第5話 宿屋にて
門番のおっちゃんが教えてくれた宿は、部屋もキレイで宿泊料も安く、その上ご飯まで美味しいところだった。
部屋に運んでもらったお湯で体を拭き、夕食へ。
「ふにゃ~~ん。こんなに食べたのひさしぶりにゃ~」
夕食から部屋に戻って早々、ベッドにダイブしたチャノンがぐでーんと伸びをする。
奴隷だったときの食事事情は最悪だったからか、みんなガッツリとご飯を食べていた。
「ティファもお腹いっぱーい」
「こっちくるにゃティファ。ボクといっしょにゴロゴロしよ~」
「するー!」
ティファがチャノンのベッドに「ひゃっほー!」と飛び込んでいく。
俺たちが借りた部屋は、ベッドが二つしかない。
それは、チャノンの「カエデとティファは子供だからボクたちといっしょに寝ればいいにゃん」との言葉が原因で、単純にもう一部屋借りるおカネが勿体ないという理由からだった。
それなのにチャノンとティファが一緒のベッドに入るということは、だ。
「……」
俺は視線をセフィーが腰かけているベッドに移す。
「先に言っておくぞ。わたしは只人族の男と床を一緒にするつもりはない」
「いや、それだと俺のベッドがないんだけど?」
「フッ。お前は馬鹿か? 床で寝れば良かろう」
「……。あ、じゃーこうしようぜ。俺をベッドに寝かせてくれ。それでもう貸し借りなしでいいよ。そしたらあんたも森に帰れるだろ?」
「愚弄するかっ! わたしはレ・リミの森のエルフだぞっ。そのわたしの『借り』が、たかだか一晩のベッドと同じなわけがなかろう!」
なんだよコイツめんどくせーな。
もうレなんちゃらの森に帰れよ。
「だが……そうだな。わたしは只人族とは違い慈悲深いエルフだ。お前が『どうしても』と懇願するのであれば、お前と一緒に寝てやらんこともない」
セフィーは「ふふふ」と笑いながら挑発的な目を向けてくる。
「……どうする? わたしが只人族に恩情をかけることはこれが最後かもしれんぞ? 跪き、頭を垂れ慈悲を請うてみるか?」
「やだよめんどくせー。もういいよ。床で寝るから」
「待つにゃ! ねーセフィー、カエデのかわりにボクがお願いするにゃ。お願い! このとーり! どうかカエデといっしょに寝てほしいにゃ!」
「ティファもお願いする! セフィーお姉ちゃん、カエデお兄ちゃんといっしょに寝てあげて!」
チャノンとティファが手を合わせてセフィーにお願いする。
ティファに至っては、純真無垢な瞳がめっちゃキラキラしていた。
「ぅ……」
二人に懇願され、セフィーがたじろく。
知り合ってまだ1日しか経っていないけど、どうやらセフィーはティファに弱いようだった。
道中でも、セフィーはなにかとティファを気にかけている様子だったのだ。
セフィーがまだ小さいからか、それとも女の子だからかはわからない。
少なくとも、俺たちに同行している理由の一つがティファであることは間違いなさそうだった。
「むぅ……。しかたがないな。こ、今回だけだぞ。……ほら、早く来い」
ベッドに座るセフィーが自分の隣をぽんぽんと叩く。
ここで応じないと、あとでなに言われるかわかったもんじゃないよな。
しかたがない。
「んじゃ、お言葉に甘えて」
「フンッ。甘えられるのは今回限りだがな。さあ、さっさと来るがいい」
俺はセフィーの隣に腰かける。
それを見てティファは嬉しそうに微笑み、チャノンはウィンクを送ってきた。
「どうだ? わたしの隣に座れて光栄だろう?」
「……」
「ん? そうか。嬉しくて言葉もないか」
「……」
「…………おい」
「……」
「……お、おい。何か言え」
「……」
「おいってば!」
「……」
「もういい。寝るぞ。ほら、お前も早く寝ろ!]
無理やり寝かされ、布団をかけられる。
チャノンがランプの明かりを消し、「おやすみなさいだにゃ」と言う。
ティファも「おやすみー」言う。
昨日まで奴隷として雑な扱いを受けていたからか、すぐに寝息が聞こえてきた。
俺はセフィーのめんどくささに嫌になりながらも、
「んんっ……はぅん……すー……すー……」
セフィーの体から伝わる温かさと柔らかさに、少しだけ癒されてしまうのだった。