第7話 魔術師ギルド
俺はティファを連れ、魔術師ギルドへとやってきていた。
「すごーい! おっきー! キレー!」
ティファが歓声を上げる。
魔術師ギルド建物は大きく内装も豪華。
それこそ、ちょっとした貴族の屋敷のようだった。
王都でもない地方都市でこの規模の支部を持てるのは、潤沢な資金が確保できている証拠だ。
大賢者時代の俺が死んで、だいたい200年ぐらいか。
最初は小さな拠点しかなかった魔術師ギルドが、よくぞここまで大きくなったものだ。
創設者としては、胸にグッとくるものがあるよね。
「坊やたち、道に迷っちゃったの?」
感慨に耽っていると、受付のお姉さんが話しかけてきた。
「ここは大きい建物だから、たまに近くの宿屋と間違えてしまう人もいるのよねぇ」
「いえ、俺――じゃなくて、僕たちはここ魔術師ギルドに用があってきました」
ひとまず子供の武器を最大限に活かし、利発そうな子供を演じることにしよう。
「君たちみたいな小さな子が? あ、わかったわ。ここにご両親のどちらかがいるのね。すぐに呼んできてあげるから、お父様かお母様のお名前を教えてくれるかしら?」
「ああ、違うんです。ここに来た理由は、僕が魔術師ギルドに入りたいからなんです」
「…………え? 君が?」
お姉さんが驚く。
まあ、ムリもないか。
魔術師ギルドといえば、魔法の才能か実力、もしくはその両方がなければ所属できない実力主義のギルドだ。
そこに12歳の子供が「入りたい」なんて言ってきたら、驚くのも当然。
「はい。僕、こう見えて魔法の腕には自信があるんですよね。試験を受けさせてはもらえませんか?」
「……確かに魔術師ギルドは魔法の才能と良識さえあれば誰でも加入することは出来るわ。例えそれが坊やみたいな子供でもね」
「よかったー。じゃあ試験を受けさせてもらえるんですね?」
「私にそれを決める権利はないわ。私の役目は手続きをするだけ。じゃあ坊や、手続きに則って紹介状を見せてもらえるかしら?」
「……へ?」
お姉さんの言葉に、俺は返答に詰まる。
「紹介状……ですか?」
「そうよ。魔術師ギルドは存在するどのギルドよりも各国への影響力が強いわ。だから魔術師ギルドに入りたがる者が大勢いるのよ。そこで私たち魔術師ギルドは、紹介状を持つ者にしか加入試験を受けさせないことにしているの。坊やも魔法が使えるなら、師事している魔術師がいるのでしょう? その人は紹介状を書いてくれなかったのかしら?」
「……すみません。紹介状が必要だと師匠は教えてくれませんでした」
俺に師匠がいたことなんか、前々々世を遡っても剣聖と錬金術師時代の二つのみ。
大賢者時代の俺は独学で魔法を学び、むしろ弟子を取ってた側だった。
でもいまだけは話を合わせておこう。
「教えてもらってない? それは変ね。魔法使いなら――それこそ魔術師ギルドに入ろうとしている者なら誰でも知っている常識のはずなのに……。ねぇ坊や、坊やの師匠ってどなた? 高名な魔法使いなのかしら?」
これまた答えづらい質問が飛んできたぞ。
しかも魔術師ギルドに子供がいるのが珍しいのか、周囲の注目も集めはじめている。
このままぐだぐだしていると、いつ追い出されともわからない。
さて、どうするか。
ここで師匠の名前をでっち上げるのは簡単だ。
でもその場合「そんな人知らないわ」と言われ、追い出されることは想像に難くない。
ならここで名前を出すのはそこそこ名前が知れてて、かつ他者との交流がない魔法使いが最適だ。
幸い、俺はそんな魔法使いに一人だけ心当たりがあった。
「ご存知かは知りませんが、僕の師はニナ・パープルントと申します」
――ざわわわっ。ざわわわわっっ。
俺がニナの名を出したと途端、周囲がざわめき立つ。
「…………」
お姉さんに至っては絶句し、口をぱくぱくさせるだけ。
お、どうやらニナのことを知っているっぽいな。
ニナ・パープルントは、大賢者時代に6人いた弟子のなかの一人だ。
彼女は超命種のダークエルフで、弟子時代の年齢は確か80歳。
だからまだ生きてるだろうって思って名を借りてみたんだけど……うん。
この反応を見る限り、未だ健在のようだな。
「うそ……よね?」
お姉さんが絞り出すように言う。
「いいえ、本当です。僕はニナ・パープルント師匠から魔法を教わりました」
――ざわわわわわっっっ。
お姉さんカクンと腰を抜かし、
「す、す、す、すぐにギルドマスターを連れてくるわ」
這うようにしながら奥へと引っ込んでいくのだった。