まもなくその時、二度目の呼び出し
「……なるほど、そういうことか」
そこには、メルヴレイ帝国とパッカネン男爵、さらにはその裏にいる豚……外務大臣のヨキレフトの名前が記されてあった。
それと共に、日付と数字が並んで記されていた。
どうやらこれは、豚やパッカネンの帝国との取引記録みたいだ。
「……将軍閣下。この日付ですが、ひょっとして調査によって発見された人身売買の日付と一致していたりしませんか?」
「っ!? ……し、至急確認いたします!」
ロイカンネン将軍は、慌ててこの部屋を飛び出していった。
「ア、アル、それって……」
「……まずは、将軍の確認を待ちましょう」
そして。
「……アルカン様のおっしゃったとおり、紙に記されている日付と人身売買の取引記録と一致しました」
「やっぱり……」
これではっきりと分かった。
ラウディオ侯爵は、このパルネラ子爵に内偵をさせていたんだ。
それで、将軍に捕らえられてしまった彼が罪を負う前に、助け出そうと考えたのか……。
「ですが……これで、ますます期待できるというものです」
そう言うと、僕は口の端を持ち上げる。
元々そのつもりだったとはいえ、これは僥倖というほかない。
「あ……フフ。私の参謀様には、何か考えがあるのね?」
「はい。是非とも期待していてください。これで、間違いなくディア様は公国の女王となります」
「そ、そう……っ」
僕の言葉を受け、ディアの頬に一筋の涙が伝う。
「あはは、まだですよ。涙は、その時まで取っておいてください」
「ええ……ええ……っ」
必死に涙を堪えるディアを見て、胸が熱くなった僕と将軍は、口元を緩めた。
◇
「お帰りなさいませ。殿下、アルカン様」
収容施設から戻った僕とディアを、ヨナスさんが出迎えてくれた。
「結構疲れたわね……だけどアル、あの様子だと将軍は簡単には差し出してはくれないわよ?」
「そうですね……」
僕とディアは顔を見合わせ、肩を落とす。
「……何かあったのですか?」
「ああ、ヨナス……あなたにも説明するわね」
ディアは、収容施設でのことについてヨナスさんに説明した。
パルネラ子爵が禁止薬物の副作用で、既に会話ができるような状態ではなく、ラウディオ侯爵との関係を聞き出すことは到底不可能であったこと。
やむなく、せめて収容施設から連れ出すことにしようとしたけど、今度はロイカンネン将軍が侯爵への引き渡しについて強硬に反対したこと。
「……“白銀の戦姫”がこの上なく頑固だということ、失念していたわ……」
「ですね……」
「そうだったのですか。では、これからどうなさるおつもりで?」
「決まっているわ。将軍はアルに次ぐ、大切な仲間なのよ? 従属派の領袖としてエルヴィを支持しているラウディオ侯爵とじゃ、比べるまでもないわよ」
様子を窺いながら尋ねるヨナスさんに、ディアは手をヒラヒラとさせながら答えた。
要は、ラウディオ侯爵の依頼は達成できずというわけだ。
「そういうことだから、この件はこれでおしまい。今日はもう疲れたから、お風呂に入って休むわね」
「かしこまりました」
ディアはそう告げると、そのまま自分の部屋へと戻っていってしまった。
「あはは……どうしましょうか」
「アルカン様もお疲れでしょうし、このままお休みになられてはいかがでしょうか」
「では、そうさせていただきます」
僕はヨナスさんに見送られ、自分の部屋へと戻る。
さて……おそらくラウディオ侯爵は、今回の結果を受けて連絡をしてくるだろう。
早ければ、あと一、二時間もしないうちに。
それまでは、僕も部屋でくつろいでいるとしよう。
そう考え、僕はベッドの上に寝転ぶ。
でも、これでサルヴィア公国は十年の時を経て一つになる。
もちろん、カジノの事件で多くの従属派を取り締まったとはいえ、それでも第二公子に付き従う貴族は多い。
それでも、僕はディアに報いることができる。
その後は……。
「……いや、そこから先については、まだ考えるのはやめよう。まずは、ディアを女王にすることが先だ」
僕はかぶりを振り、目を瞑る。
すると。
「……様。アルカン様」
「んう……?」
身体を揺すられ、僕の意識が少しずつ戻る。
「あれ? ヨナスさん……って、ひょっとして僕、寝ていましたか?」
「はい」
僕の問いかけに、ヨナスさんが頷く。
ああ……どうやら、本当に疲れていたみたいだな。
「それで、どうかしましたか?」
「はい。ラウディオ侯爵閣下より、手紙が届いております」
「っ! 来ましたか!」
僕は素早く手紙を受け取ると、封を開けて手紙を読む。
そこには。
『至急、会いに来られたし――ヘンリク=ラウディオ――』
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