光の世界のあなた、薄暗い世界の僕
「それで……ラウディオ侯爵は、ディア様のお味方になっていただける、そう理解してよろしいですね?」
僕はニコリ、と微笑みながら、ラウディオ侯爵に向かって念を押す。
先程語ってくれたことが真実であるとは思うけど、それでも、海千山千のラウディオ侯爵のことだ。自分が……いや、公国が不利となれば、平気で僕達を切るだろう。
たとえ、ディアであっても。
「もちろん、そう受け取ってもらって構わない。このヘンリク=ラウディオ、リューディア殿下に永遠の忠誠を誓うとも」
そう言って、ディアに向かって深々と頭を下げた。
はは……頭を下げるのはタダだからね。
「分かったわ……ラウディオ卿、これからよろしくお願いするわね」
「承知しました」
「では、話もまとまったことですし、宮殿に戻りましょう」
「ええ」
ディアの手を取り、僕達は立ち上がる。
「アルカン君。君の次の策、楽しみにしているよ」
「はい。ラウディオ閣下も、そろそろ真面目に政務に勤しんでいただけると助かります」
「クク……痛いところを突く。だが、私が政務に戻るのは、君達が全てを整え終えてからだ」
「はは……」
ラウディオ侯爵の言葉に、僕は苦笑した。
まあ、帝国に見つからないように水面下で動いているんだ。まだ表に出るわけにはいかない、か。
とはいえ。
「なら、結構早く政務にお戻りいただけそうですね」
「クク……ハハハ……!」
おどけながらそう告げると、ラウディオ侯爵は大声で笑った。
◇
「ユリウス殿。お見送りいただき、ありがとうございます」
「いいえ、父によろしくお伝えください」
ニコリ、と微笑むユリウス殿に見送られ、僕とディアは馬車で侯爵邸を後にする。
うん……とりあえず、ディアがユリウス殿に興味がないようで本当によかった……。
「? アル、どうしてホッとした表情を浮かべているの?」
「え!? あ……そ、その……」
うう……実はディアがユリウス殿に取られるんじゃないかとやきもきしていたなんて、とても言えない……。
「あ……フフ、そういうこと。アルの策どおり、ラウディオ卿が私達の陣営に加わったことに安堵したのね」
「あ、あはは……そうですね……」
彼女の言葉に、僕は苦笑する。
ディアが勘違いしてくれたようなので、それに便乗しておこう。
「それでアル、ラウディオ卿もこちら側になったけど、これからどうするのかしら?」
「もちろん、次で仕上げですよ。これでディアは、この国の女王……公女王リューディアになるんです」
「そう……私が……」
感慨深げに口元を緩めるディアに、僕は力強く頷いた。
そして、最後の策に向けて、あとは餌をまくだけ。
そうすれば、餌に釣られた馬鹿な豚……は既に先約がいるから、鶏ってところかな。
とにかく、まずはこれでメルヴレイ帝国は認めざるを得なくなる。
――リューディア=ヴァレ=サヴァルタという女性を、この国の女王として。
「そうだ。実はディアに一つ欲しいものがあるんです」
「欲しいもの? あなたが何かをねだるだなんて、珍しいわね」
ディアは僕の顔を覗き込み、揶揄うように口の端を持ち上げる。
「あはは……そうですね。ですが、最後の策のために、どうしても僕に必要な物なんです」
そう……“厄災の皇子”の僕には、なくてはならないものなんだ。
これから先、帝国に厄災をもたらすために。
「フフ……だったらアルのために、とびっきりのものをプレゼントしてあげる! 楽しみにしていて!」
「はい……よろしくお願いします」
僕の手を取り、嬉しそうにはにかむディアを見て、僕の心がどうしようもなく締めつけられる。
ああ……こんなにも身近にあるのに、どこまでも眩しくて遠い……。
でも、あなたにはこれから、ずっと陽の光のその先で輝いていてほしい。
僕は……薄暗い世界から、そんなあなたを支え続ける。
……たとえ、あなたと結ばれなくても。
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