サヴァルタ人の扱い、気づく白銀の戦姫
「……ここは?」
「はい。公国とメルヴレイ帝国とを繋ぐ地下通路です。ここを通れば、検問所を通過しなくても行き来することができます」
僕は『もちろん、ご内密に』との言葉を付け加え、ロイカンネン将軍に説明した。
「……このような通路があるとは知りませんでした。ひょっとして、先の戦の時に作られたものですか?」
「いいえ。これはディア様が属国となった後に作られたものです」
僕も彼女に教えてもらったのだが、属国となった直後はまだ公国内にも強硬派が多く、その時に支援を受けていくつかの国境越えのための通路を作ったらしい。
その後、多くの貴族の従属派への寝返りにより、唯一残っている通路がこれなのだという。
「……そう、ですか。それであなたは、私を帝国へ連れて行って何をしたいのですか?」
「何もしません。ただ、見てほしいだけです」
そう言うと、僕は持ってきたポンチョを将軍に渡す。
ただでさえ彼女は美人な上に、その銀色の髪は目立ってしまうから。
「あ、どうやら到着したようです」
「…………………………」
僕と将軍は地下通路から建物の一室へと出る。
「せっかくですし、どこかで食事でもしましょうか」
「……それは結構なので、早くその見てほしいものとやらを見せてください」
「あはは、そんなに慌てなくても、どこでだって見ることができますよ」
僕と彼女はフードを被り、建物を出る。
相変わらず、“デュール”の街は殺風景だな……。
「……っ!? あれは……!」
……どうやら将軍は、早速見つけたようだ。
「全く……サヴァルタ人が偉そうに道の真ん中を歩いてんじゃねーよ」
「…………………………」
大通りを歩くサヴァルタ人が、帝国民に罵られていた。
だけど、こんなのはこの街では日常茶飯事だ。
……いや、帝国内のどこであれ、サヴァルタ人に人権はない。
「っ! どうして止めるのですか!」
「見つかったらまずいということもありますが、この程度でいちいち飛び出していてはキリがありませんよ。それにあの人も、石を投げられないだけましです」
「…………………………」
「さあ、早く行きましょう」
口惜しそうに歯噛みする将軍を連れて、僕は大通りを歩く。
理不尽な罵倒を受ける者。
見つからないようにと、こそこそとしながら歩く者。
いじめを受けている子どもまで。
いずれも、ただサヴァルタ人というだけでこんな仕打ちを受けていた。
「……どうしてですか」
「? はい?」
「どうして彼等は、帝国民からこのような仕打ちを受け入れているのですか! 戦うなり、公国へと帰るなりすればいいじゃないですか!」
とうとう我慢しきれなくなった将軍は、声を荒げて僕に詰め寄った。
「簡単ですよ。この帝国で生きていくためです」
僕は、この街に住むサヴァルタ人の実情について説明した。
ここに住むサヴァルタ人は、戦より前に暮らしている人もいれば、属国となってからこちら側に移り住んだ人もいる。
元々住んでいた人は、故郷であるこの街を捨てづらいというのもあるし、移り住んだ人は公国よりも帝国で暮らすほうがまだ生活がましだから。
たとえ、酷い仕打ちを受けようとも。
「……今の公国は、それだけ苦しい状況に置かれているんです。それだけじゃありません。属国となったことで、サヴァルタ人は帝国人よりも下なんですよ」
「…………………………」
「仮に戦をしなかったとしても、貧しい公国は遅かれ早かれ帝国の属国となっていたでしょう。そして、このままではサヴァルタ公国そのものが地図から消えてしまいます」
「っ!? ど、どうして……?」
「簡単ですよ。帝国は、最初からそのつもりだったからです」
そう……帝国は、サヴァルタ公国を領土の一部に組み込もうとしていた。
だからこそ、ディアの父君である亡き公王に理不尽な要求を突き付け。戦を仕向けさせたのだから。
「……ディア様は、そんなサヴァルタ公国の……サヴァルタ人の置かれている状況を知っているからこそ、帝国から独立することを目指した。サヴァルタ人の尊厳を取り戻すため、帝国の侵略を阻止するために」
「あ……」
「それでロイカンネン将軍閣下、あなたはどうなのですか? このような事情は知らなかったのだと、ただの言い訳をするおつもりですか? 帝国も許せないが父親である先代将軍を道連れにした王族も許せない、そんなくだらない感情を抱え、また引きこもるのですか?」
本当は、このことを将軍自身に気づいてほしかった。
でも、こうなってしまった以上は仕方ない。
やはり、机上の策だけでは思いどおりにはいかないものだな……。
「……殿下は」
「?」
「……リューディア殿下は、こんな愚かな私を許してくださるでしょうか……?」
「分かりません。ですが今の将軍閣下でしたら、ディア様もお会いしてくださるかと」
「……そう、ですか……」
ロイカンネン将軍は、そのサファイアの瞳からぽろぽろと大粒の涙を零しながら、公国のある方角を見つめた。
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