眠りと現実逃避は気持ちがいい
新型ウイルス流行病が蔓延する中で、去年からの予定通り俺は無職になった。
気の抜けた転職活動をして早半年。気づけばニートも板についてきた。
そんな中、俺は現実逃避がしたくなった。
誰が何と思おうと、現実逃避がしたくなった。
特に異世界。異世界ならニートでも新しい生活ができるんじゃないか。
俺は異世界生活を目指すことにした。
そんな自分と妄想を織り交ぜた作品…のつもりで書き出してみた。
俺は異世界に行きたい。
異世界物の作品が楽しくて仕方がない俺は、年甲斐もなく漫画で徹夜をしてしまうのだ。
そして寝る。
ーーー
起きた。
「おはよう、壁さん」
一人暮らしなので、当然、壁に向かった独り言だ。
「11時…早起きか」
仕事は半年前に辞めた。
新型ウイルスによる流行病なんて想像もしてない頃に契約の更新を打ち切った。
偶然出会った元同僚が言うには、流行病のお陰で俺がいた頃より超絶仕事が緩いらしい。
あの悪くない給料も据え置きとは…!!
緩いのは女の子のガードとキャラだけで充分だ。働け。
次の就職先も決まらず今やニートの俺には皮肉過ぎる話を聞いてしまった。
ーーー
異世界に行きたいこの気持ち解ってもらえただろうか。
何?自分の方が不幸だって?
そうかもしれない。
でも…知るかそんなこと。
俺にはこれだけで現実逃避したくなるには十分なんだ。
ーーー
異世界に召喚された自分を想像してみる。
まずは人に呼ばれたver.
「おはよう、壁さ…ん?んん?!」
へ?へ?へ?…へ?
知らないとこだった。
しかも、人に囲まれている。
(え?なんで?俺なんかヤバいことしたっけ…?)
警戒して震え上がる俺に声が掛かる。
「目覚めたか、勇者よ」
(…?ユーシャ?俺、日本人だけど)
「ああえっと…おはようございます?」
返事はしてみたけど、怖い。怖すぎる。
ーーー
呪文を唱え終わると魔法陣が動き出す。
思わず叫んでしまう。
「来れ!勇者よ!」
魔法陣が光る。
ついに!ついに念願の勇者に会える!、
眩しさで視界を失った一瞬が、1時間にも2時間にも思えた。
彼(彼女)には魔王を倒す使命がある。
ああ、これからどんな冒険が待っているのか。
きっと苦難の道だろう。
それでも、きっと私が支えてみせる。
それが勇者を喚んだ者の責任であり、「魔術師カベ」としての義務だ。
ようやく光が収まる。いよいよ勇者に会えるのだ。
目を開けるとそこには…
おっさんが寝ていた。
(お、おっさんかぁー…)
なんか違う感に呆然としていたら、おっさんが起きた。
「おはよう、カベさ…ん?んん?!」
『え?名乗る前に名前呼ばれた!?
流石、おっさんでも勇者は勇者ってことか。
では、気を取り直して…』
「目覚めたか、勇者よ!」
ーーー
気づけば、現実の俺は寝ていた。