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形だけ大人になった僕たち  作者: 木痣間 片男(きあざま かたお)
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『高校生クイズ』の続きから:「おとなしくて素朴だけど、とってもいい娘よ」

 第62話で、『高校生クイズ』の話しをした。


 高校3年間をグループ交際という恋愛ごっこで過ごした僕だったが、実のところそのなかの一人が気になっていた。名前は関口和美だった。ホリが深くて唇が薄い、髪が長くて少しだけ栗色。ハーフっぽい顔立ちで、ちょっとソフィー・マルソーに似ていた。

 高校時代における唯一の恋愛相手だったが、当然、片思いだった。相手は茨城県民だから、埼玉の僕とは距離がある。『高校生クイズ』のときだけ逢えるという状況のもとで、相手を想う気持ちだけが募る。ピュアな高校生活だった。


 高校卒業後、彼女は東京の短大に、僕は浪人が決定した。暗い予備校生活ではあったが、彼女を忘れられない僕は、かろうじてつながっている縁を頼りに――彼女にとっては義理だろうけれども――ときどき連絡を取っていた。

 だが、東京の女子大生を相手に、引きこもっている自分から積極的に話題提供なんかできるはずもない。相手から「表参道の・・・」という話題を振ってこられても、僕は何も応えられない。電話なんかをかけても、そのギャップに落ち込むだけだった。


 1浪の末に、僕は栃木県の医学部に進学し、その翌年、彼女は日本橋の高島屋に就職した。セールスキャスト(販売職)ではなく、スタッフ・サービスキャスト(事務職)の仕事だったからこそ逆に、これまた東京の老舗百貨店勤務ということで、学生の僕との溝は深まった。時代はバブル後期、まだまだ世の中イケイケのころだった。


 しかし、もちろん嫌われているわけではない。その証拠に出会いから4年の歳月が流れていたが、連絡が途絶えることはなかった。何回かのやり取りの後、僕は彼女を誘い出すことに成功した。

 2人きりというのなら、それはそれで喜ばしいのだが、僕らはグループ交際のプロだから、皆で旅行に行こうということになった。


 僕は大学の友人を1人、彼女は職場の同僚3人を誘った。つまり2対4だ。それは、新たな仲間の誕生を予感させた一方で、ちょっと負担も大きいかなという気もした。

 目的とする場所を箱根のペンションに定めた。こういうのって、やっぱりテンション上がるよね。僕と友人は、2人とも車を所有していたから、これだけでもいままでのハンディをはね除けられる。うまくエスコートできれば、多少は彼女の気持ちも傾くのではないか、という期待を込めた。

 大学2年の春、中央通り、日本橋高島屋前で彼女たちをピックアップし、一泊二日の旅行がはじまった。


 ここに当時撮影した写真が数十枚残っている。ペンションの中、芦ノ湖、白糸ノ滝、箱根ガラスの森美術館などを背景に6人が代わる代わる写っている。

 女性4人の表情を改めて見返してみると、彼女はもちろんカワイイ。笑顔も素敵だし、真面目な表情も魅力的だ。ふざけた顔も興醒めということはない。「やっぱり好きだったんだなぁ」ということを改めて感じる。

 ただもう1人、旅行当時から感じていたことだが、美人系の女性が1人いた。おとなしく控え目だったが、そうした引いたところが逆に、その娘の魅力を際立たせているような気がした。切れ長の目に肩まで伸びたストレートの黒髪、短めのキュロットスカートに黒のレギンス。あまり会話を交わした記憶はないのだが、潤んだ瞳と物憂げな表情、それとちょっとだけ訛った言葉使いを覚えている。


 旅行を終えて、自宅に戻ってから気がついた。車の助手席のドアポケットに、香水の携帯用ボトルが置かれていた。誰かの忘れ物だろう。そして、その匂いは、間違いなくその美人系の娘のものだった。甘すぎないフローラルの匂いだったことを、僕はいまでも強烈な印象として覚えている。

 そして、匂いをかぐたびに、こともあろうかその娘のことを思い出す。


「旅行楽しかったね」、帰ってから数日後、僕は関口さん宛てに電話をかけた――向こうからかかってきたのかな? よく覚えていないけれど。

「うん、いろいろとお世話になっちゃって、ありがとね。みんな楽しかったって言ってたよ」

 お礼を言われたけれど、僕としてはそんなことはどうでもいい。この後の展開をどう切り出そうかで悩んでいた。そして、まさにそれを言いかけた、その時だった。


「ところで木痣間君、あのちょっとおとなしかった娘、覚えてる」

 美人系の、その娘だ。


 僕は、「今度また、近いうちに一度逢えないかな・・・」という勇気を、一旦飲み込むしかなかった。

「もちろん、覚えているよ。あんまりしゃべれなかったけどね。ちょっと訛っていたよね」

「その娘、私と同じ部署で仲がいいのね。おとなしくて素朴だけど、とってもいい娘よ」


 その先は、想像してもらえればなんとなくわかると思う。嬉しいけどちょっとツラいという経験をはじめて味わった。そして、その後の風の便りで、関口さんには好きな人がいるということを知った。それはそうだよな・・・・・・、誰も放っておかないよ。


 このまま高校の延長のようにグループ交際を続けるのか。ソロでの付き合いを求めていくのか。もちろん僕としては後者を望みたかった。

 香水はわざと残したのか・・・、それは素朴な行動なのか・・・、でも、彼女の薦めならいい娘に違いない・・・。僕はまた、同じような優柔不断の恋を繰り返していくのだろうか。

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