不快な晩餐、公女殿下の涙
「ふわあああ……!」
夜になり、ヨナスさんに案内されて食堂へと来た僕は、目の前のテーブルに所狭しと並ぶ豪華な料理の数々に目を見開き、感嘆の声を漏らしていた。
「フフ、たくさん食べて頂戴。それに、料理の中には毒なんて入っていないから安心して」
悪戯っぽく笑いながら、証拠を見せるとばかりに料理を口に含む第一公女。
は、はは……強烈な皮肉だなあ……。
「で、では、いただきます」
僕は緊張しながらナイフとフォークを取り、書物で読んだマナーどおりに料理を口に含むと……ふわあああ……!
「お、美味しい!」
「そう?」
「はい! こんなに美味しいもの、生まれて初めて食べました!」
「フフ、たくさん食べなさい」
僕は夢中で目の前の料理を次々と食べる。
そんな僕を、彼女とヨナスさんは目を細めながら見つめていた。
その時。
「姉上、まさかペットを食堂にまで連れてくるとは思いもよりませんでしたよ。もう少し、弁えてください」
食堂に第二公子が現れ、僕を一瞥してから顔をしかめる。
「あら、私の客人なのだから、もてなすのは当然でしょう? 私からすれば、あなたの後ろにいる醜い豚のほうが目障りなんだけど?」
「何を言われるか!」
「失礼な!」
薄ら笑いを浮かべる彼女の言葉に、取り巻きの二人が激昂して怒鳴った。
それは、到底第一公女に対して使うべき物言いではない。
「お前達、たかが姉上が言ったことを気にしていたら身が持たないぞ。とにかく、私はペットと共に食事をする趣味はないので、早く追い出してくれないかな。おい」
「はい」
第二公子が傍にいた使用人に声をかけると、その使用人は待ってましたとばかりに、僕はともかく第一公女の分まで料理を取り下げてしまった。
「さあ、食事はもう済んだでしょう? 早く出て行ってください、姉上」
「……フン。まあ、今日の料理は失敗作だったみたいだから、ちょうどいいわ」
吐き捨てるようにそう言うと、第一公女が席を立ち、僕も慌ててそれに並んだ。
「だけど……フフ、豚が豚の餌を食べるなんて滑稽ね。そんな豚と席を共にするエルヴィも、誰かさんに飼われている家畜だからお似合いだけど」
「「言わせておけば……っ!」」
顔を真っ赤にし、第一公女につかみかかろうとする部下達と、それを止めようともせずに無表情のまま席に座る第二公子。
でも、ヨナスさんが第一公女と部下達との間に立って恭しく一礼した途端、部下達は振り上げた手を引っ込めた。
……ヨナスさんって、意外とすごい人なんだろうか。
「では、ごきげんよう」
彼女がニコリ、と微笑みながらそう言うと、僕達は食堂を後にした。
「……アルカン、食事は後で部屋に届けさせるわ」
「あ……お、お気になさらず……」
「失礼します」
第一公女は、ヨナスさんを連れてそのままどこかへと行ってしまった。
◇
食堂から部屋に戻ると、使用人達が嫌そうな顔をしながら食事を運んできた。
もちろん、僕はそれに手をつけていない。
だって、料理の中に毒が盛られているかもしれないから。
なので僕は、荷物の中に入れてある野菜を取り出すと、それをいつものようにかじった。
「……どうやら、これ以上は望めそうにないな」
この時の僕は、既にここを去る方向で心が傾いていた。
先程の食堂でのやり取りもそうだが、第一公女にとって明らかに分が悪すぎる。
まだ少しでもあの方に戦うだけの力が残っているのなら、少なくとも下の者があのような無礼な態度を取れるはずがない。
第二公子が傍にいて、それを容認しているということを差し引いたとしても。
とはいえ、そのような状況下においても彼女は強気でいた。
まるで、そんなことを少しも意に介していないかのように。
「はは……強いな……」
そんな姿を思い浮かべ、僕はクスリ、と笑った。
やはり彼女は、それだけ王としての資質を備えているのだと思う。
それだけに、この八方塞がりのこの状況が非常に惜しい。
もう少し状況が違っていれば、僕も否応なく彼女を選んだだろうに……。
「ふう……」
深く息を吐き、僕は窓から外を見やる。
すると。
「? あれは……」
部屋の窓から見える宮殿の庭園に、月明かりに照らされた一人の女性の姿があった。
どうやら第一公女のようだ
彼女に対する罪悪感からだろうか。
気づくと、何故か僕は部屋を出て庭園へと向かっていた。
そして……僕は見てしまった。
――第一公女が、月を見上げながら涙を零している姿を。
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