3 【短編】転生悪役令嬢が婚約者を得る話 後編
さて、翌日どころかそこから一ヶ月。
まだ目が覚めない。
ボーナスステージにして十分なのに。
もう夢ではないのか…過労で倒れてそのまま死亡したまま転生したのか…そんなことないと思いたいのに。
まぁ仕方ない、ここでの生活というか、ここでの自分の仕事にのっとり、海賊の暴挙に関する陳情を纏めて王都へ送るか…さすがに王都へ行かないと宣言した手前赴くことはできない。
第二期ヒーローについては、あの話以降非常に協力的で海賊についての動向を細かく伝えてくれた。
どうやら彼は彼で独自のネットワークをもってして多方面から調べ尽くしてくれたらしい。
おかげで説得力のある素晴らしい陳情書ができあがった。
おまけで趣味の話とか気が合って、多く文通してたけど、それは余談だ。
何回かこちらの港で物資補給等もしていたらしく、その度に私に会うか迷ったと言っていたけど、どれだけ律儀なキャラだろう…もうそんな設定だったのか思い出せない。
「お嬢様…王都から招致のご連絡です」
「え?」
おかしいぞ、王都には行かないと宣言したし、それが断罪項目の一つなのに。
まぁついでに陳情書だせて楽だけど。
いやここで断罪イベント追加とかだったら嫌だな…。
「お迎えもすでに」
早いな。
しょうがないので、商談用から王都謁見用に着替えて、使者が待つ応接間に入って、私は心臓を飛び出す思いをしたのだ。
「ルーナ様!お久しぶりです!」
「え?!」
ヒロインかよ!
どうしてきた。
裏設定で交流復活はあるけど、そもそも使者の役割を担う側ではない。
彼女だって立場のある令嬢なのだから。
「ルーナ様に会いたくて殿下に無理を言ってきてしまいました」
「そ、そうですか」
そしたらヒロインは王太子ルートか。
まぁ交流復活が設定であるなら仕方ない。
驚いたとはいえ、仲良くしたいと言われれば美人目の前にできるし歓迎ですよ。
王都へ向かう馬車の中、楽しそうに話すヒロインは幸せそうだ。
君はどうあろうと幸せしかないけども。
「あの、私はどのような御用件で王都へ?」
「はい、ルーナ様にお会いしたい方がいらっしゃるそうです」
「はぁ」
そしたら断罪イベント復活とかでなさそう。
しかし会いたい人物とは?
* * * * * * * * * * * * * * * * * * * * *
王都。
陳情書を渡すにあたり本来は正式に玉座に座る王へ謁見するのが正しい作法だけど、元々呼び出されたことが1番なので王都側が指定する場所で王太子への謁見と相成った。
まぁゲーム内ではほぼ王政をしきってたのは王太子だから彼でも問題はないだろう。
私はヒロインに案内されて、中庭のテラスに案内された。
ティータイムだ。
さすが彼女、ビジネスの場が和やか茶会になろうとしている。
王太子がくるまでは彼女と談話。
あんなにひどい目にあわされても仲良くしようというヒロインの性格は現代社会にはなかなかないだろうな。
さすがゲームよ、聖人君子できらきらの美人を作り出せるのだから。
「待たせたな」
「殿下」
「…ん?」
振り向けば、あのイベント以来の王太子と隣に見知った顔。
いやいや、第二期ヒーロー、今現在の私の文通相手が王太子と並んでやってくる。
そんな、仲良い設定なんてあった?
いやまだ企画段階だったし、そこまで深く内容決まってなかったはず。
「ルーナ、久しぶりだな」
「殿下もお変わりなく…此度は王都への訪問お許し頂き、」
「固いことはよい」
「そうですわ、さぁルーナ様」
美女に手を取られればやぶさかではない。
正装した覚えのある彼と目が合い、軽く挨拶をしておいた。
「お久しぶりです」
「あぁ……それはなんだ?」
「これですか?」
そういえば直接渡せばいいとヒロインが言っていた陳情書だ。
彼のおかげで思い通りのものができたので、説明踏まえて感謝の言葉を送る。
同時にその場にいる王太子へ説明と受け渡しを行い、無事聞き入れてもらえてほっとする。
悪女のままの評価なら受け取ってもらえなかっただろう。
「クラーロから話は聞いている。港街の領主として尽力していると」
「光栄です、殿下」
なるほど、彼のおかげか。
それに加え、ヒロインが関係修復を望んでる今なら王太子の悪女の評価が変わる時だと。
ありがたいな、第二期ヒーロー。
「それで、此度の件は…?」
「あぁ、彼だ」
「?」
第二期ヒーローが私に用らしい。
「直接いらしてくれればよかったのに」
「そうはいかない。国間のこともある」
「国?」
「王太子から了承は得た。ルーナ、私と結婚してほしい」
「はい?」
「待て、まずは婚約だ、そのあと」
「わかっている」
「素敵ですわ」
いや、わからないぞ。
この三人で話が進んでいるぞ。
「クラーロ様」
「なんだ」
「経緯説明を」
第二期ヒーローは、実は某国の第三王子でした的な。
彼は私と初めて会ったときから決めていたそうだが、私が悪女ということもあり自分の国とここにいる王太子の反対でなかなか正式な合意がとれなかったらしい。
ここの世界設定、なんでもかんでも王政が決めるから、国関わってくるとこうなるんだよなー。
さておき、そこから私の仕事ぶりとか海賊問題について尽力してる様とか実績の積み重ねで今に至ると。
にしてもそんな設定だったかな?
もう今なんとか捻り出して思い出せるのは…第二期はフィールドを広げるからどうこうってのを聞いてたぐらいだ。
「なんて素敵なんでしょう」
ヒロインすごいな、これのどこが素敵?
出会いか?
彼が結婚にこぎつけるために頑張ったとこか?
私おいてけぼりだけど。
せめて、私に了承をえてから尽力する流れがよかったと思う。
「クラーロ様」
「なんだ」
「本気で仰ってます?」
「当たり前だ」
ですよね。
第二期ヒーロー…ヒロインはまた別で用意するから悪女だったはずがない。
「…私は悪女と呼ばれてますが」
「関係ない。それに今の君は国に尽力してるじゃないか」
「家業は続けたいですし」
「構わない、私は自由がきく」
「貴方の国乗っ取っちゃうかもしれませんよ?」
「君が統治するなら我が国も安泰だ」
頭大丈夫か、この人。
ただ話しててわかることがある。
「諦める気はないということで?」
「もちろんだ」
ある種終了したルートをたどったな私…家業を継ぐだけでは許してくれないらしい。
早く目覚めてほしい、切実に。