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異なる子飼いの貴族、情報の漏洩

「ふむ……とりあえず、君の考えは分かった。その上で話を戻すが、君の言葉を受け取るならば、やはり君に口添えを頼んで何とかしてもらうほうが早そうだ」

「…………………………」

「どうだろうか?」


 ずい、と身を乗り出し、ラウディオ侯爵は有無を言わせないとばかりに僕の目を見る。

 僕の本音を引き出した上で、再び交渉のテーブルに引きこんでくるなんて、さすがにしたたかだな……。


 さて、こうなるとラウディオ侯爵自身が後押ししている第二公子を頼れという回答は、できなくなってしまった。

 なにせ、僕自身がディアのほうが第二公子よりも優れていると言い放ったのだから。


 もちろん、ラウディオ侯爵は僕達と敵対する側である従属派の領袖(りょうしゅう)なのだから、普通に断るという手もなくはない。


 だけど。


「……僕ごときがどこまでお力添えできるかは分かりませんが、まずはやってみます」

「おお! それは助かる!」


 肩を竦めながらそう告げると、強面(こわもて)だった表情が打って変わり、ラウディオ侯爵は微笑んでみせた。

 こうやっていとも簡単に表情を使い分けるところからも、目の前のこの男は侮れない。


「それで、ラウディオ閣下のゆかりの御方というのは、どなたなのでしょうか?」

「うむ、ユリウス」

「はい」


 侯爵の後ろに控えていたユリウス殿が、一枚の書類を僕に手渡す。

 そこに記されていたのは、“カールロ=パルネラ”という地方の子爵の情報だった。


 だけど。


「……失礼ですが、本当にこの御方でよろしいのですか?」

「? どういう意味だ?」

「いえ……」


 不思議そうに尋ねるラウディオ侯爵に、僕は言葉を濁した。

 それにしても、これはどういうことだ?

 元々こちらで捕らえたラウディオ侯爵の()は、“コッコラ”伯爵という金遣いの荒い従属派の一人だったはず。


 なのに、侯爵から示されたのは従属派でもラウディオ侯爵の子飼いでもなく、たまたま(・・・・)魔が差して違法薬物に手を染めてしまった、中立派の地方の一貴族。

 ラウディオ侯爵ほどの人がわざわざ僕に頭を下げ、ある意味こんな危ない橋を渡ってまで助けようとするなんて……。


 ……少し、調べる必要があるな。


「分かりました。では、すぐに戻ってリューディア殿下と将軍閣下に交渉してみます」

「うむ、よろしく頼む」

「失礼いたします」


 僕は席を立って恭しく一礼すると、ユリウス殿が扉を開け、来た時と同じように玄関まで案内する。


「では、ラウディオ侯爵によろしくお伝えください」

「かしこまりました」


 深々と頭を下げるユリウス殿に見送られ、僕は侯爵邸を後にした。


 だけど。


「……これは妙なことになったな」


 そう独り言ちると、僕はこの後のことについて考えを巡らせた。


 ◇


「ただいま戻りました」

「! アル!」


 宮殿に戻り、そのまま真っ直ぐディアの部屋へ来ると、彼女は僕を見るなりパアア、と満面の笑みを見せた。


「それでどうだったの? ラウディオ侯爵に変なことをされてはいない?」

「あはは、僕は大丈夫です。それより、ラウディオ侯爵との件についてご報告しますので、将軍閣下もお呼びしましょう」

「ええ、分かったわ。ヨナス」

「かしこまりました」


 ヨナスさんは一礼した後、すぐに部屋を出て行った。

 しばらくの間、僕とディアは談笑していると。


「……アルカン様がお呼びとお聞きし、馳せ参じました」

「あ、は、はい……」


 ディアの部屋に勢いよく入ってくるなり、ロイカンネン将軍は膝をつき(こうべ)を垂れた。

 おかげで僕は今、ものすごく微妙な表情をしているに違いない……って、どうしてディアは僕をジト目で見るのだろうか……。


「その、とりあえず立ってください。それで、ラウディオ侯爵とのことですが……」


 僕は、ラウディオ侯爵とのやり取りについて二人に説明した。


 ラウディオ侯爵が、僕達が目をつけていた貴族ではなく、地方貴族の一人であるパルネラ子爵が罪を負わないようにと便宜を図ってほしいと依頼を受けたこと。


 そして。


「……どのようにかは分かりませんが、ラウディオ侯爵は僕達の情報をつかんでいます。しかも、今回のカジノの一件に僕が絡んでいることまで知っていました」

「「っ!?」」


 そう告げると、ディアと将軍は息を飲んだ。


「そ、それっておかしいじゃない……この一件がアルの策だってことは、誰にも知られていないはずよ?」

「……そのとおりです。少なくとも私は、このことを誰にも話してはおりません」

「はい……もちろん僕も、お二人から漏れたなどとは思っておりません。ですが、これは事実です」


 そう……どうやって情報を入手しているのかは分からないけど、こちらのことをラウディオ侯爵に把握されていることは間違いない。

 第二公子との争いにおいて、いかに情報をつかんで情報を見せないかが勝敗を左右するというのに、これでは圧倒的に不利だ。


「アル……それで、どうするの……?」

「……とにかく、ラウディオ侯爵の頼みを引き受けてしまった以上、まずはそのパルネラ子爵に会ってみましょう。接点がないはずの侯爵が依頼したのです。何かあるのでしょうから」

「そうね……」

「……分かりました。すぐに面会できるよう、手配いたします」

「よろしくお願いします」


 将軍は胸に手を当てて敬礼をすると、部屋を出て行った。

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