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属国の公女殿下、取り入るための策

 サヴァルタ公国第一公女、“リューディア=ヴァレ=サヴァルタ”。


 九年前、メルヴレイ帝国との戦に敗れ、捕らえられて衆目の前で処刑された、“アードルフ=ヴァレ=サヴァルタ”にいる二人の子どものうちの一人。


 現在、サヴァルタ公国は公王不在のまま、家臣団によって国家運営がなされている。

 本来であれば、次の君主を据えるべきなのだが、メルヴレイ帝国は次の公王が再び牙を剝くことを恐れたことと、属国ではなく直接支配することを考え、それを認めていない。


 まあ、だからこそ僕が入り込む隙間があると考え、公国を候補の一つに選んだというのもあるんだけど。


 とはいえ。


「フフ、どう? 驚いたかしら?」

「は、はい……まさか、第一公女殿下であらせられたとは……これまでのご無礼、誠に申し訳ありません」


 悪戯(いたずら)っぽく微笑む公女殿下に対し、僕は(ひざまず)いて(こうべ)を垂れた。

 これは……初対面から失敗してしまったかもしれない。


「あら、急に殊勝な心掛けね。といっても、別にここまで、あなたから無礼な態度を取られたことはないけど」

「い、いえ……失礼な物言いをしてしまいました……」

「だから、もういいって言ってるじゃない」

「っ!? は、はい!」


 不機嫌な口調に変わり、僕は思わず恐縮した。


「フフ……ところで“ヨナス”、さすがに疲れたから、ゆっくり休みたいわ」

「かしこまりました。宮殿にて既に支度を整えております」

「そう。ああそれと、彼も一緒に連れて行くわね」

「左様でございますか」


 彼女の指示を受け、男性は頭を下げたあと、僕を見やった。

 まあ、こんな格好の僕を見れば、普通に怪しむに決まっているよね……。


 でも、それ以前に僕も一緒に行ってもいいものだろうか……。

 もちろん、僕としても第一公女である彼女に取り入る絶好の機会でもあるので、何とかこのままお願いできればとは思う。


 だけど、それと同時に僕の中には罪悪感が生まれていた。

 何故なら、僕という存在を認めてくれた……僕を救ってくれた恩人(・・)を、僕自身の復讐のために利用しようとしているのだから。


 僕は……。


「あら? ひょっとして遠慮しているのかしら?」

「え……?」


 そんなことを考えていると、いつの間にか彼女が僕の顔を(のぞ)き込んでいた。


「あ、そ、その……」

「フフ、いくら属国(・・)とはいえ、客人をもてなすくらいのことはできるわ。だからホラ、行きましょ?」

「は、はい……」


 そう言うと、彼女はス、と右手を差し出した。

 え、ええと、これは……。


「いい? こういう時は、殿方がエスコートをするものよ?」

「は、はい!」


 そこまで言われてようやく気付いた僕は、慌てて彼女の手を取った。


「では、まいりましょう」


 そして、僕は初老の男性の後ろを第一公女と共に歩き、建物の外に用意されていた馬車へと乗り込んだ。


「それで、あなたは帝国から抜け出してどうするつもりだったの?」

「あ……はい……」


 実は地下通路で僕の人生について語った時、僕の今後……つまり、目的(・・)については一切話していない。

 もちろん、目の前の彼女の素性が分からなかったということが大きいけど、それ以上に、僕はこの女性(ひと)に迷惑をかけたくなかったから。


 だから今も、僕は彼女の問いかけに対し、答えるべきかどうか迷っている。


「……まあ、答えたくなかったら別にいいわ。さしてあなたに興味があるわけでもないし」


 そう言うと、彼女はプイ、と顔を背けてしまった。

 どうやら機嫌を損ねてしまったようだ。


 普通だったら、その程度のことで気にするなんておかしいのかもしれないけど、僕はどうしても彼女に嫌われたくなかった。


 だから。


「……帝国から出た後は、その帝国を滅ぼそうと考えていました。そのための道筋も含めて」


 僕は、僕の目的(・・)について語り始めた。


 まず、帝国に対抗しうるだけの力がある国か、帝国に恨みを持つ国のいずれかに取り入ろうと考えていること。

 取り入ることができたあかつきには、あの塔の中で蓄えた本の知識を駆使して献策を行い、その地位を高めること。


 そして、帝国を滅ぼすだけの体制と、僕の献策を全て受け入れてもらえるだけの信頼と地位が確立した、その時。


 ――メルヴレイ帝国に侵略し、滅ぼすこと。


「へえ……ひょっとして、公国に取り入ることも選択肢に入っていたりするのかしら?」

「……はい」


 不機嫌な様子から打って変わり、身を乗り出しながら興味深そうに尋ねる第一公女に、僕は視線を床に落としながら首肯した。


「だけど、あなたは本で得た知識をもって取り入るなんて言っているけど、普通はそれくらいで受け入れたりはしないものよ? 分かっているの?」

「はい。ですので僕は、候補として考えていた国のそれぞれの事情を踏まえ、献策をすることで認めていただこうと考えていました」

「ふうん……じゃあ、公国への献策というのは、どんなものなのかしら?」


 彼女はうつむく僕の顔を(のぞ)き込み、微笑みながら尋ねた……いや、この場合は問い(ただ)した、が正しいかもしれない。

 だって、彼女の真紅の瞳は、一切笑っていないから。


「……僕は、サヴァルタ公国……いえ、第一公女か第二公子、そのどちらかに謁見が叶った時には、こう献策する予定でした。『僕が、あなたを公王(・・)にする』、と」

「っ!?」


 僕の言葉に、彼女は目を見開いて息を飲んだ。

お読みいただき、ありがとうございました!


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