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帝国からの書状、最後の準備

「殿下……お帰りなさいませ」

「……殿下! アルカン様!」


 宮殿に戻るとヨナスさんが出迎え、恭しく一礼した。

 その隣には、尻尾を振りながら待ち構えるロイカンネン将軍も。


 そんな今にも飛びついてきそうな将軍とは対照的に、ヨナスさんのその背中には、ディアに叱責されることへの覚悟が滲み出ている。


 でも。


「フフ……ひょっとしてヨナス、私に何か言われると思ったのかしら? いつもと雰囲気が違うわよ?」


 それを見透かしているディアは、クスクスと笑いながらそう告げた。


「……黙っておりましたこと、誠に申し訳なく思っております」

「別にいいわよ。あなただって、主人の指示なら従うしかないのでしょうし。それに……」


 真紅の瞳が、頭を下げたままのヨナスさんを見据える。


 そして。


「あなたが私の守ってくれたこと、助けてくれたことは本当ですもの。だから……ありがとう、ヨナス」

「っ! ……殿下……っ」


 ニコリ、と太陽のように微笑むディア。

 そんな彼女の眩しさに、あの(・・)ヨナスさんが思わず声を震わせた。


 あはは……ヨナスさん、分かりますよ。

 ディアは、本当に太陽みたいな女性(ひと)だから。


「さあさあ、ディア様、ヨナスさん、将軍閣下。ラウディオ閣下も僕達の側についてくださったんです。最後の大詰めに向けて、これから大忙しですよ」

「……はい! さすがはアルカン様! あのラウディオ卿すらもその手中に収めてしまわれるなんて……!」


 ……はいはい、将軍のこんな反応もさすがに慣れましたよ。

 そして、僕と将軍を見て拗ねてしまうディアにも。


 ハア……まあ、仕方ないか……。


 僕は、三人を見て溜息を吐き、そして苦笑した。


 ◇


「殿下、書状が届いております」


 ラウディオ侯爵がこちらの陣営についてから一か月後。

 僕とディア、そしてロイカンネン将軍の三人で政務の息抜きにとお茶をたしなんでいたところに、ヨナスさんが手紙を持ってきた。


「書状? 誰からかしら」

「……メルヴレイ帝国からです」


 そう告げると、ヨナスさんはディアに書状を渡した。


「ディア様……帝国は何と?」

「一か月後、帝国の第二皇子であらせられるモルガン皇子が、直々に公国にやってくるそうよ。しかも、帝国と公国の親善のためという名目で」

「「っ!?」」


 ディアがそう告げた瞬間、僕と将軍は息を飲んだ。

 そうか……ついに来たか。


「アル……」

「はい、いよいよです。いよいよ……!」


 僕は、思わず拳を握りしめる。

 そうだ……僕はこの時を、ずっと待ち続けていた。


 いよいよ僕は、あの帝国に一泡吹かせることができる。


「ディア様。一か月後に向け、僕はラウディオ閣下と早速打ち合わせをしてきます」

「ええ、アル。よろしくお願いするわね」

「はい!」


 ディアに向かって力強く頷くと、僕は部屋を出て急ぎ侯爵の屋敷へと向かった。


 そして。


「……ほう? 一か月後か……」

「はい……それで、ラウディオ閣下には協力していただきたいことが」


 僕はその日のためにしてほしいことを、ラウディオ侯爵に詳細に説明する。


「クク……よもやそんなことを考えていたとは……確かにこれなら、帝国からすれば受け入れるしかあるまいな」

「はい。そのための民意も既に得ています。ただ……」

「……エルディ殿下、か……」


 侯爵がポツリ、と呟き、僕は無言で頷く。

 そう……今回の策において、一番危惧しているのは第二公子のこと。


 今や民衆はディアを支持しており、第二公子の味方だった従属派の貴族達も粛正と世論に押され、かなり数を減らした。

 それでも、帝国からすれば強硬派であり多くの民意を得ているディアを、認めるわけにはいかないだろう。


 そうすると、帝国はどうするか。

 当然、第二公子を推してくるに違いない。


「……申し訳ないですが、この状況で第二公子を立てるという選択肢はありません。そうなってしなったら、それこそ公国は帝国の手に落ちてしまいます」

「……そうだな」


 僕の言葉に、侯爵は目を(つむ)りながら静かに頷いた。


「それで、どうする?」

「……ラウディオ閣下には申し訳ありませんが、同じタイミングでエルディ殿下にも退場(・・)していただくことにします。帝国と共に」

「そうか……」


 ラウディオ侯爵にも思うところはあるだろう。

 第二公子もまた、ディアと同じく彼の親友(・・)の子どもなのだから。


「それでは閣下、下準備はよろしくお願いします」

「承知した。当日の結果を楽しみにしているよ」


 僕はラウディオ侯爵と握手を交わし、ディアの待つ宮殿へと帰った。

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