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三つの策のその先、将軍の芝居

「……これまで私の犯した数々のご無礼、到底お許しいただけるものとは考えておりません。ですが……ですが、どうかこの私めを、リューディア殿下の配下の末席においてください……!」


 若干困惑気味のディアの前で、ロイカンネン将軍がひれ伏し、額を床にこすりつけていた。

 メルヴレイ帝国から戻って来た僕と将軍は、宮殿に帰ってくるなりすぐにディアに面会し、今に至っている。


 いや、公国の置かれている現状を認識した上で、こうやってディアの力になろうとしてくれていることはありがたいんだけど、さすがにここまでの変わりようは僕も予想外だ……。


「か、顔を上げなさい。とにかく、将軍が私に力を貸してくれることになったのは分かったわ。アル共々、これからよろしく頼むわね」

「……ありがとうございます! このシルヴァ=ロイカンネン、必ずや殿下のお役に立ってみせます! そして、公国に自由と平和を!」

「え、ええ……」


 表情に変化はないものの、これ以上ないほどサファイアの瞳をキラキラさせ、顔を上気させてディアを見つめる将軍。

 うん……本当にこの女性(ひと)、面倒くさいなあ……。


「コホン……そ、それで、これからのことについてはアルが説明してくれるから、その指示に従ってほしいの」


 咳払いし、ディアがそう言って僕に目配せをした。

 なるほど……将軍の相手が少し面倒になったんですね? 気持ちは理解できます。


「……アルカン殿、どうかよろしくお願いします」

「え、ええ……」


 僕の手を取りながら、将軍が詰め寄る。

 あの……できればこういうことは、遠慮願いたい。

 だってほら、ディアがものすごく不機嫌そうに僕を睨んでいるから。


「と、とりあえず、将軍閣下にしていただきたいことは二つです」


 僕は将軍の手を離してから、二つ目の策(・・・・・)について彼女に説明する。


 まず一つ目が、ディアとの関係が険悪なままであると装うこと。

 これは僕達の陣営に将軍が加わったことで、第二公子達に警戒心を持たれないようにするため。


 そして二つ目が。


「……パッカネン男爵が経営するカジノに、軍の調査だと称して乗り込んでほしいんです。そして、その建物を徹底的に調査してください」

「……アルカン殿。そのカジノには、一体何があるのですか……?」

「分かりません。ですが、公国にとってよからぬものがあることは、間違いないでしょう」


 おずおずと尋ねる将軍に、僕はそう答えた。

 少なくとも、パッカネン男爵が急成長を遂げた要因があることは確実だし、まともな商売でここまでのし上がることは不可能。


 なら、違法なものであることは想像に難くない。


「できれば、その調査結果で他の第二公子の派閥の者も釣れればいいんですが……」


 そう……それこそが、三つ目(・・・)の策へと繋がるはず。

 だからこそ、僕はパッカネン男爵に目を付けたのだから。


「……なるほど。ではアルカン殿は、そこまで見据えて策を立てていたのですね……」

「まさか。これだけではありませんよ」


 僕はこの三つの策の行きつく先を、ディア、将軍、ヨナスさんに説明した。


「アルったら、そんなことまで考えていたなんて……」

「……これは、驚きました」

「そういうことですので、この策の成否は将軍閣下の双肩にかかっております。どうか、よろしくお願いします」

「……かしこまりました、アルカン()


 ……ん? アルカン()


「え、ええと……それはどういう意味で……」

「……決まっています。このような深謀遠慮を持つ御方を、私は知りません。ですから、これからはアルカン様と呼ばせていただきます」

「は、はあ……」


 この将軍、サファイアの瞳をキラキラさせながら、まるでディアを見つめるような眼差しを向けてくるんだけど……。

 ま、まあ、それでやる気になってくれるならいいか……。


「……ですが、これほどの御方が運命に導かれるように殿下の前に現れるなんて……一体、アルカン様は今までどちらにお隠れになっておられたのでしょうか……」


 いや、だからそんな瞳でコッチを見ないでください。

 おかげでディアが、思いきり頬を膨らませていますので……。


 だけど。


「あはは……今までは、薄暗い塔の中、かなあ……」

「? ……塔の中、ですか……」


 そう答え、僕は寂しく微笑んだ。


 ◇


「……いい加減にしてください。どうしてあなたごときが、“白銀の戦姫”である私の邪魔をするのですか」

「…………………………」


 僕は今、宮殿の玄関でロイカンネン将軍の足元にひれ伏している。

 それも、彼女にぶたれて。


「……全く、あなたもあなたなら、そんなあなたを飼っている(・・・・・)リューディア殿下もどうしようもない御方ですね」


 そう言うと、将軍は口の端を持ち上げながら鼻を鳴らした。


 すると。


「何事だ」


 まるでタイミングを見計らっていたかのように、第二公子が取り巻き二人を連れて姿を現した。


「また貴様か! 先程は将軍の温情で首が繋がったというのに、今度という今度はもう勘弁ならん!」


 そう叫ぶと、()が倒れている僕の髪をつかんで引っ張りあげた。


「……ヨキレフト卿、この者は私自ら分からせて(・・・・・)やります(・・・・)。ですので、手出しは無用です」

「そ、そうですか……」


 将軍にそう告げられ、()が肩を落とした。

 はは……せっかく将軍の前でいい格好をしようとしたのに、残念だったな。


「ハハ……ロイカンネン、姉上のせいで不快な思いをさせて悪かった。今後はこのようなことはないように言い聞かせておこう」

「……ありがとうございます」

「そうだ。これからは是非、公国の行く末についてロイカンネンと語り合いたいものだな」

「……機会がございましたら」


 恭しく一礼する将軍を背に、第二公子は取り巻きを連れて上機嫌でこの場を後にした。


「……アルカン様、申し訳ありませんでした」

「あはは……いえ、こちらこそ打ち合わせ(・・・・・)どおり(・・・)ありがとうございます」


 将軍の手を借り、僕は起き上がる。

 ディア側と将軍が不仲であると見せつけ、警戒心を解こうと思って仕組んだことだけど、思いのほか信じてくれたようだ。


「……ですが、まさかエルヴィ殿下があのような礼儀知らず(・・・・・)の不快な人物であったとは……」

「あ、あはは……」


 あまり表情を変えない将軍にしては珍しく、苦虫を噛み潰したような表情を見せた。


「とにかく、あとは手筈どおりお願いいたします」

「……お任せください。必ずや、殿下とアルカン様のご期待に応えてみせます」


 そう言って、将軍は胸を叩いた。

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