は思わず見惚れてしまったのは内緒だ。

お読みいただき、ありがとうございました!


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