将軍の使者、二つ目の策の下見
「申し訳ございません。リューディア殿下は多忙のためお会いすることができません。どうぞお引き取りを」
ロイカンネン将軍と面会してから一週間。
あの日から毎日、ディアとの面会を求めてロイカンネン将軍からの使者がやって来ている。
とはいえ、僕達はまだそれを受けるつもりはない。
何故なら、こうして使者を立てている時点で、本気で謝罪する姿勢を見せていないからだ。
もしディアに心から謝りたいのなら、使者を寄越すのではなくて将軍自ら宮殿まで赴くべきだ……って。
「ディア?」
「フフ……アル、眉間にしわが寄っているわよ」
通路の陰からヨナスさんと使者のやり取りを見ていた僕の眉間を人差し指で押しながら、ディアはクスリ、と微笑む。
どうやら僕は、この期に及んでもこんな真似をしている将軍に対する怒りが顔に出てしまっていたようだ。
「アル、私なら大丈夫よ。だってあなたが私の傍にいてくれるもの。たとえ誰一人として味方がいなくても、あなたさえいてくれればそれでいい」
「あはは……ディアの気持ちは嬉しいですが、僕はあなたという女性を公国中……いえ、世界中に知らしめないと気が済みません」
「フフ……もう」
そんなやり取りをしていると、使者は今回も諦めて帰るようだ。
はは、使者ごときが何度来ても同じことだよ。
「だけどアル、将軍はあとどれくらいで宮殿に顔を見せるかしら?」
「そうですね……あと二、三日といったところでしょうか」
今日の使者の必死な態度を見る限り、ロイカンネン将軍からはかなり言われているようだし、しびれを切らして出てくるだろう。
「殿下、アルカン様。使者の方がお帰りになられました」
いつの間にか僕達の傍にいたヨナスさんが、一礼しながら報告してくれた。
この気配を絶つ技術といい、やっぱりヨナスさんって実はすごい人ですよね?
「あ、ありがとうございます。では僕は、二つ目の策のための下見をしに行ってきます」
「その下見、私も一緒に行っては駄目……なのよね」
僕とヨナスさんにジト目で睨まれ、ディアはしょぼん、としてしまった。
「すいません。さすがにあんな場所に、あなたをお連れするわけにはいきません。ですからディア様は、僕の帰りを待っていてください」
「……ちゃんと無事に帰ってくるのよ?」
「もちろんです。僕はディア様を女王にするのですから」
「そ、それもあるけど、その……」
上目遣いで恥ずかしそうにするディアを見て、僕は思わず抱きしめてしまいそうになる思いを、拳を握りしめながら必死に我慢した。
◇
「ようこそお越しくださいました」
僕は今、公都の歓楽街にあるカジノに来ていた。
ここは、第二公子率いる従属派の貴族の一人、“パッカネン”男爵が経営している。
なお、ここは会員制で、貴族がお忍びで遊べるようにと、正体を隠すための仮面の着用を義務付けられている。
僕としても、自分の素性がバレることもないので好都合だ。
「さてさて……せっかく来たんだし、遊ばせてもらおう」
何といっても、ディアからそれなりに軍資金をいただいているしね。
ということで、僕は目の前にあったルーレットで遊ぶことにしたんだけど……うん、あっという間に軍資金の半分を失ってしまった。
どうやら僕には、こういった遊びの才能はないみたいだ。
はは……やっぱり運までは、本を読んでルールを知っている程度じゃ駄目か……。
肩を落としながら、僕は別のゲームをしようとカジノの中を歩き回る。
「それにしてもこのカジノ、思ったとおりかなり繁盛しているな」
店内の盛況ぶりを眺めながら、僕は頷く。
ディアとヨナスさんから教えてもらったパッカネン男爵の情報を見ると、ここ最近で急成長を遂げていた。
おそらくはメルヴレイ帝国からの資金提供などを受けているんだろうけど、それを差し引いてもパッカネン男爵の勢いは目を見張るものがある。
それも、このカジノ一店舗だけで。
もちろん、これだけ繁盛しているのだから儲かっているのは当然だけど、それでもカジノの利益だけでは説明つかない部分があった。
となれば、それ以外の商売にも手をつけていると見たほうがいいだろう。
「ん? あれは……」
見ると、豪華な服装やドレスを着た紳士や淑女達が、カジノのスタッフに案内されて別室へと入って行った。
どうやらあの部屋に、僕が考えているようなものがあるとみて間違いなさそうだ。
それ以外にも、怪しいところは何箇所か見受けられ、下見の収穫としては充分。
さすがにこれ以上深入りをしてしまったら、僕自身に危険が及びそうなので、今日のところはここまでとしておこう。
それに、全てを正すのは彼女の役割なのだから。
僕は今後の策とルーレットで負けてしまった言い訳を考えながら、カジノを後にした。
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