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女王になった後の約束、見守っていた事実

「フフ……ラウディオ卿、どんな顔をするのかしら?」


 ラウディオ侯爵の屋敷へと向かう馬車の中、眼鏡をかけてかつらを被り、さらにはメイド服を着たディアがクスクスと(わら)っている。


「……それで、ヨナスさんには見つかってはいないでしょうね?」

「もちろんよ。今頃、私のことを血眼(ちまなこ)で探していたりして」


 うわあ……悪い笑みだなあ……。

 でも、ディアはものすごく綺麗なだけに、そんな表情ですらも蠱惑(こわく)的で引きこまれそうになってしまう。


 だから。


「あ……」

「ディア……今日、これからあなたの歩む道が決まります。だから……」

「うん……よろしくね? 私の参謀様(・・・・・)


 僕はディアの手を取り、互いに見つめ合う。

 出逢ってすぐの頃は、彼女も尊大な態度で自分を守っていたけど、ロイカンネン将軍も味方に引き入れ、パッカネン男爵を摘発したことが、ディアの中で大きな自信になってくれた。


 今では、僕の前ではこんなにも素直な自分を見せてくれている。

 そんな彼女が、僕はどうしようもなく愛おしい。


「ね……アル、私が女王になっても、ずっと(そば)にいてくれるわよね……?」


 急に不安そうにしながら、真紅の瞳でジッと見つめるディア。


「……もちろんです。僕は、いつまでもあなたと共に」

「ん……」


 僕の手を強く握りしめ、ディアはニコリ、と微笑んだ。


 すると。


「どうやら到着したようですね」

「ええ……アル、頑張ってね?」

「はい!」


 労いの言葉をかけてくれたディアに、僕は力強く頷く。


 ラウディオ侯爵の屋敷の玄関に横付けされた馬車から降りると。


「お館様が急にお呼び立てしてしまい、申し訳ございません」

「いえ……」


 深々とお辞儀をしながら謝罪するユリウス殿に、僕は苦笑しながらかぶりを振った。


「それで、こちらの方は……?」

「はい。新たに私の補佐をしてもらっている侍女です。なにせ従属派の貴族の方々のほとんどが、牢屋に入れられるかボイコットするかですので」

「ああ……」


 そう言って肩を(すく)めてみせると、ユリウス殿がクスリ、と笑った。

 そんな彼の表情を見て、僕は慌てて振り返る。

 だってユリウス殿は、美形で背も高くて、物腰も柔らかいから、その……女性なら彼に惹かれてもおかしくはないから……。


「? アルカン様、どうなさいました?」

「あ、ああいえ……」


 不思議そうに尋ねるディアを見て、僕は胸を撫で下ろす。

 どうやらユリウス殿は、今のところディアのお眼鏡にかなってはいないようだ。


「では、どうぞこちらへ」


 ユリウス殿に案内され、僕達はラウディオ侯爵の待つ部屋へと案内される。

 その途中で。


「(フフ……だけど、本当に似ているわね(・・・・・・))」

「(でしょう?)」

「(ええ!)」


 ユリウス殿に聞かれないように、僕とディアは小声で話しながらクスクスと笑い合う。


 そして。


「アルカン殿、よくまいられた」


 執務室へ入ると、少し渋い表情をしたラウディオ侯爵が立ち上がって出迎えてくれた。

 はは……前回の時は、僕が来た直後は一瞥(いちべつ)すらしなかったのに、今回は余程焦っているのかな?


「ラウディオ閣下……いかがなさいましたか?」

「……ロイカンネン将軍が、思いのほかパルネラ卿の解放を認めないとの()を聞いたのでな」

「そうですか」


 そのまま促され、僕はソファーに座る。


「それで、これからどうするのだ? ロイカンネン将軍は公国の武の要、私としても下手な真似をして衝突することは避けたい」

「そうですね……」


 僕は口元に手を当てながら、思案するふりをする。

 だけど……これで決定的(・・・)になった。


 やはりラウディオ侯爵は、僕達を……ディアを監視していた。


 あとは、どういう意図をもってそうしていたのか、ということだ。


「……ラウディオ閣下。ご存知のとおり、ロイカンネン将軍閣下は今では強硬派の一人としてリューディア殿下に(くみ)しておられます。一方で、閣下は従属派の領袖(りょうしゅう)。そこまで将軍閣下との関係を気にされる必要もないと思いますが……」

「そう簡単な話ではない。彼女がおらねば、少なくとも帝国が本気になった時点で、一瞬で終わる(・・・・・・)


 これで間違いない。

 ラウディオ侯爵は、最初から(・・・・)従属派などではなかった。


 表向きはメルヴレイ帝国に従属する姿勢を見せ、その裏では帝国の甘い汁を吸う従属派の貴族達を監視する。

 将軍との関係を気にしているのも、万が一(・・・)に備えてのことだろう。


 ……ひょっとしたら、ラウディオ侯爵もたった一人で戦っていたのかもしれないな……。


 なら。


「ラウディオ閣下……一つだけ……一つだけ、お伺いしてもよろしいでしょうか?」

「……何かね」


 僕が居住まいを正してラウディオ侯爵を見つめると、彼は僕の雰囲気が変わったことを悟ったのか、同じく真剣な表情で僕を見た。


「どうして、僕達を……いえ、リューディア殿下を見守っていた(・・・・・・)のでしょうか?」

「…………………………」


 そう……ラウディオ侯爵は、間違いなくディアのことを見守ってくれていた。

 彼女の、最も身近な(・・・・・)位置で(・・・)


「……どうしてそう思うのかね?」

「簡単です。将軍がパルネラ子爵を解放しない事実を知っているのは、僕を含め四人しか(・・・・)いない(・・・)からです」


 鋭い視線を向けるラウディオ侯爵に、僕は静かにそう答えた。

お読みいただき、ありがとうございました!


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