1章1話
[織田信長が実は生きてるとか、上杉謙信が女だとかいう説よりもやっぱり、秀頼が生き延びて薩摩で生涯を終えたって説の方がロマンがあって好きだな。」
昼休みの教室は窓から入る心地よい風と対比し男女様々なグループを作って賑わっている。
「いやいや徳川埋蔵金のほうがロマンがあるだろ。」そう返すのは同じ部活の歴史オタク、清水 優太だ。
「そういえば、話変わるけど、なんか廊下が騒がしくね?」たしかにいつも騒がしいが何か少し違う。
「まあ気になるから行ってみるか。」そう言い、歴史の話を中断し二人で廊下に向かった。
「うわっいつみても美人だわ。」「いいなぁ、あんな人と付き合いてえ。」色々な声が聞こえてくる。
「真由ちゃん髪切ったの?かわいいね。奈美ちゃんも久しぶり!」校内外問わず様々な人たちから憧れの的になっており、人懐っこいこの女性こそが2年生の神楽坂 琴音である。
例の人物がこっちに向かってくる。
「この教室に葛城 壮亮くんっているよね。呼んでほしいの。」先輩が俺に用?なんだろう...
何か嫌な予感がしてきた。
そう思いながら、「葛城 壮亮は俺です。」と答えた。
「あっ君が葛城君?思ったより小さいね。」
失礼だ。たしかに平均よりは小さいが、小学生の頃は後ろから3番目だったし、足だって速い。
そう思いながらもそういう気持ちは抑え、冷静に「そうですね。」とだけ答えた。
「もしかして怒ってる?ならごめんなさい。悪気はなかったの。ただ小さくて可愛いなと思っただけで...」
馬鹿にされていると思っていたが、声のトーンや表情をみるあたり悪気はなかったというのは本当らしい。
あと隠していたつもりだったが少し怒ってるのバレてたのかよ。なんか恥ずかしい。
「別に怒ってないっすよ。俺なんかに何か用ですか?」そういうと、急に先輩が顔を近づけてきた。
うわあ..シャンプーのいい匂い..と思っているのも束の間、そのまま耳元で「放課後屋上にきて。」と一言だけつぶやき、「じゃあね!葛城くん!」そう言うと去っていった。
もしかして告白でもされるのか!そんな甘い考えが一瞬よぎったりもしたがそんなわけがない。
「おいおい壮亮。先輩に何か言われてたみたいだけど何て言われたんだ?」
「ああ。放課後屋上に来いってただそれだけ。」
「二人きりで話したい事?もしかして告白か?」
「俺も一瞬思ったけどそれはない。」
「だよな。お前に限ってそういうことはないわな。そんなことがあったら地球が終わる日だわ。」
「言い過ぎだ。俺だってモテたことあるぞ?近所のおばちゃんに。」
「ドンマイ」
そんなたわいもない話をしていると次の授業の予鈴がなり、昼休みを楽しんでいた人たちも次の授業の準備に取り掛かった。
「ああやっと終わった。」。
周りを見渡すと帰りの準備をしている者、部活に向かっている者、話している者、様々だ。
俺にはまだ一つ行かなければいけない所がある。そう思いながらカバンに教科書などを詰め、
「屋上行くか。」と重い足取りで教室を出た。