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形だけ大人になった僕たち  作者: 木痣間 片男(きあざま かたお)
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災害から:「知らないほうがいいこともある」という考え方

 多くの日本人の記憶から消えつつあるが、“東日本大震災”から10年が経とうとしている。


 東北に限らず、日本全国どこの地域にも災害は起こり得る。もうこれは真実と言ってもいい。比較的安全と言われていた九州や北海道にも地震は発生するし、山岳地帯の長野県だって水害に見舞われる。土砂は、斜面を有する土地だったらどこだって崩れる。

 都会なら安全かと問われると、これまた偶発的な事故が絶えない。橋桁が落ちてくる。飛び降り自殺をした人間が降ってくる。殺人の巻き添えを食うことだってある。想像すらできないことが実際に起こる。

「日本中、安全な場所はない」と言っても言い過ぎではない。


「いまだかつて、このエリアに災害は発生していない」とか、「事故を起こさないよう、十分注意している」という自分なりの解釈を信じている人もいると思うが、さすがにそろそろわかってきているのではないか。

「この日本では、いつ、何が起こってもおかしくない」と。


 ただ、わかっていても、具体的な対策が取られているとは限らない。

「30年以内に、“首都直下型地震”や“南海トラフ地震”が発生する」と言われながらも、高層ビルは造られ続け、地下鉄は掘り続けられ、高速道路は拡張し続けられている。

 それらを続ける根拠は、怖いものには目を向けたくないという発想(か、もしくは、最終的には自己責任という考え方)だろう。


「東日本大震災が発生して良かった」という人が、少なからずいる。

 一家が離散することで、(わずら)わしい“嫁姑問題”が一気に解決した。子供を持つ母親は放射線被害を受けた、この福島のエリアを離れた。一方、年配者は生まれ育った故郷から移動するつもりはない。

 同じように、夫婦間においても、これを契機に離婚が成立した。すでに冷え切った関係にピリオドを打つことができた。

 賠償金によって新居を構えた人も多い。それどころか、一生分の生活費を手に入れた。いまだに医療費と高速道路はタダだ。

「それだけの被害を被った」と主張する人もいるだろうし、当然の保証と考える向きも、もちろんある。結果的にそうなったということで、僕だって「非常識ではないのか」と言うつもりは毛頭ない。

 

 また、「突然の非日常に向き合わざるを得なかったが、それが楽しかった」と言う人もいた。「仕事どころではなくなったが、毎日がサバイバル体験というか、キャンプに来ているような気分で刺激的だった」と語ってくれた。


 僕のこういう指摘を、「不謹慎な発言だ」と言わないで欲しい。善い悪いの問題ではなく、ごくごく少数であったとしても、実際にそういう人がいたということにも、しっかり目を向けなければならない。


 さらに特筆しておきたいことがある。

 なんだかんだで「災害に備えよ」という啓発は、もちろん大切なのだろうけれど、その一方で、「何も知らなくて良かった。突然の震災で良かった」という考えを示す人がいた。

「災害が予測できて、それに対する対策を義務付けられ、いつおとずれるかどうかもわからない震災に怯えながら、ビクビクして生活するなんてまっぴらゴメンだった」ということだ。


 突然の震災だったからこそ、その日まで、何の屈託もなく、楽しく有意義な人生を謳歌(おうか)できていた。被害は甚大だったけれど、でも仮に予測できたからといって何ができていたかわからない。世の中には知らないほうがいいこともある。

「助かったからそんなことが言えるのだ」と言いたくなる気持ちもわからなくはないが、でも、もしかすると、そういう考えの日本人も多いのではないかという気がする。


 映画『日本沈没』で描かれていた、「何もしないほうがいい」という考え方に似ている。

 沈みゆく日本という船に居続けることが賢明な判断とは思えないが、船に留まる人にとって、この先に待ち受ける運命がたとえ死であったとしても、「皆と一緒にいられる」という(つか)()の安堵感の方が大切なのである。

「何もしない方がいい」というのは、本当に日本人らしい考えだと思う。欧米では、なんとしても生き延びようとするはずなのに、日本人には何もしないという選択肢が生まれる。

「あと1日で死ぬ」と宣告されても、「何も残したくない」という人が多いのだろう。何もしないという行動は、けっして消極的な選択ではないことを私に気付かせてくれた。


「知らないほうがいいこともある・・・・・・」

 被災地でそんなことを考えている僕も、何もせず、淡々と運命を受け入れたいという、そういう気持ちの境地へ向かっているのかもしれない。

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