アンドロメダ /02
連休のある日。
県立高校の歴史研究会の親睦会が開かれた。
学校から高野の山のふもとまで、バスで来た学生達。
駅から登山に入る。
朝早くに出たバス。
正午前には、みんなで弁当を食べる予定になっている。
顧問の教師が先頭に立って歩いている。
体力のある学生達が顧問の教師と共に歩いていった。
何人かのグループになった歴史研究会。最後に、引率の教師と、女子学生達のグループ。その中に、坂上光がいた。
そのグループの中に、大和進と飛鳥麻耶が入っている。
マヤ、履き慣れない靴で歩いた為、靴擦れをおこしている。
三又路。教師と、女子学生達が待っている。
「来た来た。」
「遅いぞ!」
言う、教師。
ススムとマヤが追いついた。
「足手まといね。」
言う、ヒカル。
「先に行くからね。」
教師と学生達が歩き出した。
「エッ?」
ススムが、驚いている。
ため息をつく、ススム。
「あれが教師か。おやじと違い過ぎるな。」
言う、ススム。
肩に手を置いた、マヤ。
「行こうか。」
ゆっくりと登るふたり。
「俺のおやじ、よく山登り行くんだ。」
登りながら話す、ススム。
「おやじ、会社を経営していて、親子ハイキングするのが楽しみで、時々、社員と家族の山登りを楽しみにしている。」
「そんなとき、おやじ、しんがりを務めて、子ども達を励まして行くんだ。」
「最後の一歩を踏み出した子ども達の喜びったら。」
「おやじも、子どもみたいに喜んでな。見ている方が、恥ずかしいぐらいで。」
マヤが笑いながら、聞いている。
軽トラックが通れるような路。
多くの人達が、登っている。そして降りる人達も。
挨拶をする人達。
「ガンバッテ。」
言ってくれる人も。
路の横には、川が流れている。岩に、石に当たって、飛沫が上がる。
路の突き出した石から、水が落ちている。コップが置いてある。
「おいしい。」
マヤの声を聞きながら飲んだ。
ペットボトルに石清水を入れる。
「見せてみろ。」
靴を脱がしたススムは、靴下を取った。
血が靴下に張り付いている。
ガマンするマヤ。
「しみるぞ。」
石清水が足を洗って、薬をつけた。
「慣れているのね。」
「おやじがね。」
バンドエイドを貼って、新しい男物の靴下をはかせた。
石清水でタオルを濡らしたススム。マヤに渡した。
降りる人達が、アメをくれる。
「後、もう少しだから。」
言ってくれる人も。
学生さん達。山門にいたよ。言う人々。
マヤ、麦わら帽子を脱いで、顔を拭いた。
「私ね。」
話す、マヤ。
「私、ヒカルさんがうらやましいの。」
黙って聞いている、ススム。
「やけどの後なかったら私ももてたかも。」
黙っている、ススム。
今、ママの姉さんと居酒屋を経営している、マヤのママ。
父親とはうまくいかなくて別れたという。
小学生のとき、手伝っていたら、天ぷら油がかかって、やけどしたという。
「ママも、腕にやけどして、寒いのに、水をかけられたの。」
「かけられている中、ママ、誤っているのよ。」
「『ごめんね。ごめんね。』って。」
「病院に運ばれたけど、顔を残った。」
それから、クラスでもいじめにあったと言う。
「誰も聞いてないよ。」
ススムが。
「鳥さんが、ガンハレって、言ってるよ。」
涙が出てきた。
ハンカチを渡す。
「なんでらろう。」
「人に話したことないのに。」
「泣きなよ。鳥しか見ていない。」
マヤの横に座った。
「バカ。」
肩を押し付ける、マヤ。
「……。」
「ありがとう。洗って返すね。」
「いいよ。はじめて女の子を泣かした記念のものだから。」
「バカ!」
「行こうか。」
山から風が吹いて来て、麦わら帽子を持っていった。
「アッ!」
谷の中程で引っかかった麦わら帽子。
「取ってくるよ。」
ススムがリックサックから、ロープを出した。
「やめて! 危ないから!!」
木にくくりつけたロープをつたって降りる、ススム。
「大丈夫だよ。いつもしていることだから。」
見上げて言う、ススム。
ススムが麦わら帽子を高く上げた。
登るススム。
ロープが解けた。
「ダメ!」
マヤがロープを掴んだ。
「離せ!」
マヤがススムの上に落ちた。
落ちる、ススムとマヤ。
草がふたりを持っていく。
滑る、ススムとマヤ。
突然、地面がなくなった。
葉っぱの上に落ちて転がった、ススムとマヤ。
「いたい!」
「大丈夫か?」
マヤを立たしたススム。
「ここは?」
マヤはリックサックをしている。
ススムのは、穴の外。
「スマホ、ダメか。」
ススムが。
「レシーバーもダメだな。」
マヤが見た。
何故そんなものを? と言っている目。
「山じゃ、電話局届かない所多くてな。」
笑う、ススム。
ポケットから、ライトを出して回りを見る。
上から、光がこぼれている。
草が隠していた。
穴の中には、がい骨があった。
ススムに掴んだ、マヤ。
けものの骨もある。
「たくさんあるな。」
拝んだ、マヤ。服を着ているがい骨を見た。
「中学校だって。」
「アケミさんか。」
「もんぺに袴。戦争中の学生さん達かな。」
ライトの光が動いた。
壁を照らす。
「私達も、なるんかな?」
「大丈夫だよ。」
「俺、リックサック、水飲み場に置いてきたし。」
「今頃、お巡りさんが騒いでいるところだよ。」
言った。




