第4話 交易都市バーディ
車の移動速度は馬車とは比べ物にもならず、交易都市バーディへたったの2日で到着した。
これにはエルフのセフィーもビックリし、
「馬車で半月の距離が……たったの2日だと?」
と、茫然と呟いていたのが面白かった。
自走式馬車を降りた俺たちはバーディに入る準備をする。
バーディまでは、ここから徒歩で10分ほどの距離。
こんな中途半端なところで馬車を降りたのは、魔導車を人に見られたくなかったからだ。
馬なく自走する馬車なんてモノを見られた日には、あっという間に方々で有名になってしまうことだろう。
「空間収納で魔導車をしまって……っと。これでよし。さあ、バーディへ入ろうぜ」
俺たちは徒歩で交易都市バーディへと向かった。
◇◆◇◆◇
交易都市バーディは高い塀に囲まれ、正面の門には衛兵が立っていた。
門の前には大勢の人が並んでいて、俺たちもその列に加わる。
しばらく並んだあと、
「次の者」
衛兵のおっちゃんが俺たちを呼んだ
ふー、やっと順番が来たか。
「む? 子供が2人に獣人とエルフの娘だと。お前たちはどういう関係だ?」
訝しげに訊いてくる衛兵に対し、セフィーがゴミを見るような目で、
「フッ。このわたしが只人族である貴様に答えるとでも――むがぁむご」
「ボクたちはこの兄妹のつき添いにゃ!」
ギリギリなところでチャノンがセフィーの口を塞ぐことに成功。
チャノンは笑顔を振りまきながら、自分たちは俺とティファの保護者変わりだと主張する。
「ふむ。付き添いだと?」
「うん。この兄妹はねー、とーくに住んでるおじーちゃんとおばーちゃんのところに行く途中なんだにゃ。あ、ボクたちはその護衛ね。先はまだまだ長いから、この街で旅の準備をするんだにゃ」
「祖父母のところに向かう途中か。ではこの子たちの親は?」
衛兵の質問に、チャノンは無言で首を振る。
「……そうか。苦労しているんだな」
衛兵のおっちゃんはそう言うとしゃがみ込み、
「君たち、人生に悲観するんじゃないぞ。君たちはまだ若い。大きな可能性がある。努力すればなんにだってなれるさ!」
俺とティファを励ましてきた。
いい人だな、このおっちゃん。
「ありがとう。おじさん。僕……強く生きるよ!」
「なにが『僕』だ。只人族は本当に欺くことに――むごもがぁ」
「うん。その意気だ! なにか困ったことがあったらおじさんを訪ねてくるといい。街の衛兵に『門番のジェイミー』といえば伝わるだろう」
そう言うとおっちゃんは俺の肩を叩き、立ち上がる。
「ではすまないが、街に入るのに一人銅貨25枚だ。心情的にはまけてやりたいのだが、規則でな」
「わかってるにゃ。その気持ちだけでじゅーぶんだにゃ。……はい、4人分で銀貨1枚ね」
チャノンが奴隷商のおカネで、人頭税を支払う。
「確かに受け取った。ああ、そうだ。街に入るにあたって、ひとつだけ注意してほしいことがある」
「なんにゃ?」
「実はな……」
おっちゃん――ジャイミーは声のトーンを落とし、続ける。
「最近、街にデーモンが現れるという噂がある。真相は調査中だが、街の中にいるからと油断せず、警戒を怠らないでくれ。……それとも街に入るのはやめるかい? いまなら人頭税を返せるけど?」
「どうする、入るのやめるにゃ?」
チャノンの問いに俺は首を振る。
「おっちゃん、忠告はありがたいけどボクたちは入るにゃ」
「そうか。わかった。では……コホン。ようこそバーディの街へ。ぜひ旅の疲れを癒していってくれ」
その言葉を合図に門が開かれる。
おっちゃんに見送られ、街の中へ。
国で二番目に大きい都市だけあって、かなりの活気があった。
「カエデお兄ちゃん、街に入れてよかったね」
「そーだね。事前に話し合っておいてよかったよ」
街へ来る前、俺たちは自分たちの関係をどうするか事前に話し合っていた。
なんせ子供が2人に獣人とエルフだ。
怪しまれること必至。
まず見た目対策として、奴隷の服を錬金術で平民の服へ変える。
俺とティファは兄妹ということにして、チャノンとセフィーは保護者件護衛と設定を押し通すのみ。
セフィーの言動にさえ目をつむれば、概ね計画通りの結果だった。
「まずは宿を取ろう。今後の話はそれからだね」
「それなら門番のおっちゃんからおすすめの宿屋を教えてもらったにゃ」
「ナイス! なら今夜はそこに泊まろうか」
こうして、俺たちはこの日の宿を取るのだった。