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第2話 自己紹介をしよう

 けっきょく、全員が隷属の首輪を外してくれるよう望んだ。

 俺は全員の首輪を外し、自由にする。


 馬車で近くの町まで移動し、馬を売ったカネと奴隷商がため込んでいたカネを皆に均等に配った。

 ほとんどの人が感謝しながら去っていったんだけど……。


「……なんで君たち残ってるの?」


 只人族の幼女は幼女だから仕方ないとしても、獣人の少女に、なぜかエルフのお姉さんまで残っている。

 いったいなんでだろう?


「んじゃー、まずは君から。名前と残った理由も聞かせてもらおうかな」


 俺はずびしっと猫獣人の少女を指さす。


「んにゃ! ボクの名前はチャノンにゃ。ボクはおくびょーもの(臆病者)で寂しがり屋さんだから、ひとりで旅するのはイヤなんだにゃ。それになにより、子どもをおいて行くなんてできないしねー」


 獣人の娘改め、チャノンが答える。

 愁いを秘めた瞳は幼女と、あとなぜか俺にも向けられていた。

 続いて幼女は、


「ティファです! 8歳です! 馬車でおばさんのお家にいくところです!」


 と元気いっぱいに答た。

 奴隷商の馬車でどうやっておばさんの家に行くのかわからないけど、いまは後回し。

 最後にエルフのお姉さんからは、


「……わたしの名はセフィー。レ・リミの森のエルフだ。屑しかいない只人族の男とはいえ、お前には首輪を外してもらった借りがある。森に帰るのはお前への借りを返してからだ」


 との回答を頂いた。

 自分で言うのもなんだけど、恩人である俺を蔑んだ目で見るのはどうかと思うよ。


 故郷を失くした猫獣人チャノンと、ちょっとなに言ってるか分からない幼女ティファ。

 そして恩を返そうとしているエルフのセフィー。

 みんな個性が強いぜ。


「ねーねー、キミの名前はなんてゆーにゃ?」


 チャノンが訊いてくる。

 名前……名前か。

 俺は自分の名前があまり好きじゃなかった。


 というか、どちらかというと大嫌いだった。

 赤ん坊のときに捨てられた俺は、村長に拾われ『望まれぬ者』って意味を持つ名を与えられたからだ。


 かといって今さら昔の名を名乗るのもなんか恥ずかしいし……。


「ん? どうしたんだにゃ?」


 考え込む俺を見て、チャノンが首を傾げる。

 

「名前……名前ねー。うーむ」


 そう頭を悩ませていると、不意に名が浮かぶ。

 

「よっし、決めた」


 俺は首を傾げたままのチャノンに顔を向け、


「俺はカエデだ。カエデ・スメラギ」


 脳裏に浮かびあがった名を名乗ることにした。


「カエデしゅめらぎゅ――ふにゃ~ん。呼びにくい名前にゃ~」


「スメラギは家名だから、カエデでいいよ」


「カエデにゃ?」


「そ、カエデ。よろしくな」


「よろしくにゃカエデ」


 チャノンと握手を交わす。


「よろしくね、カエデお兄ちゃん」


 ティファとも握手をし、セフィーにも手を伸ばしたところでプイとそっぽを向かれてしまった。悲しい。


「さて、一応確認だけど……3人ともひとまずは俺と一緒に行動するってことでいいのかな?」


「うん。ボクはカエデについてくにゃ」


「不本意ではあるがお前に借りがあるからな。返すまでは同行しよう」


 チャノンとセフィーの確認は取れたけど、問題はティファだった。


「ふぇ!? ティファはおばさんのお家にいくよ?」


「なあティファ、なんでおばさんの家に行くことになったんだ?」


「んとね、ティファね、おとさんとおかさんがいなくなっちゃってね、おばさんのお家にいくことになったの」


「……そうか。おばさんの家に行こうって言ったのは、さっき崖から落ちていった男?」


「奴隷商のおっちゃんは崖から落ちてったんじゃなくて、カエデに落とされたんだにゃ」


「しーっ。いま俺はティファと話してるの! ちょっと黙ってて」


「はーいにゃ」


「ゴホン。……それでティファ、聞かせてくれるかい? 奴隷しょ――じゃなくて、御者台にいた人相の悪いデブが『おばさんの家に行こう』って言ったのか?」


 俺の言葉に、ティファはこくんと頷く。


「うん。ティファね、『こじいん』てゆーところにいくところだったんだけど、おじちゃんがティファにおばさんがいるよって教えてくれたの。だからティファね、会ったことないけどおばさんのお家にいくことにしたの。ティファ……おばさんとなかよくなれるかなー」


「そうだったのか……」


 ティファの話を聞き、後ろのセフィーが露骨に舌打ちする。

 次いで、「これだから只人族は……」とも。


 僧侶憎けりゃハゲまで憎いじゃないけど、俺への視線が厳しいから居心地悪いったらないぜ。

 セフィーにはさっさと貸りを返してもらって、なる早で故郷にお帰りいただこう。


「ティファ、少し俺の話を聞いてくれ」


「ん?」


「ティファのおばさんのことなんだけどな……その話って、実はウソなんだ」


「ええーーーっ!?」


「ティファはあの男に騙されて、奴隷として売られるところだったんだよ」


「…………そうだったんだ。ティファ……おじちゃんにウソつかれてたんだ……」


 ティファがしゅんと落ち込んでしまう。

 あ、なんか目に涙が溜まりはじめたぞ。


 この勢いは決壊間近だ。

 さて、どうやって慰めようとか考えていたら、


「元気だ出すにゃんティファ!」


「チャノンお姉ちゃん……でも……」


「ティファはひとりぼっちなのが哀しいにゃん?」


「……うん」


「うんうん。ボクも寂しがり屋だからその気持ちはわかるにゃ。でもね、泣く理由にゃんてぜんぜんないにゃん。だって――」


 チャノンはティファの小さな手に自分の手を重ね、ついでに俺の手も取ってそこに重ねる(セフィーは俺たちから3歩分ぐらい距離を置いていたので残念ながらスルー)。


「いまはカエデとボクに、あとちょぴっと離れてるけどセフィーもいるにゃん。ティファはひとりぼっちなんかじゃないにゃん」


「チャノンお姉ちゃん……」


「ね? だから泣かなくていーんだよ。ねー、カエデー?」


「そこで俺に振るかよ。……うん、でもまー、チャノンの言う通りだ。いまティファの隣には俺たちがいる。だから泣くな。な?」


 ティファはぐしぐしと涙と鼻水を拭い、


「ん!」


 と大きく頷いだ。


「よし! 良い子だ」


 俺はティファの頭を撫でる。

 ティファは気持ちよさそうに目を細めたあと、俺を見あげる。


「カエデお兄ちゃん、これからティファたちどこかにいくの? それともこの町で暮らすの?」


「特に目的があるわけじゃないけど、ちょっと行きたいところがあんだよね」


「どこにゃ?」


 チャノンが耳をピクピクさせながら顔を近づけてくる。

 そっぽを向いているセフィーも、こっちに聞き耳を立てているみたいだ。

 こっちをじーっと見つめるチャノンとティファに、俺はこう答えた。


「バルマーズ王国の南にある交易都市バーディだ。多くの人が集まるあの都市なら、いろいろと都合がいいだろうしな」


 俺の言葉にチャノンとセフィーは目を丸くし、ティファはきょとんとしていた。

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