1 【短編】婚約破棄してすぐにまた婚約した侯爵令嬢の話
テンプレートチャレンジ。
なろうで流行りの婚約破棄をよく知らないまま書いてみる、です。私の独断と偏見の婚約破棄短編。
「本日をもって婚約を解消する」
「はい、承知致しました」
侯爵家令嬢の私は、本日お相手の公爵家の幼馴染と婚約を解消しました。
3歳上の王都へ勤める青年で、職務を立派にこなしていらっしゃるようです。
ぱっと聞いた限りでは素晴らしい青年にうつる彼を私は好きではありません。
解消するにあたり、多くの手続きが必要ですが、そこは彼もわかっているようでしたので、お任せしましょう。
曲りなりにも王都へ勤めている以上、その程度出来てもらわないと今後も大変でしょうし。
私はすぐに父と母に伝えると、両親は嬉しそうに私に仕事の事を継ぐ話を持ってきます。
元より、家を継いで領主としてこの地に尽力してほしいと言うのが両親の希望でした。
私が生まれ物心つく前には彼と婚約していて…どうやら王家が関わっていたようだから断れなかった、ということは私の耳にも入ってきていましたが、今も昔もそのことは私にとって些事でした。
私はこの領地に住めればそれでよかったので。
程なくして、領主敷地内において婚約破棄の話は広まり、多くの友人が私を祝福してくれました。
元婚約者にはどうやら仕様のない話しかなかったようです。
元より、人を大事にしない人でしたから仕方ないのかもしれません。
そんな折、快く過ごしていた時に、訪問客がいらっしゃいました。
「リーリア!」
「これはリーフデ様」
「聞いた、婚約破棄したって」
「そうですか」
リーフデ様は、私より5つ下の男性で、この春で成人された隣の領地の公爵家の息子さんです。
彼もまた幼少期からの付き合いで、とても素直で可愛い子でした。
今では立派な青年になり、勉学も剣の腕もたつお手本のような男性になりました。
隣領地も安泰でしょう。
「リーリア」
「はい」
「僕と結婚して」
「え?」
急なことでしたが、冗談ではなかったようでした。
真面目に話してると念を押されましたし。
そういえば過去の話になりますが、件の元婚約者の困ったと話をするたびにリーフデ様は自分が結婚して幸せにしてあげると言っていましたし、本当に彼が小さい頃は私を好きだとも聞いていましたが、それもすべて私を励ますためだと思っていました。
本当に心からそう思っていらしたのかと思うと不思議な気持ちになります。
こう、こそばゆいような、そうでないような。
あ、でも。
頭の中に浮かんだこれからのことについて、リーフデ様からの提案は非常に有効だと思ってしまった。
「もちろんそんなすぐに婚約したらあらぬ疑いもかかるだろうし、心配なら何年でも待つよ」
「…いいえ、今すぐでかまいません」
「え?」
「早速ですし、父と母に話を通しましょう」
「え?!」
立ち上がり、彼の手を取り両親の元へ行けば、大歓迎とばかりに許しを頂けた。
では次はリーフデ様のご両親にと隣領地へ馬に乗って向かった。
彼のご両親は前々から私へのことは知っていたようで、軽く了承を得て口頭のみになるが挨拶は済ませてしまった。
「……リーリア」
「リーフデ様、いかがしました?」
「いえ、あまりに話が急だったもので」
「いいじゃないですか」
互いの仕事もよく知っているから結婚後も支障なく、互いの領地を統治していけるだろう。
彼の人柄もずっと見てきたから、とても良い領主になることもわかる。
あと懸念すべきことは…。
「リーフデ様」
「何?」
「直近でお願いしたいことがありまして」
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予想通りの事が起きる。
「リーリア、頼む。あの話をなかったことに」
「出来かねます」
元婚約者が婚約解消をなかったことにしてくれとやってきた。
リーフデ様も同席して頂いて、きちんと今の婚約者であることを紹介したが、やはりそのことなど気にもせず解消をなかったことにしてほしいと言ってきた。
思っていた通りだった。
彼は王都に勤めているが、成人してからは自身の公爵家のこともこなさなければならない。
それを私は手伝っていたので、そこが手つかずになった途端、公爵家のことが回らなくなったのだろう。
王都への勤務は憲兵としての名前を連ねるだけなので、ほぼ仕事をしていないといっていい。
それでも彼は私と婚約中は仕事が忙しいと言って王都へ毎日出向いていた。
残念ですが、今はそれもできないことでしょう。
「貴方は…」
隣のリーフデ様が呆れている。
気持ちは十二分に分かりますが、そこまでこの人に心を寄せる必要はないでしょう。
「リーフデ……頼む」
昔馴染みであるのはリーフデ様と元婚約者も同じこと。
けれど、リーフデ様は毅然と返した。
「リーリアは私の婚約者です。お引き取り願います」
今日の所は帰ってくれた。
私だけだとなかなか話を聴かないし帰らないから、やはりリーフデ様がいることが抑止力になったことに安堵。
「リーフデ様、ありがとうございます」
「いや、たぶんまた来ると…」
「えぇ、そうでしょう。いいのです、またその時はお願いできますか?」
「もちろん…でも大丈夫?」
何がときけば、リーリアがと短く答えが返ってきて、暗に心配してくれてることがわかり、くすぐったい嬉しさが訪れた。
「…ふふ」
「どうしたの」
「私、嬉しいみたいです」
「え?」
「心配してくださってありがとうございます」
「!」
顔を赤くして言葉を失うのは昔から変わりませんね。
そう言うと、リーフデ様は眉を寄せて頬をかいた。