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形だけ大人になった僕たち  作者: 木痣間 片男(きあざま かたお)
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隣人から:いよいよ孤独死が現実味を帯びてきた

 いささかショッキングな事件が起きた。

 自宅の隣人が、不審な死を遂げたのだ。


 僕は仕事に出ていたので、帰宅したときには警察の立ち入りは済んでいた。だから、そのときの生々しさは伝わってこなかったのだが、翌日、お向かいさんから教えられた。

「昨日、お宅の隣に住む○○さんが亡くなったのよ。死因は、言ってみれば“孤独死”みたいなものでしょうね」とのことだった。

 急なことで驚いたが、確かにその予兆はあった。


 僕がこの地に引っ越してきて間もなく、回覧板が回ってきたときに伝えられた情報だ。

「お隣さんはなかなか気難しい人ですから・・・・・・。お宅が来る前に揉め事を起こして、去年から隣組を抜けたらしいですよ」

「どういう人なのですか?」

「わがままなんですかね、いろいろあって家族からも見放されたようです。いまはここで独り暮らしをしているけれど、われわれとの近所付き合いも絶っています」

 これもひとつの震災後遺症なのか。深い事情はわからなかったけれど、本当の身近にそういう孤立した人がいた。


 ごくたまにではあるが、庭の草むしりをしたり、ゴルフのスイングをしたりする彼の姿を見かけることがあった。懐かしいTOTOやJourneyの曲が流れてくることもあり、そういう意味では、歳が近いような気がして共感を覚える部分もあった。

 確かに偏屈な人なのかもしれない、あいさつをしても返答はなかった。車でときどき出かけるそぶりはあったものの、働いている様子はなかった。でも、だからと言って、何か迷惑を被ったということはいっさいなく、現代の日本に流布(るふ)している、付き合いの乏しい寡黙なお隣さんというだけのことだった。

 何をどうすることもなくそのまま数年が過ぎたところで、ある日突然、彼は永久的に見ることのできない人となってしまった。


 家族とどのようなトラブルがあったのか、なぜかたくなな態度を崩さなくなったのか・・・・・・、知るよしもなかったけれど、近所付き合いを絶ってしまうと民生委員や隣組長の目が届かず、行政の手も差し伸べられない。絶望的な孤独のなかで自暴自棄に陥れば、たどるコースは“孤立死”しかない。


 ここで、どうして救えなかったのかという反省と、孤独防止のための正論を述べたいわけではない。わが国で着々と進行しつつある、“一億総引きこもり”の序章を見ただけである。しかも、こんな田舎の、自宅の目の前で。


 世の中が孤立時代へと突き進んでいくことは避けられない。効率的な生活スタイルを求めることによって、家族という最終的なセーフティーネットが解体された。つながりを持たずとも充足できる環境を整え、この日本は経済発展を遂げてきた。

 僕もそうだった。18歳から実家を離れ、親戚付き合いを含めて余計な人間関係を切り捨て、朝から晩までしがらみなく働き、好き勝手なことをしていてもとがめられない状況を築いてきた。ここへ来たのも、ある意味リセットだった。

 いくら人生をやり直しているとはいえ、いま残っているものは、幾ばくかの業績と、スズメの涙ほどの預貯金と、最終的にはたいして機能しないであろう少しの信頼である。


 これまでの投稿をお読みになればわかるように、僕は、さまざまな場面で人との執着を絶ってきた――もう少し語気を弱めるなら、少なくともずっと大切にはしてこなかった。同じように、そういう人間関係の狭間にはまり込んだ人たちがいる。しかし、それを「時代の責任にしたくはない」という、せめてものプライドで生きている。


 事件から2年が経った。庭先の植物は伸び放題だが、建物の外観も、2階のパラボラアンテナも、玄関先の置物も、ガレージの車も、何もかもがそのままだ。主のいないその家は、“十年一日の如し”、時が流れている。


 ひるがえって考えてみて、自身の孤独に対して僕は、「これまでの人生を想えば、シングルなのも、親戚付き合いがないのも、まあ自業自得か」という後悔と懺悔との気持ちがある。そこにどうやってケリを付け、何をもって回復へと導き、どういったものを糧に一生を終えるか、いまはその覚悟をいかに築き上げていくかの葛藤を繰り返している。お隣さんの生涯から、何かしらの逞しい教訓を得ようとする自分がいる。

 せめてそう考えることが、最後の時を同じくした隣人としての務めだろう。

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