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形だけ大人になった僕たち  作者: 木痣間 片男(きあざま かたお)
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仕事の続け方から:わずかな楽しみを見つける力

 説教じみたことやきれいごとは、このWEB小説では書きたくないのだが、今回はちょっとウザい話しになるかもしれない。


 というのは、「医者を辞める」と言った人間がいたからだ。僕よりだいぶ若い後輩のひとりが突然そんなことを言いだし、退職を表明した。辞めたあとのことはノープラン、将来を考えながらしばらくのんびりするそうだ。

 ひとつやふたつの理由ではないのだろうけれども、要はその世界における自分の立ち位置がイメージできなくなったということのようだった。

 病人を救いたいという正規の活力も、社会的な地位を得たいという率直な野心も、お金を儲けたいという俗物的な衝動も要らなくなったということだ。


 医療の世界でさえそうなのだから、言わんや一般職の人たちにも、「何のために仕事をしているのか」ということを考える人がたくさんいるのではないか。

 活躍できる、人の役に立てる、社会のためになるという「やり甲斐」なんてものは、厳しいクレームによって簡単に折れる。「楽しい」という部分だって、趣味を仕事にした途端につまらなくなったという話しはよく聞く。つらくとも自分の「スキルアップ」につながれば、まだガマンできるが、そんな効果も期待できない。

 そう考えるといまの世の中、辞めたくなる理由に溢れている。


「ガマンが足りない」と断じるのは簡単だが、そんな悠長なことを言っていられる時代ではなくなったのだ。

 だから、そうならないための工夫として大切なことは、幻想でも妄想でも、思い込みでも自画自賛でも何でもいい、明日の自分に未だ見ぬ価値を見出せるかどうかということである。もっと簡単に言うと、明日は何か違うことが起こるかもしれないというワクワク感だ。これさえあれば、大抵の仕事は続けられる。


 僕にとって病院勤務中もっともワクワクしたことは、病気の患者が快方に向かうとか、悩める人に応えるとかいう部分も少しはあったかもしれないけれど、そういう正攻ではなく、一通りの仕事を終えた夜中における病棟での雑務だった。

 たとえば、書類を記入したり、資料をまとめたり、データを整理したりすることだ。このときに、看護師さんやクラークさんたちと、くっちゃべったりお茶を飲んだりしながら仕事が行えるということが最大の楽しみだった。くだらない話しもするし、プライベートなぶっちゃけもあるし、夜中だったりするからエッチな話しもする。相手は交代制だから、毎日話し手が変わる。いろいろな病棟にいる、いろいろな立場の人と話しができるのだ。

 本業とはいっさい関係なかったけれど、こういうのはとても楽しかった。


 大事なのは、どうせたいした期待が持てないなら、くだらないわずかなことでも楽しみを見出すしかないということである。そういう、“わずかな楽しみを見つける(りょく)”を養っておくことが、これからの時代、特に大切だと思う。

 仕事自体はたいていの場合、容易でないか厳しいか、ツマらないかツラいかどれかということになる。そのなかで本筋とは異なる、いわゆる“遊び”の部分でいかに楽しみを見出していくか・・・・・・、そういう考え方もおそらく大切なような気がする。


 そして、時代と世代とが変わり、“わずかな楽しみを見つける力”に頼れなくなったこれからにおけるワクワク感は、たとえわずかでもいいから昨日と異なる感情を抱いたり、異なる行動をこころみたりすることである。言っていれば、“昨日と異なる考えを持つ(りょく)”だ。

 そういう意味では、こういうWEB小説サイトで継続的に文章を書くことは毎日の刺激になる。やっていることは同じでも、頭のなかの思考が変わる。昨日とは書いているテーマが異なるので、当然、感情も変わる。

 これも本筋とは異なる、いわゆる“遊び”の部分だ。


 どう仕事をこなすかということを考え、仕事のなかでしか“やり甲斐”とか“モチベーション”とかを工夫せず、そればかりを気にしているから、ついには実感できなくなるときがくるのだ。

 多くの医療者は真面目だ。使命感に溢れている。もちろんそれは本当に素晴らしいことだが、場合によっては、その結果がオーバーワークとなり、気が付いたらバーンアウトしてしまったというのでは意味がない。看護師の離職率は10%と言われている。苦労して国家資格を取得しても、毎年10人に1人は辞めているのだ。


 ノープランで辞めてしまった医者のように、とりあえず逃げておいて、未だ見ぬ先の幻想を抱くための準備を設ける期間があっても僕はいいと思うのだが、できれば辞めないで済むよう並行して探っていくに越したことはない。


 そんなことを考えていたが、1年後、その後輩は、オリンパスのカメラの研究開発プロジェクトに携わっていた。

 なんてしっかりしたヤツなんだ。そういえば、彼の胃内視鏡の腕はピカイチだったな・・・・・・。


「看護師さんたちとくっちゃべるという遊び部分が楽しみで、それが仕事のモチベーションだった」と言っている自分が、急に恥ずかしくなったけれど、でもそれが僕という人間だし、一応医者を続けてこられた原動力となったのならそれはそれで無駄ではなかったかな――いまは、無理にでもそう思い込むしかない。

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