カジノの調査、公国の闇 ※シルヴァ=ロイカンネン視点
■シルヴァ=ロイカンネン視点
リューディア殿下に正式にお仕えすることとなった日から十日後の、今まさに日付が変わろうとしている時。
私は久しぶりに兵を招集し、屋敷に集結させた。
「……ここに集まった全兵士に告げます。これから公国の存亡にかかわる任務をあなた達に与えます」
「「「「「っ!?」」」」」
私の言葉に、集まった兵士達が一斉に息を飲んだ。
だけど、兵士達の表情はどこか嬉しさを滲ませているように感じた。
……思えば、このように公国のためにと働くのは、久しぶりですね。
それもこれも、私が妙に意固地になってしまったことが原因なのですが……。
でも、そんな私の中のわだかまりを吹き飛ばし、嵐の後のどこまでも透き通る青空のような心持ちにしてくださったのは、リューディア殿下とアルカン様。
私の過ちを気づかせ、進むべき道を示してくださったお二人には、本当に感謝と尊敬しかない。
……お父様も、今の私のような気持ちで亡き公王陛下にお仕えしておられたのでしょうか……。
「将軍閣下、準備が整いました」
「……分かりました」
さあ、今こそこれまでの私の償いと、お仕えするお二人に報いるために動く時です。
「……向かう先は繁華街にあるカジノです。全軍、進撃開始!」
「「「「「おおおおおー!」」」」」
公都の闇の中を、私達は進む。
サヴァルタ公国の未来のために。
◇
「将軍閣下、カジノの包囲が完了しました。いつでも突入できます」
部下の報告を受け、私はゆっくりと頷く。
……さあ、始めましょう。
「……では、まずは私を先頭に五十人の兵で乗り込みます。他の兵はその場で待機し、カジノから出てきた者は確保の上、手筈どおりに事情聴取を行ってください」
「「「「「はっ!」」」」」
私は兵を引き連れ、カジノの門を叩く。
「……私は公国軍司令官のシルヴァ=ロイカンネンです。匿名の通報があり、このカジノを調査します」
「っ!? ま、待ってください! 突然何を……っ!?」
「……全員、徹底的に調べ尽くしなさい」
カジノ内に次々と兵士がなだれ込み、カジノのお客達が困惑の表情を浮かべながら騒ぎ出す。
だけど、そんなお客達も私の顔を見た瞬間、押し黙る。
公国軍のトップが動いたのだから、騒いだところで状況は好転しないと理解したのだろう。
……ひょっとしたら、このお客達もアルカン様がおっしゃっていたような、いかがわしいことをしているのかもしれない。
すると。
「これは何事だ! ……って、ロ、ロイカンネン将軍!?」
「……これはこれは、パッカネン卿」
階段を慌てて下りてきた、妙に着飾った小太りの男。
このカジノの所有者である、パッカネン男爵だった。
まさかリューディア殿下と不仲であったはずのこの私が、このカジノに大挙するとは思ってもみなかったのだろう。
パッカネン男爵は目を見開き、顔中から汗が噴き出していた。
「……匿名の通報を受け、このカジノを調査いたします。パッカネン卿もご協力をお願いします」
「そ、そんな!? それは困ります! これは営業妨害ですぞ!」
「……何も問題がなかった場合は、今日の損失はこの私が全て補填いたしますので」
「ま、待って……っ!?」
有無を言わせないとばかりにそう告げ、制止しようとするパッカネン男爵の手を振りほどいて私も調査に加わる。
その時。
「か、閣下! こちらに来ていただけますでしょうか……!」
一人の兵士が、焦って私の元へとやって来た。
どうやら、何かを見つけたようだ。
「……案内してください」
「はっ!」
私は兵士の後をついて行き、向かった先は地下へと通じる階段だった。
階段を降り、部屋を開ける。
そこには……檻に入れられた、年端もいかないサヴァルタ人の子ども達だった。
「っ!? ……このような真似を……!」
私は怒りのあまり、拳で壁を打ち据えた。
レンガ造りの壁が、脆くも砕ける。
「……すぐに子ども達を救出、怪我などがないか確認を」
「はっ!」
檻を開け、子ども達を解放した。
だが……まさかこの公国で、人身売買をする者がいようとは……!
その後も、上の階で禁止されている薬に興じている者達、怪しげな取引を行っている者達など、公国では重罪にあたるものが次から次へと発見される。
「……パッカネン卿……いや、パッカネン。このような真似をして、ただで済むとは思うな。裁きの上、死をもって償え」
「あ……あああああ……っ」
私の言葉に、殺気に、パッカネンは呆けた表情で膝から崩れ落ちる。
それを兵士達が捕縛し、連行した。
「ご報告します。地下で発見された子ども達は、衰弱しているものの命に別状はありませんでした」
「……そうですか。子ども達に最善を尽くしてあげてください」
「はっ!」
アルカン様の策によりこのカジノを調査しなければ、あの子達はどうなっていたか。
それ以上に、このような闇を公国が抱えていたとは……本当に、私は将軍として何をやっていたのですか……!
自分の愚かさに、私は口惜しさで歯噛みした。
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