表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

9/15

第8話 魔術師試験

「ききき、きっ、君かね! あの(・・)漆黒の隠者ニナ・パープルントの弟子というのはっ!?」


 そう言ってきたのはギルドマスターのじーさんだ。

 立派な髭を生やしたじーさんは、いかにもエライ魔術師ですって感じのローブに身を包み、手には魔石の付いた杖を握っている。


「はい。ニナ師匠の超優秀な弟子でカエデ・スメラギと申します。こっちは妹の――」


「ティファ・しゅめらぎゅです! 8さいです!」


「おお……。こんな子供が半ば伝説と化しているニナ殿の――いや、失礼した。ウオッホン! ワシはギルドマスターを務めているカスパー・シュマイツァー導師じゃ。かつて爆炎の魔術師として名を馳せたリャド・レズマフに師事していた者の一人じゃよ」


「よろしくお願いします。シュマイツァー導師」


 俺はギルマスと握手を交わす。


「早速だが君の魔術師ギルドへの加入試験をはじめようと思うのじゃが……良いじゃろうか?」


「はい。覚悟はできております」


「結構。本来は紹介状が必要なんじゃが……この規則が出来たのは50年ほど前でのう。ニナ殿が最後に姿を見せたのは70年前と記録されておるから、魔術師ギルドの新しい規則をご存じないのも無理からぬこと」


「なるほど。そうだったんですね」


「うむ。じゃから今回はワシの権限で特例として加入試験を執り行うこととする」


「ありがとうございます」


「では、まずは受験料をいただくとするかのう」


「……え? 試験を受けるのにおカネがかかるんですか?」


「なんじゃ。そんなことも知らんのか? 魔術師ギルドの加入試験を受けるには、金貨5枚が必要なんじゃぞ」


 マジかよ。

 誰だよそんな規則作ったの。


 いまの俺の所持金は、いいとこ銀貨30枚。

 チャノンとセフィーにティファの分を合わせても銀貨が120枚。

 つまり、金貨1枚と銀貨20枚が俺たちの全財産ということになる。


「……ちょっと待っていただけますか」


 俺はそう言い懐に手を入れる。

 えっと、確かここに……お、あったあった。


 懐にしまっていた大き目の石ころ。

 これにこっそりと錬金術を使用。

 ただの石ころを一瞬で純金に変質させる。


「申し訳ないのですが……いま手持ちがコレしかないんですよ」


 すまなそうな顔を作って金塊を懐から取り出す。

 周囲から「おお……」みたいな声があがった。


「ほう。金塊とな」


「はい。ニナ師匠から旅の資金にと渡されたのですが、僕のような子供では換金する手段も伝手もなくて……」


「ふぅむ。確かにお主のような子供では、換金しようにも悪どい商人に騙されてしまう可能性が高かろう。うむ。わかった。ワシに任せなさい。そこの者、」


 カスパー導師が、先ほどのお姉さんを呼ぶ。


「は、はいっ。なんでしょうシュマイツァー導師?」


「商会へ行ってこの金塊を換金してもらってきなさい。ワシの名を出して構わんから、公正な値で取引するようにと」


「承知しました」


 お姉さんが恐々金塊を抱え、小走りでギルドから出ていった。


「あれほどの金塊じゃ。金貨50枚は下るまい。これでひとまずは受験料の問題は解決じゃな。では今度こそ試験に移っていいかのう? それとも換金を待つかね?」


「いえ、先に試験を受けさせてください」


「良いじゃろう。こっちじゃ。ワシについてきなさい」


 そう言うと、カスパー導師が歩き出す。

 俺とティファも後に続く。


「まずは筆記テストじゃ。魔術についてどれほどの知識を持っているか試させてもらうぞ」


「はい」


 連れてこられたのは、教室のような部屋だった。

 部屋にぽつんと置かれた机の上には問題用紙と解答用紙、それにインクと羽ペンが置かれている。


「制限時間はこの砂時計の砂が全て下に落ちるまでじゃ」


「わかりました」


「カエデお兄ちゃんがんばれー!」


「ウオッホン。お主の兄はこれから試験を受けるのじゃ。静かにしてあげるのが良かろう」


「……はーい」


「では、はじめるが良い」


 俺が席に着いたのを確認したシュマイツァー導師が、砂時計をひっくり返す。

 ティファが送ってくる無言の声援を受けつつ、筆記試験に取りかかる。


 出題されていたのは魔術の基本中の基本なものでしかなかったから、3分もあれば余裕で解答欄を埋めることができるな。


 でも、これは世間じゃ難しい試験なんだ。

 怪しまれないよう、なるたけ時間をかけて埋めていくか。


「終わりました」


「なんと!? もう終わったのか? まだ10分も経っておらんぞ!?」


 シュマイツァー導師が驚きの表情を浮かべる。

 やべー。かなりゆっくり書いたつもりだったけど、これでも早かったのか。


「ええ……まあ。ニナ師匠に教えられたものばかりだったので運が良かったです」


 とごまかす。

 シュマイツァー導師は俺から受け取った解答用紙を、後ろに立っていた部下に渡す。


「お主の回答についてはこの者たちが採点をする。次は実技試験じゃ。お主の魔法を直に見せてもらおう。ついてきなさい」


「はい」



 ◇◆◇◆◇



「ここが実技試験の会場じゃ。普段は修練所として魔法の研鑽に使われておる」


 カスパー導師に案内されたのは、地下に造られた広い空間だった。

 直径は30メートルほどかな?

