厄災の忌避、そして再会
さっきまでテーブルで酒を飲んでいた男の一人がいつの間にかカウンターに来ていて、彼女のフードを強引に引っ張った。
すると……現れたのは、驚くほど綺麗な女性の顔だった。
プラチナブロンドの綺麗な長い髪、ルビーのように輝く真紅の瞳、整った鼻筋、雪のように白い素肌に映える紅い唇。
僕だけでなく、フードを取った男も、思わず見惚れて固まってしまっていた。
だけど……先程のこの男の言葉から察するに、どうやらこの街の衛兵のようだ。
このままだと彼女、この男に連行されて酷い目に遭わされるだろうな……。
なにせ、衛兵の言葉どおりだと、彼女はサヴァルタ人だから。
さて……ここで変に関わってしまったら、僕が国境を越えることに支障をきたしてしまう可能性が高い。
だから彼女を置いて、この店から逃げ去るのが得策だろう。
でも。
「す、すいません! 彼女、実は僕の知り合いで、たまにこうやって揶揄ったりするところがあるんです!」
気づけば、僕は二人に割って入り、彼女を背中に隠した。
「何だ貴様は!」
「すいません! すいません! 本当にすいません!」
何かを言おうとする男の言葉を無視し、ただひたすら頭を下げて謝り続ける。
その隙に店から立ち去るよう、僕は彼女に後ろ手で合図をした。
「いや、すいません! 本当に!」
「いい加減、頭を下げるのを止めろ……っ!?」
僕が邪魔をしている隙に、彼女が店から飛び出した。
「この! 待てっ!?」
「うわあ!?」
すぐに追いかけようとした男にわざとぶつかり、僕は吹き飛ばされた。
しかも、都合よく店の外へと。
今だ!
そう考えた僕は、同じく一目散にその場から走り去ろうとする……んだけど。
「待て! 止まれ!」
男は、僕のほうへと追いかけてきた。
どうする!? このままだと、すぐに追いつかれてしまいそう……っ!?
「コッチよ!」
十字路を曲がったところで、建物の陰にいた彼女が僕を呼んだので、反射的にそこへと飛び込んだ。
「シッ! 頭を下げなさい!」
「っ!?」
彼女に無理やり頭を押さえつけられ、僕は身をかがめた。
「クソッ! どこに行った!」
「俺はコッチへ行く! お前は向こうを!」
「ああ!」
男の後から残り二人も合流し、三人は見失った僕達を見当違いの方向へと探しに行ってしまった。
どうやら、何とか男を撒くことができたようだ。
「……ふう」
僕はようやく顔を上げ、息を吐いた。
すると。
「…………………………」
何故か彼女が、目を見開いて声を失っていた……って。
「あ……」
どうやら、さっきの地面に伏せた拍子に、フードが脱げてしまったようだ。
つまり……“厄災の皇子”の象徴でもある、僕の黒髪と黒い瞳が、彼女に見られたということで……。
「…………………………」
僕はフードを被り直し、無言でその場を立ち去ろうとした……んだけど。
「待ちなさい」
彼女が、僕の腕をつかんで離さなかった。
「……なんでしょうか?」
「まだ、お礼を言っていなかったわ。その……ありがとう」
ぶっきらぼうにそう言い放つ僕に、彼女は尊大なところは変わらないものの、少し伏し目がちに礼を言った。
だけど……はは、僕の黒髪も、黒の瞳も見ようとはしないんだな。
やっぱり彼女も、他の帝国民と同じだった。
結局は、僕なんかと関わって厄災なんかに遭いたくないよな。
「あっ」
僕は強引に彼女の手を引き剥がし、踵を返してその場から足早に立ち去った。
◇
あのプラチナブロンドの彼女と遭遇した、次の日。
結局、僕は昨日のことで心をかき乱され、よく眠ることができなかった。
「ハア……せっかくのベッドだったのに……」
頭を掻きながら、ベッドから降りて身支度を整える。
さて……国境を抜けたら、どちらの国を目指そうか。
メガーヌ王国か、サヴァルタ公国か。
「……まあ、まずは一番近いサヴァルタ公国に行ってみて、それから考えるか」
そんなことを呟きながら、僕は宿を出て街の北にあるサヴァルタ公国との国境の門へと向かう……っ!?
そこには、昨日フードを被った女性を助けた時に店で遭遇した、あの男達がいた。
その格好から察するに、やはりあの三人は衛兵だったみたいだ。
だけど……このままでは、国境を越えることができない。
今から別の国境を目指すにしても、時間がかかり過ぎる上に、余計に危険を冒すことになってしまう。
どうにかして、連中の目を逸らすことができないか……。
建物の陰から様子を窺いながら、思案していると。
「あら、奇遇ね」
「っ!? …………………………」
後ろから声をかけられて振り返ってみれば、昨日のフードを被った女性だった。
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