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第10話 予期せぬ再会

 俺とティファが魔術師ギルドの一員になった帰り道のことだった。


「見つけたぞぉぉぉ! このクソガキ共がぁぁぁっ!」


 突然、背後から怒声が聞こえてきた。

 振り返ると、そこには謎の小太りおじさんが一人。

 いったい誰だろう?


「ん? 俺たちのこと?」


「そうだ! テメエらのことだっ! 奴隷のガキがっ。この俺様から逃げきれると思ったか!」


「奴隷? ……ああ、どっかで見たことあると思ったら奴隷商のおっさんか」


 声をかけてきたおっさんは、俺たちに隷属の首輪をはめた奴隷商だった。

 不幸が重なって谷底に落ちていったときはどうなることかと思ったが……うん。どうやら無事だったようだな。


 悪運の強い奴だ。

 再会したくはなかったけど。

 ただ奴隷商が落ちていった場所からここまではかなり距離があるのに、どうやってきたんだろう?

 川の下流がこの街の近くにあったのかもな。


「おいクソガキ! テメェだけじゃなくてなんでそっちの――」


 奴隷商がくいとあごでティファを指し示す。


「ガキも隷属の首輪が外れてんだ?」


 奴隷所は怒りで目を血走らせている。

 ティファは奴隷商が怖かったのか、俺の背に隠れてぎゅっと服の裾を握っていた。

 俺はティファを安心させるよう頭を撫でる。


「決まってるだろ。俺が首輪を外したからだよ」


「んなっ!? はず、外しただと?」


「簡単だったぜ。次に隷属の首輪を使うときはもっと質のいいヤツにしとくんだな。ま、アンタに『次』があればだけどね」


 奴隷商にとって奴隷は財産。

 目の前のコイツは、その財産を丸々失ったことになる。


「ま、待て! それじゃあのエルフ(・・・・・)は――あのエルフはどうしたっ? あの純潔のエルフはぁっ!!」


 奴隷商のおっさんが、ツバを飛ばしながら叫ぶ。

 てか、セフィーってあんなツンツンして偉そうなのに純潔だったんだな。

 思わぬところでプライベートな情報を知っちゃったぜ。


「アンタの言うエルフって、ひょっとしてセフィーのことか? あの口と性格が悪い」


「そうだ。そいつだ。まさか外しては――」


「もちろん外したぜ。セフィーだけじゃなく、馬車に乗ってた全員な」


「…………」


 よほどショックだったんだろう。

 奴隷商のおっさんが膝から崩れ落ちてしまった。

 やがて、みるみるうちに顔が赤くなっていく。


「ふざ――ふざけるなっ!! あのエルフは純潔だったんだぞ。もう買い手もついていたんだぞ! 売ればいくらになったと思ってる! テメエの何百倍も――何千倍も、何万倍も価値がある奴隷だったんだぞ!! それを――それを――」


「ふざけてるのはアンタの方だろ」


「なにぃ?」


「馬車にあった奴隷証明書を見たぜ。よくもまあ……ああもえげつない嘘をつけたもんだな。あの馬車に乗ってたのは全員が無理やり奴隷にされた奴ばかりじゃないか。もちろん俺と、ここにいるティファも含めてな」


「っ……」


「書類はほとんどが偽造。『共用語』で書かねばならないサインにはなぜかエルフ語やら北方語で書かれているものもあった。正規の手続きを踏んで手に入れた奴隷は一人もいない。いっそ清々しいクズっぷりだな。なあアンタ、知ってるか? 証明書の偽造は重罪だぜ。国によっては縛り首だ。商人ギルドに知れても追放は免れないだろうよ」


「だ、黙れ! 黙れ黙れ!! テメエらは俺様の奴隷なんだ。俺様の商品なんだ。奴隷の分際で主人である俺様に逆らうんじゃねぇ!!」


 奴隷商がわめき散らす。

 おかげで周囲の注目を集めまくってるぜ。


「なにが主人だ。笑わせるな」


「なんだと?」


「俺らが奴隷でアンタが主人だって言うなら、それを証明してみせろよ。もち、俺が燃やした偽造証明書なんかじゃなく、ちゃんとした証明書でな」


「ぐぬぬぬぬぬ……」


 奴隷商のおっさんが怒りで全身をプルプルさせている。

 生まれたての子ヤギかっての。


「さてどうする? このまま続けるかい? これだけ注目を集めてるんだ。ほっといても街の衛兵がやってくるだろうよ。俺は当然アンタが違法な奴隷商だって説明させてもらうぜ」


「衛兵だと? ククク……やっぱガキだな。テメエらみたいな親なしのガキの言う事をいったい誰が信じる。身分証は持っているか? 身元を保証する大人はいるか? ええ、どうなんだ? いないだろう。親も帰る場所もない孤児のガキの話なんか、誰も耳を貸さないんだよ! テメエらは俺様から逃げた奴隷。それが真実だ!」


 奴隷商のおっさんは勝ったとばかりに高笑い。


「一方で俺様はあの大商人ギルト『フート商会』の一員だ。孤児のガキと、フート商会の一員で、その上誠実な商人でもある俺様。さぁて、衛兵がどっちの話を信じるか楽しみだなぁ?」


 にたりと醜い笑みを浮かべる奴隷商。


「どっちを信じるか、ねぇ」


 俺は懐に手を入れ、さっき魔術師ギルドで手に入れたばかりのギルドカードを取り出す。


「胡散臭い商人と、魔術師ギルドに彗星の如く現れた無垢な天才少年。アンタが言うように衛兵がどっちの話を信じるか試してみるのも楽しそうだな」


「そ、それはまさか――」


「へええ。これが何か知っているようだな。腐っても商人ってとこか。……そうだよ。これは、」


 俺は奴隷商にも見えるようギルドカードを掲げ、続ける。


「魔術師ギルドに加入していることを示すギルドカードさ。様々な国やギルドに強い影響力を持つ魔術師ギルドのな」


「ティファももってるよ。ほら!」


 俺に続いてティファも『見習い』と書かれたギルドカードを取り出し、奴隷商に見せつける。


「そんな……魔術師ギルドだと……? バカな。偽物に決まってる……」


「信じるかどうかはアンタの自由だよ。それでどうする? 俺たちと一緒に衛兵を待つかい?」


 いつのまにやら周囲には人垣ができて、みんな遠巻きにこっちを見ている。

 人垣の向こうの方から「道を開けよ!」とか、「通らしてもらうぞ」とか聞こえてきたから、たぶん衛兵がやってきたんだろう。


「うぅぅ~~~~~」


 魔術師ギルドの一員である俺を相手にするには、不利と悟ったんだろう。 


「クソ。憶えていろよ」


 奴隷商が回れ右。

 衛兵が来る前に逃げようと人垣をかき分ける。

 そんな奴隷商を、俺は手をひらひらさせて見送った。


「悪いな。アンタみたいなクズを覚えておくほど暇じゃないんだ。じゃあなおっさん。せっかく拾った命を大切にしなよ」


「おじさんバイバーイ!」


 ティファが元気よくぶんぶんと手を振り、ナチュラルに奴隷商を煽る。

 なんて恐ろしい子なんでしょう。

 奴隷商はもう血管がブチ切れそうな顔で、


「このままじゃ済まさんからな! 絶対に――絶対にだ!!」


 と雑魚いセリフを残し、逃げるように去っていくのでした。

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