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助かった命、復讐の誓い

「……ハッ!?」


 ――ゴチン。


「~~~~~~~~~~っ!?」


 目を覚ました僕は、勢いよく身体を起こした瞬間、何か硬いものに額をぶつけてしまった。

 視界は暗闇で、僕はおそるおそる身体の周りに手を伸ばす……だけの広さはないらしい。


 どうやら、僕はどこかに閉じ込められているみたいだ。


「はは……ここが、あの世(・・・)ってところなのかな……」


 結局、僕は死んだんだろう。

 ここは死後の世界で、この狭い空間に閉じ込められているに違いない。


 そう思ったんだけど。


「……あれ? 動く?」


 手で押してみると、目の前にある壁が少しずれた(・・・)

 どうやら、これは(ふた)のようなものみたいだ。


 僕は力を込め、その(ふた)のようなものを動かしてみると。


「これ、は……」


 (ふた)が外れ、身体を起こしてみると、そこは大きな石室だった。

 しかも、自分が入っていたものも含め、多くの棺桶が並んでいた。


 ここは、()だったようだ。


 それに。


「棺桶の豪華さやこの石室の規模を見る限り、ここは皇室の墓なんだろうな……」


 はは……あんな塔に閉じ込めていたくせに、死んだら一応は皇室として扱ってはくれるんだな。

 死んでしまえば、そんなものに何の意味もないというのに。


 でも。


「僕は……生き返った、のか……?」


 胸に手を当て、心臓の音を確かめると……うん、正常に動いている。

 間に合わなかったと思っていたけど、毒を吐き出すことができたから、致死量には至らずに仮死状態となっていただけのようだ。


 その、瞬間。


「ああ……あああ……あああああああああああああああッッッ!」


 僕は崩れ落ち、叫びながら拳で床を叩きつける。

 何度も、何度も、何度も。


 僕は殺されそうになった。

 ただ理不尽に、ただ無慈悲に。


 こんな馬鹿な話があるか!

 こんなふざけた話があるか!


 僕は、怒り、悲しみ、悔しさ、口惜しさ、そんな全ての感情がない交ぜになり、どす黒い感情が胸の中に渦巻く。


 ああ……そうだ。

 僕は、何一つ与えられることもなく、何もかもを奪われた。

 人としての尊厳も、人並みの最低限の暮らしも、ほんの些細な幸せも……その命さえも。


 なら、今度は(・・・)僕の番だ(・・・・)


 僕は……僕から全てを奪った全ての者に復讐(・・)する。


 ――メルヴレイ帝国の全て(・・)に、厄災を。


 ◇


「だけど……さて、これからどうする……?」


 僕は石室の中をぼんやりと照らす魔道具のランプの明かりを眺めながら、今後について思案する。


 はっきり言ってしまえば、僕には何の()もない。

 八歳の時に塔に幽閉された僕は、当然ながら個による武の力なんて望むべくもない。


 あるのは、精々九年の間ひたすら読み漁ってきた、あの書物に記されていた全て(・・)のみ。


 だが。


「……悲観していても始まらない、か」


 僕はかぶりを振り、また考えを巡らせる。

 そういえば……僕が読んだ書物の中に、同じく復讐に燃える男が、いずれそれを果たした伝記がいくつかあったな。


 そう思い至った僕は、頭の中に所蔵されているその伝記を取り出して、もう一度読み返してみる。


「……これは使えるかもしれない」


 そう呟くと、僕は口の端を持ち上げた。

 とはいえ、策は浮かんだものの、それを実行するためにはこの僕を庇護してくれる国を見つけないといけない。


 それも、メルヴレイ帝国に対して恨みを持ち、虎視眈々とその首を狙っているような、そんな国が。


「……まずは、ここを出るところから始めよう」


 まだ先行きは不透明ではあるけれど、少なくともこれから僕がすべき道筋は決まった。

 なら、こんな死が充満しているような場所に、いつまでもいるわけにはいかない。


 僕は、石室の壁に灯る魔道具のランプ伝いに中を進む。

 だけど、やはり出入口は厳重に封鎖されており、僕一人の力では開きそうにない。


「……こういう皇族や王族の墓というのは、抜け道があると相場が決まっている……まあ、所詮は書物の受け売りではあるけど」


 独り言ちり、僕は苦笑する。


 そして再びあの石室へと戻り、壁や床を叩いて丁寧に確認していくと。


 ――コン、コン。


 一か所だけ、他の壁や床とは異なり、空洞の中に響く音。

 どうやらここが、抜け穴のようだ。


 僕は僕を入れていた棺桶の蓋を取り、音の違う壁目がけて突き押してみると。


「っ! 開いた!」


 壁が脆くも崩れ、暗闇の続く抜け道が現れた。

 僕は壁のランプを一つ取り、ひたすら抜け道の中を進んで行く。


「よ……っと」


 行き止まりまでたどり着いて僕は壁を押し込んでみると、ゆっくりと動き、隙間から光が差し込む。

 人一人が通れる隙間ができたところで抜け出した、その先には。


「外……だ……」


 そこは、大きな岩が数多く転がる岩山だった。

 でも、僕にとっては塔に幽閉されてから数えて九年振りに見た、外の景色。


「あああああ……っ!」


 こんな殺風景な場所なのに、僕は感動のあまり、ただ声を漏らしながら立ち尽くしていた。

お読みいただき、ありがとうございました!


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