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第1話 蘇る記憶

 それは、俺がガタゴトと荷馬車に揺られているときのことだった。


「はうぁっ!?」


 山道を進む馬車の車輪が石を踏み、大きく揺れる。

 はずみで頭をしこたま打ち付けた俺。


 ズキズキと痛む頭を押さえ悶えていると、なんと前世の記憶が蘇ってきたのだ。

 しかも、前世どころか前々々前世ぐらいまで一気に。


「マジか……俺。俺マジか」


 ――あるときの俺は剣聖と呼ばれ、高弟達に剣を教えていた。


 ――またあるときの俺は大賢者と呼ばれ、邪悪な魔王を封印していた。


 ――そしてまたあるときの俺は白金の錬金術師(・・・・・・・)と呼ばれ、驚くことに伝説にしか出てこない賢者の石の生成を成功させていたのだ。


「うーん……」


 四代に渡って前世の記憶が蘇ったのは、まあいい。

 過負荷で脳がパンクしそうだったけど、それももう過ぎた。

 問題は……


「なんか、前世の記憶とスキルを引き継いでるっぽんだよなー」


 そうなのだ。

 剣聖だった頃の剣技と、賢者だったときの魔法。

 そして錬金術師としての知識と技能。

 その全てを再現できそうだったのだ。


「つまり……だ」


 俺は閉じていた目を開け、馬車のなかを見回す。

 鎖に繋がれた男たち。ドワーフのおっさんやハーフリングの青年。

 種族はみんなバラバラだが、共通点がひとつ。

 それは、ここの馬車に乗るみんなは奴隷で、おそろいの首輪をしてるってことだ。


 まあ、かくいう俺も村を野盗共に焼かれ、ひとりで途方に暮れていたところを野盗に捕まり、この馬車の持ち主である奴隷商に売られちゃったんだけどね。

 ただ、馬車の中でも特に目を引くのが、


「うぅ……奴隷はイヤにゃ……」


 涙を流す獣人の少女と、


「……?」


 未だ自分の状況が理解出来ていない只人族の幼女に、


只人族(ヒューム)め……」


 只人族に恨みを吐くエルフのお姉さんだろうか。

 3人ともかなり容姿が整っているから、きっと高額で取引されることだろう。

 ……そう。このままならね。


「ふむ」


 俺は自分の首輪に触れてみる。

 この首輪は『隷属の首輪』と呼ばれるマジックアイテムだ。


 隷属の首輪に主人として登録された者は、首輪をつけている者に命令を強いることが出来る。

 命令を拒否すると激しい痛みが全身を襲うため、主人の命令には決して逆らうことができないクソ仕様ときた。

 ホント、最低なマジックアイテムだと思う。


「おいクソガキ、さっきからなにをひとりでブツブツ言ってやがる。俺様はうるさい奴が大っ嫌いなんだ。次しゃべったらぶん殴るからな。覚悟しとけよ」


 御者台に座る奴隷商が、こっちをふり返って言う。

 すごんでいるつもりなのか、俺を睨みつけていた。


「ったく、さっきまでメソメソしてるかと思えば急にブツクサ言いやがって。頭がイカレちまったのかぁ? あぁ~ん」


 奴隷商が挑発してきた。

 確かに記憶を取り戻す前の俺は絶望し、ただ涙を流すだけだったさ。

 でもいまは違う。


 記憶を取り戻したいまの俺は、余裕しゃくしゃくだったのだ。

 だって――


「解析開始……解析完了。ほい解除っと」


 俺は無造作に隷属の首輪を外し、う~んと大きく伸びをする。

 なんてことはない。

 錬金術師としての知識と術式を使って外したのだ。


「んなっ!? おいガキ! なんで首輪が外れてるっ? いいい、いったいどうやって外したんだ!?」


「この隷属の首輪はシンプルな魔法術式でできているからね。解除するのは簡単だったよ」


「なにをわけわかんねぇこと言ってやがる! テメェは俺様の奴隷なんだ! 勝手してるんじゃねぇぞ!!」


 奴隷商は馬車を停めると、俺に近づき殴りかかってきた。

 例え隷属の首輪が外れても、俺の両手足は枷がつけられている。

 それに12歳のガキンチョなんか、腕力だけでどうにでもなると思ったんだろう。


「なに言ってやがる。勝手なのはアンタの方だろう」


 俺は意識を集中させ、体内に気を巡らせる。

 これは剣聖だったときのスキルで、気を使うことで身体能力を大幅に上昇させることができるのだ。


「よっと」


 俺は両手足の枷を力任せに引きちぎる。


「はぁつ!?」


 そして目を見開く奴隷商を逆にぶん殴ってやった。


「ぶひょはぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ――――――…………」


 だいぶ手加減したつもりだったんだけど、奴隷商は荷馬車の幌を突き破ってぶっ飛び、そのまま崖から落ちていってしまった。

 いけないいけない。ここが山道だってことを忘れてたぜ。


 まー、下には川が流れてるから、運が良ければ助かるだろう。

 その辺は日ごろの行い次第ってことで。


「んー、力加減が難しいな」


 俺はしゅっしゅと拳を振ってみて調子を確かめる。

 まだ12歳で体が出来上がっていないから、剣聖のスキルを使うときは気をつけないとだな。


「さてっと」


 俺は荷馬車に視線を向ける。

 荷馬車に乗っている誰もが、呆然とした顔で俺を見ていた。

 俺はにっこりと笑い、


「隷属の首輪を外してもらいたい人は手をあげてね」


 と言うのだった。

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