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侯爵との交渉、仕える理由

「よく来てくれた。私が、ヘンリク=ラウディオだ」


 ようやく僕を見て自己紹介をすると、ラウディオ侯爵は僅かに口の端を持ち上げた。


「アルカン=クヌートと申します。本日はお招きくださり、ありがとうございます」

「いや、こちらが君に用があって呼び立てたのだ。礼を言われる筋合いはない」

「は、はあ……」


 一応、社交辞令として挨拶をしたら、まさかこんな形で返されるなんて思ってもみなかった。

 だけど、雰囲気から察するに、別に皮肉で言っているわけでもなさそうだ。


「まあ、かけたまえ」

「し、失礼します」


 僕はソファーに腰かけると、ラウディオ侯爵も向かいに座った。

 そして、ユリウス殿がお茶を出してくれた。


「それで、僕を呼び出した理由をお尋ねしてもよろしいでしょうか?」

「なに、大したことではない。先日のカジノの一件について、聞きたいことがあってな」

「カジノの件ですか?」


 ラウディオ侯爵の問いかけに、僕は首を傾げてとぼけてみせた。

 あの事件については、あくまでも通報を受けたロイカンネン将軍が、独断で調査を行った結果、全てが発覚した(てい)を取っている。

 だから、将軍やディアならともかく、公女殿下の客人という位置づけでしかない僕に聞くというのは、どうにもおかしな話だ。


 でも……僕をこうして呼びつけ、その話を持ち出したということは、今回の絵図を描いたのが僕だということを、目の前の侯爵はそう認識しているということだ。


 ……まあいい、とりあえずは様子を見よう。


「一応、僕もリューディア(・・・・・・)殿下(・・)に報告に来られた将軍閣下のお話の範囲でしか知りませんが……」


 僕は、民衆ですら知っている程度の、当たり(さわ)りのない答えだけをした。

 さて……ラウディオ侯爵はどうでる?


「ふむ……では次の質問だ。君はカジノの顧客のほとんどが、エルヴィ第二公子殿下の派閥に属している貴族やメルヴレイ帝国の要人であったことは知っているか?」

「そうなんですか? あのカジノは会員制ではあるものの、資格さえ満たせば貴族でなくとも会員になれると、将軍閣下からは伺っておりましたが、まさかそのような構成になっているなんて……」


 僕はそう言うと、かぶりを振った。


「そうか……実は今回捕まった者の中に、我がラウディオ家ゆかりの者もいてな。それで、聞くところ(・・・・・)によると(・・・・)、君はリューディア殿下やロイカンネン将軍と懇意にしているそうじゃないか。なら、口添えを頼めないかと思ってな」

「は、はあ……」


 視線を泳がせながら、僕は曖昧に返事をした。

 だけど……やはり、僕についての情報がどこかから漏れている。


 それが一体どこから漏れたのか、徹底的に調べる必要がありそうだな……。


「まあ、堅苦しく考える必要はない。ただ、このことは君にとっても悪い話ではないはずだと思うがね」


 ……僕には、ラウディオ侯爵の真意を測りかねる。


 なら。


「……僕のようなどこの馬の骨とも分からないような者に頼むより、エルヴィ殿下にご依頼されたほうが確実かと思われますが……」

「……本当に、そう思うかね?」


 僕は派閥の長に頼んではどうかと言外に告げると、ラウディオ侯爵はジロリ、と睨んだ。

 はは……この威圧感、あの将軍にも引けを取らないな。


 でも、だからって僕がそれに怯むはずもない。


「はい、僕はそう思います。やはりリューディア殿下の弟君であり、次の公王(・・・・)と目されておられる第二公子殿下であらせられますから」

「うむ……」


 ん? ラウディオ侯爵が考え込んでしまったぞ?

 これは、何を意味するんだろうか……。


 僕とラウディア侯爵の間に、沈黙が続く。

 だが、それを先に破ったのは、ラウディア侯爵だった。


「……ふう。分かった、単刀直入に言おう。君ほどの男(・・・・・)が、何故リューディア殿下の下にいるのかね」

「っ!?」


 ……まいったな。

 まさかラウディオ侯爵が、僕のことをそこまで評価していたなんて。


 さて……だが、どうする?

 ここまで言われたのなら、今さらとぼけても仕方ないだろう。


 でも、答え自体は簡単だな。


「決まっています。本物の王としての資質を備えているのは、リューディア殿下だからです。ただ、殿下は()の使い道を知らなかった、そして、()を使う機会がなかった。それだけです」


 そう……ディアと第二公子、どちらが公王に相応しいかなんて、比べるまでもない。

 第二公子といえば帝国に従属するという形で媚び(へつら)い、一方で公国の者に対しては尊大で傲慢な態度を見せる。

 先日の、ロイカンネン将軍の時のように。


 だけど、ディアはそんな第二公子とは違う。

 これまでは周りに()しかいない状況だったため、あえて尊大な態度を見せて自己防衛をしていたけど、本当の彼女は国を想い、民を想い、たとえ“厄災の皇子”と呼ばれた厄介者であっても優しく包み込んでくれる、そんな慈愛に満ちた女性(ひと)だ。


 そんな彼女だからこそ、僕も、ロイカンネン将軍も付き従っているのだから。


 そして、僕と将軍が味方となったことで、いよいよディアの本来の力(・・・・)が発揮されようとしている。

 その片鱗も、先日の将軍との交渉の際に見せてくれた。


 だから。


「僕は、僕にできる限りの()で、これからもリューディア殿下のお力になりたいと考えております」

「そうか……」


 僕の偽りのない答え(・・)を聞き、ラウディオ侯爵は表情を変えず、ただ頷いた。

お読みいただき、ありがとうございました!


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