壊れた対象、隠された紙片
「……パルネラ子爵に、一体何があるのかしら……」
馬車に乗ってカジノで捕らえた貴族達を収容している施設へと向かう中、ディアがポツリ、と呟く。
「分かりません……とにかく、それについては本人に聞くとして、問題はどこから情報が漏れたかです」
「そうね……だけど、元々私は宮殿の者達から嫌われているから、怪しいといえば全員が怪しくなってしまうのよね……」
ディアはそう言うけど、それはないと僕は考えている。
もちろん、ディアの立場が不利に働くように行動することは考えられるけど、それでも、この僕が策を立てただなんて、絶対に思わないだろうから。
それは、今も宮殿で働く使用人達から受ける、侮蔑の視線からもよく分かる。
とはいえ僕も、目星がついていないわけではないんだけどね。
「ところで、ヨナスさんに仕事のほとんどを押し付けてしまって申し訳なかったですね……」
「仕方ないわ。アルはラウディオ侯爵の依頼をこなさなければいけないし、カジノの一件は今の最重要問題よ。何をするにしても、私と将軍がいないことには始まらないのだから」
「ええ……って、どうやら着いたようですね」
馬車は収容施設の門をくぐり、入口に横付けされる。
僕は先に馬車から降りると。
「ディア、どうぞ」
「フフ……ありがとう」
彼女の小さな手を取り、馬車から降ろす。
僕もようやく、女性に対しての礼儀が少しは身についてきたようだ。
「でも、こんなことをするのは、私だけにして頂戴ね?」
「あはは……もちろんです。僕には、あなただけなんですから……」
「うん……」
ディアは、僕の手を取りながらそっと肩を寄せた。
「……殿下、アルカン様、お待ちしておりました」
先に来ていたロイカンネン将軍が、お辞儀をしながら出迎えてくれた。
「将軍。それで、パルネラ子爵はどちらに?」
「……はい。既に別室で待機させています。ですが……」
「何かあったの?」
「……子爵に会っていただければ分かります。まずは、どうぞこちらへ」
僕とディアは将軍の言葉が気になるものの、とりあえず彼女に案内してもらい、パルネラ子爵がいる部屋へと向かう。
「……この中に、パルネラ子爵がいます」
「分かったわ」
扉を開け、部屋の中に入ると、パルネラ子爵と思われる一人の男性が、憔悴しきった顔でうつむいていた。
しかも、ブツブツと何かを呟いている。
「パルネラ卿、私が分かるかしら?」
「はえ? ……あ、こ、こうりょれんか……?」
「「っ!?」」
パルネラ子爵は、焦点が定まっておらず、呂律も回っていない。
これは……禁止薬物の後遺症によるものか……?
「困ったわね……これじゃ、聞くに聞けないわ……」
「とりあえず、ラウディオ侯爵のことについて尋ねてみましょう」
「そ、そうね。パルネラ卿、あなたは内務大臣であるラウディオ侯爵と、どのような接点があるのかしら」
「…………………………へ?」
ディアが問いかけるも、パルネラ卿は首を傾げるだけだった。
どうやら、質問の意図も理解していないみたいだ。
「……殿下、アルカン様、いかがなさいますか?」
「そうですね……」
今もブツブツ言っているパルネラ子爵を眺めながら、僕は思案する。
僕の情報までつかんでいたラウディオ侯爵のことだから、パルネラ子爵がこんな状態だということは、知っているに違いない。
それでもなお、僕に子爵を助けるよう便宜を図るように言ってきたのには、何か理由があるはずだ。
だけど、その理由が思い浮かばない。
「将軍閣下……パルネラ閣下は、カジノでの調査において、どのように確保されたのですか?」
「……この調書によると、禁止薬物の中毒症状により部屋の中で倒れているところを発見されました」
「そうですか……その時、部屋にいた者は?」
「……このパルネラ卿一人だったようです」
そうなると、ますます怪しくなってきたな……。
何か、余計なことに巻き込まれているような、そんな気がしてならない。
こうなると、ラウディオ侯爵は何を知っているんだ……?
僕は口元を押さえ、思考を巡らせる。
その時。
「あああああー……」
「っ!?」
突然、パルネラ子爵が奇声を上げたかと思うと、立ち上がってディアに抱きつこうとした!?
「クソッ! 離れろ!」
僕は思わず二人の間に割って入り、パルネラ子爵を押し退けた。
「ディア様! 大丈夫ですか!」
「え、ええ……ありがとう、アル……」
ディアはかなり驚いた様子ではあるけれど、特に問題はなさそうだ。よかった……。
「あああああー……」
「しつこいですよ! いい加減に……っ!?」
また立ち上がり、今度は僕に抱きつくパルネラ子爵。
だけど、それによって乱れた彼の服の襟の裏に、紙片の端が見えた。
「……いい加減にしなさい!」
「あう……」
将軍が無理やり引き剥がすと、パルネラ子爵がもんどり打って倒れた。
僕は慌てて彼に駆け寄り、その服の襟を確認する。
「? アル?」
「やっぱり……」
襟の裏には、四つ折りになった小さな紙があった。
「アル、こ、これ……」
「とにかく、開いてみましょう」
僕はその小さな紙を開いてみると……っ!?
「……なるほど、そういうことか」
そこには、メルヴレイ帝国とパッカネン男爵、さらにはその裏にいる豚……外務大臣のヨキレフトの名前が記されてあった。
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