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形だけ大人になった僕たち  作者: 木痣間 片男(きあざま かたお)
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初恋から3:「家族も認めてくれたことが背中を押して、お付き合いをはじめました」

 しばらく前に、『初恋から』のタイトルで2作のエッセイを投稿した(第13、第14話)。


 20年ぶりに再会した初恋の人は、良いも悪いも昔のままだったが、けっして幸福な家庭を築いているわけではなかった。はじめはメールのやり取りだったが、実際に逢って話をしたいと願うのは当然の成り行きだった。

 前回、そんなところまでを話してきたが、その後の経過を述べる。


 食事でもしながらということで、新宿の、あるホテルで待ち合わせた。日帰りのできない僕は、泊る前提でそのホテルを予約した。これなら食事の後に僕は一泊できるし、彼女は帰宅することができる。

 高校以来の再会だから多少の緊張はあったけれど、現れた彼女の容姿は、当たり前だけれど当時の面影を色濃く残していた。どこをどう見ても、見間違えようがない。

 軽くウェーブのかかった肩までの髪、切れ長だけれどぱっちりした二重まぶた、まっすぐな薄い唇、色っぽさというよりは素直さを感じさせる佇まい、無味無臭の感覚と、そして何より懐かしい声。


 しいていうなら、しゃべりが上手くなっていたことが、僕にとっての多少の違和感だった。相変わらずの物静かと口ベタという期待があったが、20年の社会生活を築いた経験がある。きっと相談のできる友人がいなかったのだろう。せきを切ったような話し方には、ちょっと戸惑いを覚えた。が、しかし、久しぶりの再会にもかかわらず、沈黙が流れることもなく、話題の尽きることもなく話し続けられたのは、僕にとって嬉しいことだった。


 離婚後、自立を考えた彼女は、短期で募集された確定申告の補助というバイトをはじめた。

「独りで生きていかなければならないから、慣れない仕事だけれど、これくらいならできるわ」と、仕事を前向きに捉えようとしていた。

 僕は、なんでもいいから仕事をしていた方が、気が紛れていいのではないかと、それをポジティブに受け止めていた。


 事態は少しずつ動いていった。

 もともと優しい彼女の性格が功を奏したのか、バイト先の税務署において、日本語学校に勤める教授と知り合ったのだ。そして、その教授のアシスタントとして働かないかと誘われた。確定申告の進め方を丁寧に教えてくれた彼女の仕事ぶりが気に入ったのだろう。

 そんなところで就活というか、ナンパに近いことがあるのかと思ったが、「確定申告が終わればこのバイトも終了してしまうだろうし、せっかくいただいたご縁なのだから働いてみたら」と僕は、ほとんど躊躇なく勧めた。


 後にそれが、大きな誤算につながるとは・・・・・・。


 講義資料の作成というのが彼女に与えられた仕事だった。これまたはじめて扱う仕事だったが、ここでも彼女は真面目に取り組んだ。

「家に帰ってからも続きをやるから、パソコンを持ち歩くのが大変だけど、がんばっているよ」と言いながら、生活のために、自分の将来ために、努力をはじめていた。


 離婚後、叔母の家に居候をしていたのだが、通勤しやすい場所に引っ越すことを決意し、東武東上線沿線にワンルームマンションを借りた。

 引越祝いと称して、腰痛持ちの彼女のことを考えて、僕は数十万円のベッドをプレゼントした。それは、家具屋をいくつも回って選んだものだった。


 この再会は奇跡的な確率で発生したものと思っていた。想い続けてさえいれば、願いは叶うと思った。

 が、しかし、冷静に考えれば、ネットやSNSの発達した時代、こういうことが起こったとしても、けっして不思議ではない。現に、大学時代の友人が「オマエのSNS見たよ・・・、久しぶり」という言葉とともに承認申請の連絡がきたことも一度や二度ではなかった。

 だから、「僕は、告知や情報発信を目的にはじめたけれど、あっちゃんはなんではじめたの?」と尋ねてみた。

「私は、自分を発見してもらいたかったから・・・・・・」。


 “事情は明かせないが、ここにこうして離婚の危機に瀕した女がいる”ということを、どういう形にせよ訴えたかった。地元を歩けば、昔の友人が声をかけてくれるのではないかという淡い期待を抱いていることも打ち明けてくれた。

 そういう意味では、僕は真っ先にその網に引っかかったということなのか。でも、そんなことはどうだっていい、いまこうして何年ものときを経て彼女と再会し、一緒の空間で意識を共有できたことに対して、素直な感動を得ていた。


 その後もときどき、仕事を人生の拠り所にしようと奮闘している様子が伝えられてきた。もがき苦しみながらも、どうにか自分を立ち上げ、維持し、できれば少しでも幸せな生活を目指したいという気持ちが綴られていた。


 ときには、こんなお願いをされることもあった。


「あのね、お願いがあって・・・。

年末にかけて毎年思うことだけど、みんな家族といるのに、私はあとどれくらいこの孤独を味わわなければならないのか…。

 国家試験に受かったら、欲しかったピアスを自分のためにご褒美しようと思っていたの。そうしたらコロナのせいで、お給料が1円も入らなくって…、できなくなってしまったよ。でも、叔母とモールをまわっていたら、やっぱりご褒美はあった方がいいなって。他に甘える人がいないからお願いしてしまって申し訳ないけれど…・・・、半分だけお祝いしてくれる? 1万か2万くらいでいいので」


 悪い気はもちろんしなかった。頼ってくれることに対して、そのくらいの出資はどうということはなかった。

 すぐさま応えてあげる。すると間もなくして、こんなメールが送られてくる。

「こんな日は(冬のよどんだ日だったと思う)外に出る気分になれなかったけれど、ネックレスにピアスを付けてみたら、何となく元気が出てきて出掛けることができたよ。いつもありがとう」


 切なくも慎ましやかな生活が伝わってきた。僕がクリスマスに贈ったジュエリーを付けてくれたのだ。

 ITに関する国家資格の取得が叶い、彼女は授業を受け持つまでに成長した。そして、静かに数ヵ月が過ぎたところで、久しぶりのメールが送られてきた。


「お久しぶりです。

 4年ぶりに持病の腰痛が現れて、昨年の最後のころの授業は、何度も痛みに襲われてしまった。動けなくなる日もあったけれど、何とかやり切れたことでホッとしています。

 それから、報告があります。

 職場の気の合う先生からプロポーズを受けていたのを、年齢が離れているからという理由で何度も何度もお断りしていたけれど・・・・・・、そばにいて助けてくれたこと、『年上と結婚したら、旦那さんの介護は先生(彼女のこと)ですよ。でもボクなら先生を最後までちゃんと介護してあげられる。ずっと母の看病をしてきたので自信がある』と言われたこと、老いていく私に対して先まで考えて、それでもプロポーズしてくれた事実に真剣さを感じたこと、などの要素が重なり、家族も認めてくれたことによって背中を押され、お付き合いをはじめました。

 結婚はまだ考えていませんけれどね」


 そんなことって・・・・・・、初恋の人っていうのは、いつまでたっても結局、片思いで終わるのか。きっとそんなものだ。自分勝手と思われるかもしれないけれど、それから僕は、返事のメールをしていない。

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