 地下にこんな広い修練場を造っちゃうなんて、ホント魔術ギルドってカネがあるんだな。


 あと、どこからか俺の噂を聞きつけたのか、壁際にはギャラリーが大勢いた。

 みんなニナの弟子(嘘)である俺の実力が見たいのだろう。

 中にはあからさまに疑いの眼差しを向けてくる奴もいるしね。


「この修練場には床、壁、天井と強力な防御魔法が施されておる。いくら魔法を使っても壊れることはないから、思う存分力を振るうが良いぞ」


 実技試験は、2種類のどちらかから選ぶことができる。

 まず一つは、対象物を攻撃する攻撃魔法の試験。


 二つ目が、魔術師(試験官)の攻撃魔法を防御魔法で防ぐ防御魔法の試験。

 攻撃と防御のどちらかから選べるのは、攻撃に秀でた魔術師と、防御に秀でた魔術師を等しく扱うためだ。


 俺はわかりやすく実力を示すため、攻撃魔法を選択。

 フロアの中心に設置された丸型の的に魔法を放つよう指示された。


「わかっているとは思うがのう、その的にも防御魔法を施してある。ギルドの上級魔術師が幾重にも張った防御魔法じゃ。じゃから壊せずとも気落ちすることはないぞ。これはあくまでもお主の魔法の実力と伸びしろを見るためのものなんじゃからのう」


「防御魔法……ねぇ。シュマイツァー導師、じゃあもし僕があの的を破壊出来たらどうします?」


「ほっほっほ。大きくでたのう。最近の若者にしては珍しい。うむ、万が一にも破壊することが出来れば、筆記試験の内容にかかわらず合格としよう」


「その言葉、忘れないでくださいよ」


 俺は的に向き直り、右手を向ける。

 的の防御魔法は5重ってとこか。


 あれを破るには最低でも第4位階の魔法が必要だ。

 でもここは一発合格するため、第6位階の魔法でいこう。


 さて、なにを使うとするかな?

 ニナは闇魔法が得意だったから、ここは自称……違うな。『詐称弟子』として、俺も闇魔法を使っておきますか。


「ダーク・グラビティ」


 俺が詠唱を飛ばして呪文を口にする。

 次の瞬間、的どころか修練場の半分を黒い球体が覆い隠す。

 そして――


 ――――ガオンッッッ!!


 と音を立てて修練場の半分が消失した。

 俺の使った闇魔法により、空間ごと削り取られたのだ。


「やべ……やりすぎた」


 修練場の防御魔法は破られ、魔法の効果範囲にあった壁、床、天井がごそっと抉れている。

 念のため倒壊しないように戻しておきますか。


「ストーン・リペア」


 俺は手を床に付け、オリジナル魔法を使用。

 すぐに修練場の抉れた部分が盛り上がり、元通りになった。


「ふぅ。これでよしっと」


 しーーーーーーーん、と静まり返った試験会場。

 ポツリと誰かが言う。


「…………いまのは……ま、まさか無詠唱魔法?」

「馬鹿な! 無詠唱などありえん!」

「見たかっ!? 欠損した修練場が一瞬で修復されたぞ!」

「待て! それよりあの威力の方が問題だ! なんだいまの魔法は? 誰か知らないかっ?」

「く、黒い魔法だった。まさか……や、や、闇魔法かっ!?」

「闇魔法だとっ? 伝説にも等しい希少属性だぞ!」

「だがあの少年は闇魔法唯一の使い手、漆黒の隠者ニナ・パープルントの弟子なのだろう? あの大賢者キャスバスの高弟が一人、ニナ・パープルントの……」


 再びしーーーーんと静まり返る会場。

 そんななか、ティファだけが「カエデお兄ちゃんすごーい!」と空気も読まずにきゃっきゃきゃっきゃ跳びはねている。


「どうでした?」


 俺はシュマイツァー導師に顔を向け、続ける。


「的は壊しました。これで合格ですよね?」


 俺の言葉にシュマイツァー導師はハッとして、次いで、


「う、うむ。カスパー・シュマイツァーの名の下、カエデ・スメラギを我々魔術師ギルドの一員として認めよう!」


 と宣言するのだった。


評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