アンドロメダ /05
「お腹すいたね。」
マヤが言った。
腕時計を見る。12時を、少し過ぎた。マヤの時計はデジタル。ススムのは、多機能型のアナログ時計。
「こづかい貯めて、やっと買ったの。」
人に見せるのが初めてと、マヤが言った。
「まだ、来ないね。」
「今ごろ、先生が騒いでいるよ。」
ススムの話にマヤが笑った。
「本当かな。」
「お弁当。食べる?」
リックサックから、弁当を出したマヤ。
「ふたつあるね。」
マヤ。ハンカチにおにぎりをひとつ乗せて、仏さんに備えた。
ペットボトルのお茶も。
手を合わせる、ススムとマヤ。
上の穴を見るススム。亡くなってから、
「誰も来なかったんでしょうね。」
うなずく、ススム。
「少しですが、食べてください。」
マヤがアルコールのティッシュを出した。
ふたつの弁当を開けようとするマヤをとめた。
ひとつ、弁当を分けて食べる、ススムとマヤ。
おにぎりにタマゴ焼、ほうれん草にウサギさんリンゴ。
天井を見ている、マヤ。
「来てくれるかな?」
食べながら話すマヤとススム。
「来てくれるさ。今ごろ、騒いでいるよ。」
笑う、マヤ。
「あの先生。一緒だったらこんなことならなかったのに。」
「あの先生、いても、マヤさんの麦わら帽子、取りに行くよ。」
少しづつ食べるススム。
「リスになった気持ちだ。」
笑うマヤ。
タマゴ焼に手を出したススム。
「あま!」
「ススムさんとこ、しょうゆなんだ。」
「今後はしょうゆにするね。」
笑う。
「弁当、ふたつ作ったんだ。」
「好きな人、いるのか?」
赤くなる、マヤ。
「その人と一緒に食べられたらと思って……。」
「作ったの。」
「そうか。でも、その人も弁当持ってきたら?」
口に手を当てた。
「そうね。考えてなかった。」
「おいしいな。弁当。」
ライトの明かりの中で、赤くなる、マヤ。
「おふくろのよりうまいな。」
「本当?」
「ウン。でも、家では名前で呼んでいるんだ。」
ススムが。
「兄貴と俺、母親が違うから。」
マヤが見ている。
「俺、妾の子供だから。」
「オヤジが愛していたんだけど、会社の為に、結婚してね。」
「家を出て、働いていたところ、再開して。」
「今の家で、生活しているんだ。」
「そうなんだ。」
「何人かいる愛人のひとり。」
デザートのウサギさんリンゴを食べたススムとマヤ。
スーパーのゴミブクロに入れた。
「どうするの?」
「一応、置いていきますか。」
「ゴミのポイ捨てはダメですよ。」
怒ったふりした、マヤ。
「この奥。」
ライトが横穴を指した。
「出口あるかも。」
うなずく、マヤ。
ライトを手掛かりに進むふたり。
マヤのリックサックをススムがかついだ。
マヤは、ゆっくりと歩いている。
どれくらい歩いただろうか?
マヤが時計を見た。
「もう30分も歩いたね。」
「ああ。昼めしの時間も入れてな。」
赤くなって笑う、マヤ。
洞窟の中、ふたつに別れた。
ひとつは大きな穴。もうひとつは、少しづつ狭まっている。
ライトで見た限り、穴の先は閉じていた。
ふたりは、右の大きな穴に進んだ。
ススム、目印のバンダナを石で重しにして。




