サボテンを枯らす女
前半を読んだあと、サボテンと男が、「泣いた赤鬼」の献身で、その女の子を包んであげるようなお話にしたくなりました。
サボテンはちっとも枯れてくれない。
水はやらず、カーテンで囲った出窓に置いたまま西日に一か月あてても、皺一つ付けてはくれない。
クロークの中に移して暗闇漬すれば、色の抜けたアスパラみたいなおじいちゃんになるかもしれないけど、それは「ほったらかし」とは違う気がする。
この重たい黒のドット柄の鉢ごとハンマーで割って、土を剝がされ裸になったサボテンがキュウリみたいになったところで、燃えるゴミと不燃物に分別してしまえば簡単なのに。
もしも、あいつが、再び、部屋にやってくることがあったら、「全然ご無沙汰だったじゃないの。ひなちゃんはお世話しなくていいから、ただ眺めてるだけでいいからって言ったから、こんなガサガサに枯れちゃったじゃないの。わたしのせいじゃないからね。2か月も放っておいたそっちが悪いんだから」って言ってあげたいじゃ、ないの。
こんなに放ったらかししといて、全然元気でいたら、文句言えないじゃないの。
サボテンが部屋に居ると、「睡眠薬いらずにスヤスヤ眠れるよ」なんて、そんなおまじないだけ残して、わたし3キロ太っちゃった。こんなおデブになっちゃったら、もうこんな男だましの商売できないじゃない。このまえ田舎に帰ったとき、同窓会で告られた可愛い三歳児のいる元ヤンと10年ぶりにヨリが戻ちゃうじゃない。こっちに戻ってからも、あいつ、しつこくて、電話やらメールやらラインやらズームやらしつこくて、そんな愚痴、うなずいて聞いててくれたよね。
ミカン農家の三代目で、わたしが来てくれたら、わたしの好きなアボカドいっしょに始めたいなんて、おとうさんとおかあさんとおじいちゃんとおばあちゃんとその三歳の可愛い女の子が一緒に写ってる「アボカド入植予定」なんて写真まで送ってよこして、わたしが農家の嫁なんて出来ると思う。
サボテンだって枯らしちゃう女なんだから。そんな女は、農家の嫁は無理だよなって言ってよ。お願いだから。