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見送る二人、待ち構える侯爵

 サルヴィア公国内務大臣、ヘンリク=ラウディオ侯爵。


 公国最大の貴族にして先代公王の頃から仕える名家の筆頭。

 その政治手腕によって公国内に確固たる地位を築き、それは属国となった今も一切衰えない。


 だが、そんな彼は先代公王のよき理解者であり、最大の支持者であったと共に、数々の黒い噂が流れていた。


 政敵を罠に()め、一族郎党全てを闇に葬った。

 メルヴレイ帝国と通じて、先の戦で公国が不利になるように仕向けた。

 そして……先代国王と時の宰相、将軍の三人をその手で殺め、帝国に差し出した。


 もちろん、これらは全て憶測の域を出ないものの、ラウディオ侯爵自身が一切否定せず、ただ沈黙を貫いている。


 そんな彼が、どうして第二公子に(くみ)しているのか、それは誰も分からない。

 ひょっとしたら扱いやすいからとして、裏で牛耳るつもりなのかもしれないな……。


「……それで? アルは本当にラウディオ卿の誘いに応じるの?」


 ラウディオ卿から手紙を受け取ったことを報告すると、ディアは(いぶか)しげな表情を浮かべながら尋ねる。

 まあ、ディアじゃなくてこの僕に面会したいとの手紙が届いたんだ。怪しむのも理解できる。


「……アルカン様、これはどう考えても罠です。お止めになられたほうがよいかと思います」


 ロイカンネン将軍が、抑揚のない声でそう告げた。

 でも、その真紅の瞳からは、僕を行かせまいとの必死さが(うかが)えた。


「二人共、僕のことを心配してくださり、ありがとうございます。ですが、僕はこの面会の申し出に応じようと思います」

「……そう」


 ディアは、プイ、と視線を窓の外へと移してしまった。

 どうやら、心では引き止めたいけれど、僕の意見を尊重してくれるみたいだ。


「っ! ……でしたら、その時にはこの私もお供いたします!」

「ありがとうございます。とはいえ、侯爵は僕一人で、と希望されていますので、それに従おうと思います」

「……ですが、それでは「将軍、いくら言っても無駄よ。アルはこう見えて、頑固なんだから」……はい」


 なおも止めようとする将軍をディアがたしなめ、彼女は押し黙る。


「二人共、ご心配なく。僕の見立てでは、あくまでも話し合い(・・・・)だと思いますので、危惧しているようなことはないと思いますよ」

「……別に、心配なんてしていないわよ」


 あはは……僕の主(・・・)は、存外過保護みたいだ。

 でも、ディアが僕のことをそれだけ大切に想ってくれていることが、どうしようもなく嬉しい。


「ディア様、将軍閣下、吉報をお待ちください」

「……フン」

「……アルカン様、どうかお気をつけて」


 僕は二人に向け、ニコリ、と微笑んだ。


 ◇


「ここが……」


 宮殿を出て馬車で向かったその先は、公都においてもひと際大きな屋敷。

 これこそが、ラウディオ侯爵の屋敷だ。


「失礼します。ラウディオ閣下よりお招きいただいた、アルカンと申します」


 僕は招待の手紙を門番に見せた。


「アルカン様、ようこそお越しくださいました。どうぞお通りください」


 確認を終えると馬車はすんなりと通され、玄関に横付けされる。


「ようこそラウディオ邸へ」


 馬車から降りた僕を出迎えてくれたのは、僕より少し年上程度の、若い男性の侍従だった。

 背は僕より頭一つ高く、栗色の長髪を後ろで束ね、どこか優しげな印象を与える美丈夫といった感じだ。


 だけど……どこかで見たことがあるような……。


「私はお館様の侍従を務めております、“ユリウス”と申します。アルカン様、でよろしかったでしょうか?」

「は、はい。アルカン=クヌートと申します」

「では、お館様の元へご案内いたします」


 僕はユリウス殿に案内され、屋敷の中を歩く。

 だけど……これは、宮殿にも負けないくらい豪華な屋敷だな……。


「この屋敷は、サルヴィア公国の建国当時から、代々ラウディオ家当主が公都で政務を行う際に利用してきたものです」

「な、なるほど……」


 僕の雰囲気を悟って、ユリウス殿が微笑みながら説明してくれた。


「その……ユリウス殿はこの屋敷に務めて長いのですか?」

「はい。私が八歳の頃からですので、今年で十五年になります」

「そ、そうですか……」


 八歳の頃、か……。

 同じ年の頃でも、かたやラウディオ家に奉公し、かたや薄暗い塔に幽閉だなんて、気の利かない皮肉だな。


 ――コン、コン。


「失礼します。アルカン様をお連れいたしました」


 ユリウス殿に部屋の中へと通されると、そこには執務用の椅子に腰かけながら、僕には一瞥(いちべつ)もくれずに黙々と書類を見ている中年の男性がいた。


 この方が、内務大臣のラウディオ侯爵か……。

 見た目の印象としては、内政官というよりも軍人といったほうが似合うかもしれない。


「よく来てくれた。私が、ヘンリク=ラウディオだ」


 ようやく僕を見て自己紹介をすると、ラウディオ侯爵は僅かに口の端を持ち上げた。

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