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形だけ大人になった僕たち  作者: 木痣間 片男(きあざま かたお)
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再会した同級生から:性の目覚の思い出

 母親が大腿骨骨折をきたしたために、実家近くの整形外科病院に入院した。それ自体は、年齢的なものだから仕方がない。“ピンディング”という骨をビスで留めるような手術を行い、とりあえず軽快した。しかしながら、その間に筋力が弱ってしまったためにリハビリを行った方がいいだろうということで、急性期から回復期病院へと転院する運びとなった。


 これまで入院していた急性期病院から、転院先の回復期リハビリ病院へは、医療連携室という部門を通して患者情報の事務的伝達がなされる。病院間の情報共有は大切だからだ。


 そして、転院が近づいたある日、僕あてに電話が鳴った。

「こちら回復期の○○リハビリ病院ですが、木痣間さんのご長男さんですか?」

 事務員と思われる女性の声がした。

「はいそうです、お世話になります」と返答したところ、さらに「えっとぉ、片男さんですか・・・?」と、少し言い淀んだ言葉が続いた。


「突然ですが、ワタシ“石山”です・・・・・・。覚えていますか?」

 んっ・・・、地元に石山という小学・中学の同級生は、確かにいた。“石山春香”だ。

 まったくの偶然だったが、彼女は、その病院の医療相談員として働いていた。実に30年ぶりに聞く声だった。

 地元に残っている同級生がいる。当たり前のことかもしれないが、懐かしく、そして頼もしくもあった。と同時に、心の奥底で眠っていた当時の記憶が蘇ってきた。この子とは、ある特別な思い出があるからだ。


 名前のとおり朗らかで明るく、そばかすと健康的な体が魅力だった。中学時代1番ではないけれど、3番目くらいに人気があった。社交的で、誰とでも話題を提供できる。暗い僕でも、彼女にだけは積極的に話しかけることができた。

 以前の『初恋から』で話したように、絶対的に好きな子は別にいたのだが、彼女にもほのかな恋心を抱いていた。

 都合のいいことを言わせていただくと、初恋の子は高嶺の花だが、彼女だったら手が届くのではないかと思っていた。僕の“中二病”は、タイプの異なる複数の女の子に興味を示すことだったかもしれない――そういえば、クラスの女子から“好きな子ランキング”と称して、誰が好きかをランキング形式に発表させられたことがあった――。


 早熟な子は、中学くらいになると体に丸みを帯び、胸が出てくる。

 僕は、図らずとも彼女の体つきの変化をときどき眺めていた。気持ち悪いと思われるかもしれないが、思春期を迎えた男子中学生なんてそんなものだ(むしろ、「健康的だった」と言わせてもらいたい)。

 そんななかで“席替え”が行われ、僕は偶然にもその子と机を並べることになった――そう考えると、これが第1回目の偶然ということになる。

 勝手に思っていただけかもしれないが、彼女との距離はぐっと縮まった。授業中くっちゃべっていて注意されたことがあり、挙げ句には僕らだけ席を離されたこともあった。

 クラスで噂になるくらい仲良くなった時期もあったし、答案を見せたいがために、中学の勉強を頑張れたという側面もあった。


 ある日のことだった。これまた偶然だが、日曜日に僕は用事があって登校した。宿題を仕上げるために、どうしても必要な忘れ物を取りに行ったのだ。

 教室に入ると彼女が1人でいて、しかも着替え中だった。

「ああっ、ごめん・・・」というとっさの言葉に、びっくりした彼女は、慌てて「今日はクラブの練習試合があったの」と応じてくれた。


 この後、どうしてそういうことになったのか、また、僕はどういうやり方でそうできたのか、まったく覚えていないのだが、彼女のふくらんだ乳房を触らせてもらった。

 僕がお願いしたのか・・・、彼女の方から持ちかけてくれたのか・・・、まったく覚えていない。

 夕暮れのけだるさがそうさせたのか、その場の忍びやかな雰囲気がそうさせたのか・・・・・・、ひとつ確かなことは、僕らの間に、大人にはけっして言えない秘め事が発生したということだった。

 幼い僕にとっての“性の目覚め”と言っても言い過ぎでない、衝撃的な事件だった。


 転院の日、リハビリ病院では、母と僕とを迎えてくれた彼女の姿が目の前にあった。それは、当時の面影を色濃く残す、胸の膨らみのさらに発達した彼女の笑顔だった。

 ベストスーツに身を包んでいたが、ボブスタイルの髪型と声は当時のままだった。


 院内の説明を一通りしてくれた後で、「木痣間くん医者になったんだぁ、立派になったねぇ」という言葉とともに僕に一言ささやいた。

「中学時代、懐かしいね」


 僕の前だけ、一瞬、春の香りがした。

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