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値千金の情報、王への第一歩

「それで、せっかくディア様のお部屋で食事をしていますので、これからについて話をしておきましょう」

「え、ええ……」


 僕がそう告げると、ディアが居住まいを正した。


「まず、公国の貴族について、ご存知のことを全て僕に説明してくださいますか? もちろん、包み隠さず(・・・・・)

「……分かったわ。ヨナス」

「かしこまりました」


 それからディアと(そば)に控えていたヨナスさんが、公国の貴族について手渡してくれた資料に沿って教えてくれた。

 意外なことに、ディアとヨナスさんは貴族達の爵位や家族構成、所属する派閥はおろか、交友関係、運営事業、資産など、かなり幅広く情報を把握していた。


「いや、二人共すごいですね。むしろこれだけつかんでいれば、いかようにも手が打てるというものです」

「そ、そうなの? 私達はこの情報を駆使しても、どんどん離れていってしまうばかりで……」


 そう言うと、ディアは落ち込んでうつむいてしまった。

 ……これは、彼女に自信を取り戻してもらうことも必要だな。


「大丈夫です。ディアはこの情報の使い道を知らなかった(・・・・・・)だけ(・・)です。むしろ、これだけ情報を把握していることを誇ってください。そして、この情報こそが、あなたをこの国の王へと引き上げてくれます」

「あ……」


 僕がニコリ、と微笑みかけると、ディアはうつむいていた顔を上げた。

 そうだ……あなたにはいつも、前を向いていてほしい。


 尊大に、居丈高に振る舞い、その真紅の瞳にどこまでも慈愛を(たた)えながら。

 僕は、そんなあなたにどうしようもなく惹かれているのだから。


「ですが、このいただいた情報によって、少なくとも第二公子との力関係を、あの馬車の中で伺った三分の一までは引き戻せそうです」

「あう……アルって、ひょっとしてかなり意地悪なの?」

「あはは、どうでしょう」


 ジト目で睨むディアに、僕は苦笑した。

 でも、先程までとは違い、彼女の瞳に希望が宿る。


 そうだ、それでこそディアだとも。


「アル。それで、これからどうするの?」

「はい……やることは二つ……いえ、三つ(・・)ですが、まずは何よりこの方(・・・)をディア様の陣営に引き入れることこそが最優先です」


 そう……この名簿にある、一人の貴族こそが僕達の運命を左右する。

 ディア率いる強硬派にも、第二公子率いる従属派にも属しておらず、なおかつこのサヴァルタ公国最強の軍を率いる、武の象徴。


 そして、先のメルヴレイ帝国との一戦において、亡き公王アードルフ=ヴァレ=サヴァルタと共に戦い、共に散った“アンセルミ=ロイカンネン”将軍の嫡子にして公国一の武人。


 ――“白銀の戦姫”、“シルヴァ=ロイカンネン”。


 すると。


「……アル、それは無理よ」


 ディアは、悲しげな表情を浮かべ、そっと視線を落とす。


「? どうしてですか?」

「アルカン様。実は、ロイカンネン将軍閣下には、既に断られているのです」


 ヨナスさんが、ディアに代わって事情を説明してくれた。

 公国が強硬派と従属派に真っ二つに分かれた時、ディアはまず、ロイカンネン将軍を取り込もうとしたらしい。

 だが、何度面会を求めてもロイカンネン将軍に袖にされ、結局は力を貸してもらうことができなかった。


 唯一の救いは、ロイカンネン将軍は第二公子に対しても同じように断ったということだ。


「ヨナスが言ったとおり、私は彼女の力を借りることができなかったわ。もう一度頼みに行っても同じことよ」


 そう言うと、ディアは眉根を寄せてかぶりを振った。


「なるほど……では、ここは僕の腕の見せどころ、ということですね」


 僕は顎をさすりながら、口の端を持ち上げた。


「! ひょっとして、ロイカンネン将軍を味方にする策があるの?」

「さあ、どうでしょう」


 パアア、と笑顔になったディアに、僕は肩を(すく)めてみせた。


「な、なによアル……期待して損したじゃない……」

「あはは、すいません」


 不機嫌になったディアが口を尖らせ、僕は苦笑する。

 だけど、僕だって何も勝算もなしにこんなことを言ったりはしない。


 公王亡き今、ロイカンネン将軍がどちらにもつかないのには理由があると思っている。

 それも、おそらくはくだらない(・・・・・)理由が。


「ですので、ロイカンネン将軍の説得については僕にお任せいただけますでしょうか?」


 そう言うと、僕は立ち上がって恭しく頭を下げた。

 もちろん、ロイカンネン将軍を口説き落とす策はある。


「フフ……もちろん、全部私の参謀様(・・・・・)に任せるわ。私はただ、あなたからの果報を待つだけよ」


 ディアは、クスリ、と微笑む。

 そんな彼女に、僕の胸がどうしようもなくときめいてしまった。


 うん……じゃあ、始めるとしよう。


 僕の主(・・・)が、王となるための第一歩を。

お読みいただき、ありがとうございました!


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